32.リリ、アペルのダンジョンを攻略する3
「それで、師匠。気になることってなんですか?」
淹れたてのお茶を手に、師匠に尋ねる。
休憩、との言葉通り、師匠はゆっくりするつもりのようで、封蜂を片づけた後は、枯れ枝を拾い、火を起こし、茶を沸かして一服している。
ちなみに、お茶は精神を落ち着かせる効果のある薬草が入っている。
師匠の庭で育てている薬草で、わたしがお茶にブレンドしたものだ。
「そうだねぇ」
師匠はうーん、と首を傾げた。
「ここはまだ六階だろ。
二人には悪いけれど、まず、この階層にあんなに封蜂がいるなんて思わなかったんだ」
「え!?」
「……?」
「あの量は、そうだね。少なくとも十三階以降で、巣を十個くらい同時に攻撃した時に出てくる量だと思っていい」
「!?」
「この階には巣はないと聞いていた。
なのに、あんなに量がいるのは、ダンジョンだからだと思っていた」
師匠はルークの言葉に首を横に傾げる。
「これまでに何度か来たことはあるけれど、こんな浅いところであんな量が湧いているのを見たことはないよ」
「なら――」
ルークが何かを言いかけ、師匠を見る。
師匠はルークの様子に頷いた。
「そう。もしかしたらスタンピードの可能性があるねぇ」
「えええー!」
スタンピードってあれでしょ。
昔、師匠が別の国で行き会って、すごく大変だったっていってたやつ。
ダンジョンからたくさんの魔獣が溢れてしまうんだっけ。
驚くわたしに、師匠は何でもないように言う。
「休憩が終わったら、下の階の様子を見に行ってこようと思う。
悪いけど、リリとルークは、先に二人でダンジョンの外に戻っておいてくれるかい」
ついていきたいけど、先に戻るようにってことはわたしたちが足手まといになる可能性があるってこと、だよね。
「外に戻って半日経ってもわたしが戻らなかったら、王都に戻って、ギルドの人間にこのことを伝えて欲しい」
「え!」
師匠の言葉に顔を上げると、師匠は真剣な目でわたしたちを見ていた。
「師匠、そんなに下の階は危険なんですか」
「何があるかわからないから、もしもの時のことを言ってるんだよ」
「……」
「大丈夫、危ないと思ったら引き返すし、様子を見るだけだ」
「わかりました。けど、ぜったい戻ってきてくださいよ」
「ああ。スタンピードは一人でどうにかできるもんじゃない。わかってるよ。
それにここに来るまではなんともなかったけど、もう上の階にも異変は出てるかもしれない。
二人とも、できるだけ戦闘は避けて戻るようにね?」
「……はい」
「わかりました」
休憩を終えると、師匠は再度わたしたちに注意して戻るようにというと、下の階へと向かった。
わたしは、ルークにも《気断》をかけて、ここまで来た方へと戻ることにした。
けれど、なかなか上の階に戻る階段が見つからない。
どころか、木の並びがさっき通った場所と同じ気がして、立ち止まった。
数秒遅れてルークも立ち止まる。
「ね、さっきもここ通った気がするんだけど?」
「そうだな」
「だよね……?」
迷ったのだろうか。
でも、ここまで迷うようなところはなかったはずだ。
どういうこと?
ルークも、よくわからないみたいだ。
もしかして、幻影鹿の魔法にかかってしまったのだろうか。
もしそうなら、戦闘は避けろと言われたけれど、幻影鹿を倒す必要がある。
「リリ、あれ」
ルークが奥の方を指している。
「何?」
見ると、木立の向こうに金色の輝きがちらりと見えた。
「なに、あれ…?」
「さっきはなかったよな」
「うん。見に行ってみる……?」
「戦闘は避けろって言われてたけど」
「でもあれのせいで出られないのかも」
「……たしかに。なら、見るだけいってみるか」
そうして、わたしたちは林の中に向かった。




