27.リリ、看病をする
光が収まると、師匠のアトリエの前だった。
「師匠! 大変です! ルークが!」
師匠は転移魔法に気付いたみたいで、様子を見に出てきたところに叫ぶ。
一目でルークの状態が伝わったみたいで、師匠は一瞬驚いた表情を浮かべた後、険しい表情になった。
「まずいね。治療に入るよ」
師匠が無属性の《軽量化》の魔法をルークにかけて、二人でルークを師匠の研究室に運び込む。
その間もルークは苦しそうで動くことができないでいる。
師匠が一通りの処置を終えると、ルークの様子は落ち着いた。
けど、眠ったままで目を覚まさない。
師匠曰く、体がびっくりしてるはずだから、落ち着いたら目が覚めるそうだ。
再びルークに《軽量化》の魔法をかけると、今度はルークの部屋へと連れて行って寝かせた。
その後、師匠に少し話があるからと言われて、二人で研究室に戻った。
促されて椅子に腰掛ける。
師匠はまず、ルークの状態について教えてくれた。
想像していた通り、ルークのこの状態は、師匠を頼ってきた呪いの影響によるものなのだそうだ。
魔法を使わないという制約をかけることで、呪いの進行を抑えていたから、それを破ってしまった反動がきたそうだ。
わたしは、ルークが魔法が使えるなんて聞いたことなかったし、全然使っているところを見たことがなかった。
けど、もともとルークが魔法を使えたのなら納得できることもある。
針熊を一人で狩ったことがあるって聞いた時に、大剣だけで狩れるのかなって思ったんだよね。
でも魔法が使えたのなら納得だ。
考え込むわたしに、師匠は続ける。
何度も制約を破ってしまうと、制約の意味がなくなって、呪いを抑える効果は減ってしまうし、反動は強くなってしまうそうだ。
ルークはこの呪いを解除する方法を探しに師匠のところに来たそうだけれど、師匠でも、制約を課して呪いを抑えることしかできなかったんだって。
これからしばらくはルークは師匠のアトリエに滞在するし、できたら、今後ルークと行動するときは絶対ルークに魔法を使わせないようにって、そういうことを話してくれた。
師匠もこんなに早くルークが制約を破るなんて思ってなかったみたい。
ルークも多分使うつもりはなかったんだと思う。
暴走猪が、わたしたちの予想より強くて、あの危機的状況で仕方なかった。
実際、ルークの攻撃があったから、あの暴走猪にトドメをさせた部分はある。
でも、とても苦しんでいたルークの姿に、わたしとしてはこんなに酷い状態になるなら、もっと他に何か戦う方法はなかったのかなっても思う。
二人の連携がもっと練られてたなら、もっとなにか他の方法があったかもしれない。
そうして、一通り話すと師匠は、今度はわたしに何があったか話すように促した。
「それで、リリたちのほうなんだけど、岩山のダンジョンでなにがあったか話せるかい?」
わたしは師匠の言葉に頷いて、今日の岩山のダンジョンでのことを伝えた。
「タリスマン、外しちゃったのかい」
「はい。……すみません」
「命あっての大事だし、リリが生きて帰ってくる方が大事なんだけど、そうかい。
ダンジョンの床も抉れた、ねぇ」
師匠はどこか遠い目をしている。
「うーん。ひとまず、ボスは持って帰ってきたんだね?
いい判断だったと思うよ。
ここに出せるかい?」
研究室の開いているところに、アイテムボックスから取り出した暴走猪を出す。
「……なるほどねぇ。これは仕方ない、か。
けれど、どうしてこんなことが起きているのかは気になるところだねぇ」
師匠は、何か思うことがあるみたいで、ぶつぶつ独り言を言っている。
「はぁ一旦、ギルドにも言わないとだねぇ」
「あぅ……、はい」
「ちょっと厳し目の処分も、覚悟しておいた方がいいかもねぇ」
「……はい」
ちょっと涙目になったけれど、でも、牢屋行きはないと思うという、師匠の言葉にもちなおした。
ギルドへは、師匠が連絡を入れてくれるそうだ。
「疲れてるところ、色々話をさせてしまって悪かったね。
遅くなってしまったけど、今日はもう休みな」
そうして、ひとまずわたしはお風呂へ向かった。
ルークは二日間、意識を失っていた。
そうして、ようやく、三日目の昼過ぎに目を覚ました。
「…………」
「大丈夫?」
「……ああ」
ボーッとした顔をしているけど、そばについてたわたしを見ると、ん?って思ったのか、周りを見渡してる。
体を起こそうとして、力が入らなかったみたいで途中まで体を起こしたところで、ここが師匠の家に割り当てられた自室だとわかったみたい。
再び脱力して、ベッドに寝ころんだ。
「師匠呼んでくるね。お水はそこ」
ゆっくりと頷くルークに、静かに師匠のところへ急ぐ。
「師匠! ルークが目を覚ましました!」
「そうかい」
「わたしスープか何か温めてきます」
「頼むよ」
師匠は診察道具を持って、急いで部屋を出ていった。
ノックをしたあとに、そう間を置かずに師匠が「入っていいよ」と返事をくれた。
おそるおそる扉を開けて部屋を覗くと、ルークは師匠と穏やかに話している。
「これ、スープ、温めてきてみたんだけど、食べれそう?」
「ずっと寝てたんだ。少し腹にいれておいた方がいいよ」
