31.リリ、アペルのダンジョンを攻略する2
わたしは師匠たちと一緒に、アペルのダンジョンの六階に向かっていた。
アペルのダンジョンで本格的に素材を回収しようとすると六階以下に潜る必要がある。
五階までは戦闘は難しくないけれど、封蜂は単体でしか出ない。
毒針や毒袋は一体からひとつしか取れない。
量が必要だからたくさん狩る必要があるんだけど、封蜂が複数体で出始めるのは、六階以下だ。
それに、錬金術師から人気がある、封蜂の蜜や蜜蝋が取れるのは十階以下。
師匠はそこまで潜るんだろうか。
うん、きっと潜るよね。
十階以下はこの間森で出会った針熊や、解毒薬を作ってきた茶毒蛇も出現する。
封蜂の巣を採取しようとして、巣にいる山ほどの封蜂とか女王封蜂と戦っていると、後ろから他の魔獣に襲われた、なんてことはよくあることらしい。
それを考えると、このダンジョンが不人気というのもうなずける。
もうすぐ六階なのに、ここまで誰とも会わなかったもんね。
でも、このダンジョンが忘れ去られないのは、このダンジョンにしかない魅力的なアイテムが取れるからなんだよね。
銀桂樹の実と金桂樹の実は、このダンジョンの十三階以下でしか取れない。
銀桂樹の実は、銀のアペル、金桂樹の実は金のアペルとも呼ばれて、このダンジョンの名前の由来になるほどのものなんだって。
見た目が宝石みたいに美しくて、大昔は金のアペルは食べたら寿命が延びるとか言われていたみたい。
今は、金のアペルにそんな効果はないって証明されてしまったんだけど、その見た目の美しさから観賞用だったり、解呪系の錬金薬の材料としても重宝がられている。
今回、金のアペルを採取することができるかはわからないけれど、わたしも見れるといいな。
宝探しみたいでワクワクする!
「いいかい? リリも聞いてる?」
「はい! ちゃんと聞いてます!」
そわそわしていたら、師匠から注意が飛んできた。
今は師匠がこのダンジョンの注意事項を話してくれていたんだった。
わたしは前教えてもらったことだけど、ルークはこの辺りのダンジョンに詳しくもないし、師匠の座学でもまだやっていないことだったから、攻略するうえでの気を付けるポイントとかをもう一度話してくれている。
まだ先だけど、アペルの実を採取中は茶毒蛇にも襲われる危険もあるし、道中は幻影鹿に道を迷わせでもしたら出られなくなってしまうっていうことを師匠は話してくれていた。
「ったく、はしゃいでると、危ないよ」
そう言いながらも、師匠も笑っている。
「師匠ともダンジョンに潜れるの嬉しくて!」
「仕方ないねぇ。けど、もうすぐ六階だよ。ここからは浮かれてたら本当に危ないからね」
「はい!」
この辺は師匠とルークと三人でいて危険な生き物に行き当たることはないから、大目に見てもらえていたみたいだけど、六階は少し難易度も上がるし、師匠の声が厳しくなった。
わたしも、改めて気を引き締めなおした。
「わぁ…!」
六階からは景色も変わる。
それまでは草原だったのが、明るい林の中といった感じだ。
幻影鹿が出るようになるのも頷ける。
木々が無造作に生えているから、その分、死角も増えている。
なのに、封蜂は群れになってるんだよね。
しかも手間取ると仲間を呼ばれる仕様だ。
わ、さっそく六匹の集団が進行方向に飛んでいる。
「今度は、リリとルークの連携を見せてもらおうかね」
「はい!」
「わかった」
ここまでは、師匠は襲ってくる封蜂に対して、ルークとわたしに交互に倒すように指示して、指示された方が倒してきた。
「どうする?」
「この間みたいに、リリが先制で攻撃した後、俺がいく」
「じゃ、それで」
軽く打ち合わせて、戦闘を開始する。
「我が魔力を糧に、ここに雪原の女神の降臨をこいねがう。
