30.リリ、アペルのダンジョンを攻略する1
聞いていた通りアペルのダンジョンまでは、師匠の家を出発して三日かかった。
街道を南に下り、二日目の昼過ぎくらいに見えてきた街道の分かれ道に入る。
そこから約一日。
街道から分かれた道の果てにある低い山のふもとにアペルのダンジョンはその入り口を開けていた。
五十メルほどの大きな入り口が遠目にも確認できる。
入り口の周りには雑草が生えていて、王都のダンジョンと違って誰も管理していないというのは一目見て明らかだった。
夕方にはまだ早い時間に到着したため、ダンジョンの前で一泊してから中に入る。
わたしの加護のこととか不確定要素もあるから、ということみたい。
翌朝。
日が昇る前に起き出して、ダンジョンに潜る。
アペルのダンジョンは十五階層にわかれていて、五階までは草原エリアになっている。
ダンジョンの中に昼夜はない。
一階はのっぺりとした青い空が、草原に広がっていた。
遠くにちらほらと封蜂が飛んでいる。
五階までは、封蜂と草原兎しか出ないはずだ。
六階から、幻影鹿が出始める。
不人気ダンジョンだけあって、中には誰もいないみたいだった。
「まずは、二人が封蜂にどんな感じに対応するのか、見てみようか。
まずはリリから!」
「はい!」
探索の魔法を飛ばすまでもなく、離れたところを〇.五メルほどの大さの封蜂が、特に群れることなく飛んでいる。
けど、草原兎もいるし、一応《風索》を使って、隠れている魔獣がいないか、不意打ちをもらわないように注意して進める。
素材の採取のことを考えたら、風魔法より氷魔法の方がいいだろうか。
使う魔法を考えながら封蜂の背後から音をたてないようにして近づく。
なのに、まだ距離があるのに気が付かれてしまった。
「なんで!?」
けど疑問に思ってる暇はない。
臨戦態勢に入った封蜂が襲ってくる。
毒針をこっちに向けて体当たりしてくる蜂を転がってかわす。
詠唱してる時間はない!
仲間を呼ばれる前に倒さないと!
通り過ぎた封蜂に向かって咄嗟に風魔法を放つ。
「《風刃》!」
風刃は封蜂の体を両断し、ぽとりと地に落ちた。
一撃でとどめをさせたようだ。
まわりを見まわし、今の戦闘でこちらに向かってくる魔獣がいないか確認すると、倒した封蜂を見に行く。
縦に両断しちゃったから、封蜂の毒は回収できなさそう。
倒した封蜂の確認をしてる間に、師匠とルークがそばに来ていた。
「まぁまぁかねぇ?」
「ダメダメじゃなくてですか?」
「気付かれてしまったのは残念だけど、一撃で仲間を呼ばれる前に倒せたのはよかったんじゃないかい?」
「本当は氷魔法使うつもりだったんです」
「余裕があればそっちの方がいいだろうね」
「あと、なんで気付かれたのかわかりません」
「蜂だから、私たちと視界が違うんだよ」
「あー!」
そういえば昔教えてもらったことがあるかもしれない。
一通り封蜂の確認をして、毒袋はやっぱり回収できず、毒針だけ回収。
「恵みに感謝を」
簡易的なお祈りをして、立ち上がった。
封蜂の体は燃やしてもいいけれど、このままにしておくと一晩くらいでダンジョンに吸収されるのだ。
「そういえば、何かかわってましたか?」
わたしの加護がどう影響するのか、それもここに来た目的の一つだったはずだ。
けれど師匠は残念そうに首を横に振った。
「リリが魔法を使うところを見ていたけど、地上と何も変わらなかったよ」
「なら、次はタリスマン外してやってみますか?」
「いや、今はやめておこう。何が起きるか分からないから、先にモーゼスから言われたアイテムを回収してまわってからがいいだろう」
「わかりました」
頷くと、師匠はルークに向き直った。
「さ、次はルークにやってもらうよ」
「ああ」
ルークは無造作に大剣を抜くと、少し離れたところにいる封蜂に向かっていった。
「え!」
「おやまぁ」
突進から、封蜂がルークに気がついて方向を変え、体当たりの態勢を整えたところで大剣を一閃。
頭部と胴体が綺麗に両断された。
鮮やかな狩りの腕だった。
毒袋は綺麗に回収できそうだ。
実際、ルークに近寄ると、ルークは倒した封蜂から綺麗な毒袋を取り出しているところだった。
「問題なさそうだねぇ」
「群れてても二、三匹なら一人でいける。毒袋はどうする?」
「預かっておこうか」
そして、毒袋は師匠のアイテムボックスにしまった。
「今回集めた素材は王都に戻ったら、遠征で必要になった食料とか回復薬の金額を引いたら三人で頭割りにするからね」
「え、いいんですか!?」
ルークも驚いた様子だ。
「攻略は三人でするだろう?
そういうのがもとでパーティのトラブルになったりもするし、私はいつも均等に割るようにしてるよ。
二人も気を付けなよ」
「はい!」
「わかった」
「じゃ、二人とも大丈夫そうだし、ひとまずもうちょっと奥にいって先に素材回収をしてまわろうかね。
もうちょっと奥に行くよ」
そうしてさっさと先に進む師匠について、わたしはダンジョンの奥に足を踏み入れた。




