25.リリ、岩山のダンジョンのボスに挑戦する
階段を降りると、すぐに広間が広がっていた。
これまでと違い、障害物はなく、だだっ広い空間の中央に、巨大な猪に似た魔獣が居る。
足もとは、平らな岩で、戦闘中、障害物でこけたりすることもなさそうだ。
既に戦闘モードになっているのか、体から炎がうっすらと揺らめいて見える。
あれ、発火は体力が少なくなってからじゃなかったんだっけ。
疑問に思っている間にも、勢いよく突っ込んでくるから、ルークとは反対方向に飛び退いて避ける。
熱い塊が横をすごいスピードで駆け抜けていくのを感じた。
これ、あたったら大けがではすまないよ!?
暴走猪って、こんなに強かったっけ!?
背後から壁に激突するすごい音がした。
振り向くけど、暴走猪にダメージを受けた様子はない。
ターゲットはルークになっているようで、攻撃を外した暴走猪はルークの方に顔を向けた。
ひづめで床をかいて駆け出そうとした瞬間に、待機状態にしていた氷魔法を発動。
「氷柱撃」
狙いは成功。
しかし、顔から背中にかけて、凍りながらも、暴走猪は止まらない。
まっすぐルークに突っ込んでいく。
ルークは《加速》の効果もあってか危なげなく避け、暴走猪は壁にぶつかって止まった。
暴走猪は反転すると、今度はわたしの方へと顔を向けた。
え、こっちに来るの!?
さっきの攻撃で怒ったのか、ちょっと発火が強くなっている。
背中の氷は既に溶け切っているし、詠唱してる時間はなさそう。
ルークが攻撃を準備して、わたしにむかってこようと溜めている暴走猪に、突っ込んでいく。
助かった!
暴走猪は少しふらついたけど、でもそれだけで、ルークの方を向く。
ルークの大剣はわたしの支援魔法で氷属性を宿しているはずだけれど、暴走猪の体表が少し傷がついたくらいで、暴走猪に全然気にした様子はない。
草原兎なら、一撃で全身凍り付いてしまうのに。
それだけ暴走猪が強いということだろう。
ボスだけど、しょせん岩山のダンジョンのだからって思ってたけど、気を引き締めないといけない。
今の一撃で、ターゲットはルークに移動している。
よし、この隙にわたしも氷魔法の詠唱を行っておこう。
「我が魔力を糧に、ここに雪原の女神の降臨をこいねがう。
卑小なる身に、その力の偉大さを示したまえ。
求めるは、大いなる慈悲のひとかけら。
氷の息吹、その激しき美しさをここに現したまえ!」
暴走猪が、再びルークに向かって走って行く。
ルークはそれを華麗に避けて、暴走猪は再び壁に激突する。
よっし、今だ!
「《氷柱撃》連撃!」
ルークに向かっていき壁に激突した瞬間、背中こら壁に押し込むよう、《氷柱撃》を連撃で二発。
これは流石に効いたみたいで、暴走猪の足元がふらついた。
暴走猪が、ゆっくりとわたしの方を振り返る。
さっきよりもまた発火状態が強くなった。
事前のシミュレーションでは、これで倒せると思ってたのに、全然倒れる気配はない。
暴走猪って、野生猪の強化版っては効いてたし、針熊よりは弱いって聞いてたのに!
思っていたよりかなり強いよ!
体表の炎が厄介だ。
暴走猪から立ち上がっている炎が、地味に気温をあげていて、熱くて戦いづらいし、あれのせいで氷魔法の威力が半減している。
弱点属性って聞いてたのに!
その上、針熊のときと同じくらいダメージも通らないし、小さい分素早さが高くて戦いづらい。
怒っているせいで素早さも増した暴走猪が、こちらにこようとしたけれど、ルークが突撃して、ターゲットがルークに変わり、そのままルークにつっこんでいった。
それをルークが危ういところで避けた。
《加速》の効果が切れて来たみたいで、あまり距離が稼げていない。
とっさに魔法を放つ。
「《風刃》!」
わざとルークと暴走猪の間を横切るように撃つ。
突進を邪魔された暴走猪がこっちを向いた!
よっし!
ルークが態勢を立て直すための時間を稼ぐために、すぐ撃てる水魔法で攻撃する。
「《水流弾》」
氷の次に弱点のはずの水魔法だったけれど、毛皮に当たる前に大部分が沸騰して蒸発してしまった。
ええー!
《水流弾》の水も蒸発しちゃうなんて!
どんだけ強いの!?
暴走猪がゆっくりとわたしの方に向き直る。
ダメージは与えられなかったけれど、水魔法が嫌だったみたいで、暴走猪から立ち上がる炎が荒ぶっている。
うん、暴走猪はめちゃくちゃ怒った様子だ。
けど、なかなか捕まらないわたしたちに、暴走猪も警戒しているようだ。
今まで見たいにすぐに突進はしてこなくて、じっとこっちを見てくる。
どうしよう。
チャンスなのに、どの属性の魔法を使えばいいか、まったく思いつかない。
どの魔法をつかっても、この暴走猪に勝てるイメージが全然わかないよ!