卑小なる身に、その力の偉大さを示したまえ。
求めるは、大いなる慈悲のひとかけら。
女神の吐息よ、冷たき刃となりて、我が敵を貫きたまえ!」
先ほどの反省を生かし、先に詠唱を行っておく。
待機させた状態でルークを見ると、ルークはひとつ頷くと先行した。
よっし、いいかな。
「《氷刃》」
出現した三つの氷の刃が、封蜂を三体切り裂き、その体を切り口から凍らせた。
残りの三体がわたしをターゲットにして、警戒したように羽音を鳴らす。
そこで、ルークが飛び出して、一閃。
二匹がぽとりと地に落ちた。
あと一匹。
ルークが離脱したタイミングで、わたしが《風刃》を放つ。
「《風刃》」
命中し、無事、全部倒せた。
「やったね!」
今度は、最後にわたしが倒したもの以外から毒袋も採取できる。
ルークと二人で毒針と毒袋を採取して戻る。
「これなら大丈夫そうだね」
「というと?」
「スムーズに進むために、この辺りの封蜂を一掃しようかと思ってね」
「?」
疑問を口にする前に、師匠はとっても綺麗な笑みを浮かべた。
「無理そうだったらサポートに入るから、ひとまず二人がどこまでやれるか見せてもらうよ」
そうして、遠くを飛んでいた別の群れに、師匠が魔法を飛ばした。
あれは光魔法の《竜笛》。
光の尾を引き、甲高い音を立てて飛んでいく。
そうして着弾点で軽く爆発を起こした。
《竜笛》は、おおむね遠くにいる魔獣からターゲットを取るためとか、もうちょっと威力を強くすると集団戦でのかく乱に使えたりもする。
けど今回のは、ぜったいそういう使い方ではない。
群れの中央で起きた爆発に、五匹の封蜂は戦闘モードだ。
羽ですごい警戒音を出しながら、《竜笛》が飛んできたこっちを見ている。
あれってもしかして、仲間を呼んでる……?
「ほら、急がないとこのフロアの全部の封蜂がやってきてしまうよ」
師匠の言葉に、ルークが駆けだした。
わたしも慌てて後を追う。
魔法の射程に入るとすぐさま《風刃》を撃ち込む。
けど、仕留められたのは三匹だけ。
もう一発!
「《風刃》」
けれど残っていた二匹には避けられてしまった。
ルークが警戒音を出している封蜂のところへと辿りついた。
そうして飛び込むようにして、残っていた二匹を仕留めた。
けれど、遅かったようだ。
四方から、うなるような羽音が聞こえる。
「まじかよ」
ルークの声に見渡すと、数百匹はいると思われる集団がこっちに向かってきている。
《風刃》で撃ち落とし、ルークもどんどん仕留めているが、らちが明かない。
一匹一匹なら対処できるのに、集団でこられると、難しい。
小刻みに魔法を連発して防いでいるが時間の問題だ。
「ルーク! 大きいの一発行く。詠唱がいるから、それまで援護をお願い」
「……わかった!」
黒い煙の塊のように密集した封蜂の集団が向かってきている。
ルークが突撃してくる第一陣を落としてくれている。
あれ、きっと刺されてるよね。
わたしも、ルークが仕留めきれなかった封蜂に何か所かさされてしまう。
痛いけれど、解毒薬は作ってきたし、まずは、この群れを何とかしないと治療もできない。
痛みか、緊張化、呼吸が乱れている。
だから、無理矢理に深い息を吸って、息を吐く。
いつもの呼吸法でむりやり落ち着けた。
「我が魔力を糧に、ここに偉大なる風の神の鱗片を示したまえ」
ルークがわたしの方に向かってきた封蜂を切り落とす。
「求めるは、大地を駆け巡る自由な羽ばたき」
続いて十匹ほどの群れが後方から襲ってくる。
これもルークが対応。
「っく」
小さく呻き声が聞こえた。
ルークも封蜂の攻撃を受けまくっていて、大分限界みたい。
急がないと。
「縦横無尽、全てを薙ぎ払い、我が敵を払いたまえ!」
今度は殺気と同じくらいの群れが前後同時に突撃してきた。
よっし、できた!
