28.リリ、モーゼスさんと面談する
それから、ルークは驚異的な回復力を見せ、二日ほどで起き上がれるようになった。
そのことをギルドに伝えたところ、ギルドの人が話を聞きにくるということになった。
ルークのところにギルドの人が話を聞きに来るときには、わたしもまた何か言われるかと緊張したけど、そんなことはなかった。
それに、聞き取りもスムーズに終わったようだ。
ルークはあんなに苦しんでたのが嘘みたいに、聞き取りが終わっても疲れた様子は見えなかった。
そのうえ、ギルドからの聞き取りが終わるなり、すぐにわたしに手合わせに付き合って欲しいって言うんだもん、驚くよね。
そんなにすぐ動いて大丈夫かなって思うんだけど、何日か寝込んだだけでも大分筋力が落ちるらしくて、すぐに動きたいみたい。心配するわたしに、ルークはさっさと師匠に許可をもらいに行っていた。
師匠的には病気じゃないし、動けるようになったなら、何をしても全然問題ないらしい。
そうして手合わせすることになったんだけど、ルークは病み上がりのはずなのに、わたしが護身用に習った棒術なんかじゃ太刀打ちできないくらいに強くて、本当に筋力落ちたの?って感じ。
今はわたしが威力を弱めた魔法で攻撃して、ルークは木刀を使って手合わせをしている。
それだと、私も威力を絞る練習になるし、お互い実りが多い修練になっている。
ルークが話を聞かれてから十日ほど経って、ギルドから呼び出しの手紙が届いた。
「どんな話でしょう? 明日来て欲しいってありますよ!?」
「想像もつかないけど、まぁ、覚悟はして行こうか」
「ひぃぃ! ギルド永久追放とかじゃありませんよね!?」
「これくらいのことで? そうなったらちゃんと取りなしてあげるよ」
師匠はありえないって反応だけど、そんなのわからないもん。
ルークは、最初あんなに驚いていたのに、今は騒いでも仕方ないって感じわたしと師匠のやりとりを見ている。
「まぁ、呼び出しを無視するわけにも行かないし、書いてある通りに明日ギルドへ行くよ」
師匠も同席してくれるようだ。
それがすごく心強い。
翌日、師匠とルークと三人でギルドへと出かける。
ギルドはいつもより少し人が多い気がしたけれど、受付にいくと、すぐに以前も案内された応接室に通されてしまった。
少し待っていると、ギルドマスターのモーゼスさんがやってきた。
師匠とルークと三人でモーゼスさんと向き合う。
「ふぅ、わざわざ来てもらって悪いな。
そっちの坊主は昏睡状態って聞いてたが、元気になったんだな」
「ああ。ルークだ。マヤさんがいなきゃ、戻ってこれなかった」
「マヤは腕がいいからなぁ」
モーゼスさんはそう言うとどかりと座って、わたしたちにも座るように言う。
その様子から、たぶんこれは、怒られる流れではなさそうだと、少し安心した。
「それで? なにか進展があったのかい?」
師匠が言うとモーゼスさんがうなずいた。
「あぁ、そうだ。今日はその件で来てもらった。
まず、ダンジョンについてだが、組み換えが終わった」
「へぇ?」
「ギルドから高ランク冒険者にダンジョン踏破を依頼して、既に踏破済だ。
いくつかわかったことがある。
まず、階層が、十階層に増えた。
次に、もともとのボスだった暴走猪が火炎猪に進化して五階の中ボスになった。
十階にいるダンジョンボスは炎の鷹だ。
ついでに、えぐれていた五階の床も修復されてたそうだ」
「へぇ」
火炎猪というと、Bランクの魔獣だ。
前倒した針熊よりもワンランク強い魔獣になる。
火炎猪の出す火炎は、暴走猪より強くなるし、何より火炎猪の出す炎は、戦闘状態に入ると周りの温度をだんだん上げていく。
なのに見た目は、その身にまとっている炎の状態以外は暴走猪とそう変わらない、やっかいな魔獣だ。
そっか、わたしたちも、暴走猪と思って火炎猪に挑んでたし、だからあんなに苦戦したんだ。
「ああ、あと、そっちの弟子たちが持って帰ってきた岩山のダンジョンの元ボス。
あれも、鑑定に見せたら火炎猪だったそうだ」
あれ、でも、それは、つまり、どういうことだろう?
ダンジョンの組み換え前に、ボスだけ強くなってたってこと?
疑問に思っていると、モーゼスさんがまさにそのことを口にした。
「ということで、岩山のダンジョンのボスは、ダンジョンの組み換え前から強化されていたっていうのは確実だ。
岩山のダンジョンの元ボスについては、マヤんところの弟子たちが潜る前から強すぎるという声は出ていた。
記録を調べたら、いつもならちらほらいる岩山のダンジョンの踏破者が二週間でていなかったしな。
もしかしたら、その頃からボスが進化していた可能性もある。
けど、その理由はというと、さっぱりわからん」
師匠は難しい顔をして考えこんでいる。
「状況から言うと、その二人のダンジョン踏破が原因で、ダンジョンの組み換えが起こった、といえる。
けれど確証はない。
もしかしたら、ダンジョンの組み替えが起こりそうなところで、二人の攻略が重なっただけなのかもしれん。
それでも、なんでボスが強化されていたかはわからんし、通常ダンジョン組み替え前に見られるスタンピードもなかった理由もわからん。
今回の組み換えはわからないことが多すぎる」
「あぁ」
「だから、考慮することが多すぎて判断できん、というのがギルドの判断だ」
そう言って、モーゼスさんは、わたしとルークに視線をむけた。
「ということで、原因が解明される、もしくは二人の問題が解消するまで、二人に関しては王都のダンジョンへの立ち入りは禁止させてもらう」
「えええええ」
「……」
「ふむ、まぁ妥当だねぇ」
「師匠……」
驚くわたしと、無言で反応が見えないルークを横目に、師匠は納得した様子だ。
「結果として、ダンジョンが強化されて今回はいいことが多かったが、何が原因かわからないことには、次もうまくいくなんて保証はないわけだ。
なんで、ギルドとしては、不確定要素を排除するしかない。
ダンジョンの前にいる職員にもこのことは通知してるから、行っても無駄だと思ってくれ。
前みたいに、ダンジョンの裏側にいったりもするなよ」
モーゼスさんがわざわざわたしを見て言う。
ルークは、不審な顔でわたしを見てるし。
こう正面きって釘をさされてしまえば、わたしも従うしかない。
「わかりました!」
「その返事が聞けてよかった」
モーゼスさんもほっとした表情だ。
ここではいと返事をしなかった場合、どうなっていたんだろう。
怖すぎる!