「わかった。今は水だけで腹いっぱいだから、もう少ししたら、食べる」
ルークが頷いたので、ベッドのわきのテーブルにスープを載せた盆を置く。
「じゃ、おそらくはこれで大丈夫と思う。
リリから話は聞いてるし、その判断は間違ってなかったかもしれないけど、今後はそれを解呪するまでは絶対に魔法を使うんじゃないよ。
次はもっとひどくなるだろうからね」
そう言って、師匠は退室していった。
師匠も眠そう。
わたしと交代でルークについてたから、師匠も疲れているはずだ。
しばらくそっとしていたがいいかな。
って、ルークがわたしを見ている視線にハッとする。
ここ数日看病していたせいか、つい、居残ってしまった。
そっか、ルークはもう目が覚めてるし、わたしがいると邪魔かもしれない。
「あ、わたしも出るね」
「別にいい」
「居ても、いいの?」
ルークは頷いて続ける。
「迷惑をかけた。……あれからどうなったか聞きたい」
言われて、どう言うか迷う。
「うーん、倒れて起きたばかりだし、ちょっと刺激が強いと思うんだ。
師匠も話していないんなら、明日でもいい?」
言ってしまって失敗だったと気がつく。
「その言い方、余計に気になる」
「だよねー」
ルークはわたしの言葉を待っている。
仕方がない。
「じゃ、これ聞いても、倒れたりしないでね」
「わかった」
「暴走猪を倒したところまでは覚えてる?」
「ああ。リリの魔法であの暴走猪は黒焦げだったな。
あ、ダンジョンの床がありえないくらいえぐれていたのも覚えてる」
「ぐっ。そ、それもなんだけど、あれから、ダンジョンが休眠に入っちゃったんだ」
「はぁ!?」
体を起こしかけたルークを、慌ててベッドに押し留める。
ダンジョンの休眠はごくまれに起こることだ。
けどそれはスタンピードの発生後とか、ダンジョン内の力が一時的に枯渇した状態にはいった時に見られる状態でもある。
普通、ボスを倒したくらいで起きる現象じゃない。
「あと、怒らないで聞いて欲しいんだけど」
ルークを伺うと頷いている。
「わたしとルークはしばらくは王都のダンジョンには立ち入り禁止っていわれてる」
「なんでだ!?」
再びすごい勢いで飛び起きようとするルークをなだめる。
やっぱり驚くよね!
「んー、何が原因かわかんないけど、わたしたちがボスを倒した時に何かしたんじゃないかって思われてるみたい」
「はぁ!? しようと思って何かできるものでもないだろ!?」
「そうなんだけどね。床があんなにえぐれちゃってたし、あの時ダンジョン内に居た他の冒険者が言うには、すごい爆発音の後、ダンジョン内でモンスターの出現しなくなったっていってたらしくて、それで、関係があるんじゃないかって思われてるみたい」
「嘘だろ……」
ルークは愕然とした様子だけど、わたしはあの管理者を名乗る謎の人物にもらった加護という心当たりがある分、その姿に余計に申し訳なくなる。
床とかえぐれてしまったのは、どう考えても状況的にわたしがもらった加護のせいだと思うんだよね。
ダンジョンが休眠してしまった理由はわからないんだけど。
「あ、でも、ギルドも完全にわたしたちのせいだとは思ってないみたいで。
ほら、ヤっさんがここ最近、岩山のダンジョンのボスが強くなったんじゃないかって、言ってたの覚えてる?」
ルークは少し考えた後頷いた。
「そのこと、そのボス攻略に失敗した冒険者の人たちがギルドにも報告をあげてて、ギルドも把握していたみたい。
実際、ここ二週間位、討伐した記録もなくて、ダンジョンの方もおかしかったのかもってことで、今、ダンジョンの調査と、わたしたちが討伐した暴走猪の調査を同時に行ってるって」
「そうか」
「だから、ボスの暴走猪、アイテムボックスに入れて持って帰ってきたんだけど、ギルドに提出してる。
で、その調査が終わるまでは冒険者カードも一時凍結。
身分証には使えるけど、ダンジョンには入れないって」
「……わかった」
ルークの声に元気がない。
「うん。なんかごめん」
「別にリリのせいじゃないだろ」
ルークにもわたしの加護のことを話すかは迷ったんだけど、まだ詳しいことはわからないし、今ルークをあんまり刺激するのもよくないから、もう少し黙っていようということになってないる。
その分余計にルークの言葉が心苦しい。
あ、でも。
もうひとつ、これは絶対に話しておかないといけないことがある。
「もういっこ、あんまり嬉しくない話かもしれないけど。
ルークが目を覚ましたら、ギルドの人が話を聞きに来るって言ってた。
ギルドの職員さんに怖い顔で色々聞かれると思う」
「わかった。それは、考えていたから大丈夫だ」
ルークは平然としているけど、わたしは思い出すだけで背筋が凍る。
ギルドマスターのモーゼスさんにはわたしの加護のことも話していたから、なんとか最悪の事態にならなかったみたいだけど、ギルド職員さんの追及はとても怖かった。
ふと、迷ったようにルークが視線をさまよわせた。
「そろそろスープ、もらっていいか?」
「あ、ごめん! じゃ、わたしももう、部屋出るね。食器は夕ご飯の時にさげるから、そのままにしておいて」
「……ああ」
ルークが体を起こすのを手伝うと、わたしは部屋を後にした。