「《風ノ嵐》」
魔力がごっそり持っていかれる感覚と共に、わたしとルークがいるところを中心に風が渦を巻いていく。
最初はそよ風のようだったそれは、だんだん多くの風をはらみ、強さを増していった。
封蜂を巻き込み、《風ノ嵐》は回転幅を大きくしていく。
それに比例して、暴れまわる風の制御を握るのがだんだん難しくなる。
わたしの魔力も減り続けているけれど、ここで制御を離してしまうと、わたしたちまで飲み込んでしまいとんでもないことになるから、何があっても制御は手放せない。
《風ノ嵐》は、封蜂を巻き込みすぎて、その風の色を黒く変えている。
全部、巻き込めているだろうか。
たくさん封蜂が飲み込まれていることは見えるんだけど、どこまでの範囲まで力が及んでいるのかは見えないのだ。
わからない。
視界の端で、ルークも警戒態勢を解いていない。
きっとまだ残っていた時のことを考えているのだろう
「これ、上に抜けるようにもってくから、残りが突撃してきたらお願い」
「わかった」
ルークに言いながらも、制御の限界を感じる。
回転する嵐を、上に抜けるように持っていく。
「えいやー!」
投げるように持ってくと、《風ノ嵐》は、その渦を解きながら空へと消えていった。
ボトボトと《風ノ嵐》に巻き込まれて、息絶えた封蜂が落ちてくる。
そっちは問題ない。
問題は、《風ノ嵐》に巻き込まれなかった封蜂。
見渡すと、まだ百匹以上の集団が三つくらいの集まっている。
どうしよう。
ルークは臨戦態勢だけど、息が荒い。
わたしもだけれど、早く解毒薬と回復薬を飲んだ方がいいと思う。
全部倒すまでもつだろうか。
「私も参加するよ」
せん滅するにはどうしたらいいか、考えていたところで師匠の声が響いた。
「師匠?」
「マヤさん?」
いつの間にかそばに来ていた師匠が足を踏み出す。
「頑張ってたところ悪いけれど、ちょっと気になることができたし、さっと終わらせるよ。いいね?」
「お願いします!」
返事をすると、師匠が頷いた。
「渡しておいた回復薬と解毒薬、飲んでおきな」
言われて、慌てて取り出して、回復薬と解毒薬を口にする。
その間にも師匠の魔法が発動した。
「《氷の矢》」
一瞬でたくさんの氷の矢が中空に生成され、発射される。
生成されたあまたの氷の刃は、封蜂に向かっていき、一体一体を貫いていく。
貫かれた蜂は体を凍らせながら地に落ちた。
何度かそれを繰り返すと、近くから蜂の姿が見えなくなった。
「これで終わりだ」
ぱんぱんと手を払った師匠に、ぐぅっと脱力する。
力の差を見せつけられた気分。
わたしたちだとあんなに苦労したのに。
「素材を採取したら休憩でもしようか」
「……はい!」
片付ける前に、わたしは魔力回復薬も追加で一本飲んだ。
甘い味わいに、尽きかけていた魔力がゆっくりと回復されていく。
ルークも解毒薬を飲んだのか、呼吸が落ち着いていた。
その後は師匠に言われるまま、封蜂の毒と毒針を採取を行った。
わたしが倒したのは、《風ノ嵐》に巻き込んだせいで状態が良くないけれど、師匠が凍らせた封蜂だけでもかなりの量がある。
一通り採取が終わると、一箇所に集めてわたしの《火炎撃》で燃やす。
そうして、ようやく休憩となった。
アペルのダンジョン
一回から五階 封蜂単体
六階から十階 封蜂(複数)、幻影鹿
十一階から 封蜂の巣がある、女王封蜂、幻影鹿、針熊
十三階から 銀桂樹と金桂樹の実がとれる
十五階 ボス