「じゃ、話は以上だ」
「わかったよ」
「あと、悪いがマヤ、少し話がある」
モーゼスさんは師匠を見た。
師匠は首を傾げている。
「長くかかるかい?」
「いや、すぐすむ」
「わかった。なら、二人は先にフロアで待ってな」
「わかりました」
そうして、ルークと二人部屋を出た。
応接室を出て、ギルドのフロアに出ると、ギルドの中は、さっきよりもさらに人が増えていた。
岩山のダンジョンの組み換えが終わったことと、なんでか理由はわからないけど、ダンジョンが強化されたことをギルドが発表したみたい。
その発表を聞きに来た人たちで盛り上がっている。
中級ダンジョンに行けるものの、安定して攻略するには実力が足りない人たちが喜んでいる。
全部は踏破されていないから、浅い階層にもぐる冒険者も有力な情報があれば買い取ってもらえるし、さらに、ボスが炎の鷹に変わったっていうのも大きいみたい。
炎の鷹は、その素材が魔道具にも使えるから、羽とかの素材を傷つけないように綺麗に狩れるなら稼ぎも大きいもんね。
初心者向けのダンジョンっていうには少し難しくなってしまったけれど、それも五階くらいからみたいだし、暑さ対策をすれば、火炎猪も暴走猪より少しだけ難易度があがるくらいの違いだ。
わたしたちはあんなに苦戦したけれど、前情報があってもっと準備をしていたら、きっとわたしたちももっと戦えていたと思う。
ちょっとだけ複雑な気持ちで攻略情報を大声で楽しそうに話しているパーティを、師匠が戻るまでルークと共に眺めていた。
帰り道。
王都の外門をくぐっても、わたしの元気はでないままだった。
ルークと師匠は、黙って歩いている。
ルークもわたしと同じで元気がなさそうだけれど、師匠の機嫌はそう悪くはない。
「あんまり落ち込まなくてもいいよ」
「えええ、何でですかー」
「リリは気がつかなかったのかい?」
「?」
本当にわかっていないわたしに、師匠がルークを見る。
ルークもわからないようだ。
師匠が、あんたたちもまだまだだねぇといいながら、にこやかに言う。
「モーゼスは、『王都の』ダンジョンには入るなっていったけど、他のダンジョンについては何も言わなかっただろう」
「ええええー!? そんな、いいんですか」
「実際、ギルド職員が立ってるのは、王都のダンジョンだけだしね」
でも、ダンジョンの裏にも近づくなっていわれるくらいなのに、本当にいいのかなぁ。
悩んでいると師匠が言う。
「実はね、わたしだけ引き留められたときにリリの加護をもう少し詳しく解析するように言われたんだよ」
「え!?」
「けど、実際にこの辺でリリが魔法を使うところを見ても、たいしたことはわからなかったんだ。
なら、もうダンジョンにもぐるしかない。
もしかしたら、ダンジョンの組み換えが始まるかもしれないけれど、ボスを倒すまではなんともなかったんだ。
ということは、トリガーはボスを倒すか、リリがそのタリスマンを外したことが影響してるかだろう。
その辺の確証が取れたら、二人の制限を取ってもいいって話だった」
けど、それだけの話ならわたしたちも聞いてよかったと思うのに、なんで師匠だけ、モーゼスさんは別に話をしたんだろう。
疑問に思ったけれど、それを聞く前に師匠が続ける。
「王都のダンジョンは機能が止まってしまうと困るけれど、近くにほとんど人がいかないし、依頼も出ないところがあるだろ?」
えっと、王都のダンジョン以外ってどこがあったっけ。
ほとんど誰もいかないし、依頼も出ないから、すぐには思い出せなかったけれど、思い当たるダンジョンが一つあった。
「王都以外のダンジョンっていうと、アペルのダンジョンとかですか?」
「よく覚えてたね」
あそこは、毒を持った魔獣が多いし、王都から三日ほど距離があるうえ、近くに町もないし、中級ダンジョンの攻略にあきた冒険者がたまに行くダンジョンっていう印象だ。
「そういうわけで、ダンジョンの組み換えが始まっても大丈夫なように、一通りアイテムを集めてからっていう条件はついたけど、許可はもらってきた。
準備ができたら三人で行くよ」
「ルークもですか?」
「ダンジョンの中であんたたちがどんな風に連携をくんでるか、実際に戦ってるところを見たいしね」
「わかりました!」
王都のダンジョンに入れなくなったのは痛いけど、ダンジョンに入れるならどこでもいいもんね。
その上、師匠と一緒に出掛けることもできるなんて!
ダンジョンに入ることができなくなるって思っていたところからの逆転に、わたしは、会話の途中に疑問に思ったことを、すっかり忘れてしまっていた。




