22.リリ、ルークと打ち合わせをする
帰宅すると師匠は針熊が出たことに驚いてはいたけど、わたしたちが倒したことにはそんなに驚いていなかった。
「二人ならそれくらいの実力はあるだろうね。ダンジョンに行くときは気を付けるんだよ」
そんな感じ。
ルークと打合せして、明日は休みにする。
体調とか整えて、明後日、ダンジョンに行くことになった。
一晩ゆっくり休んだ翌朝。
朝一で、昨日、戦闘時に力を借りた神々や精霊に感謝の祈りを捧げてしまうと、師匠の講義は夕方だから、夜までぽっかり時間が空いてしまった。
どうしようかなと考えていたところで、出かけようとしていたルークと目が合う。
「もう用は済んだのか」
「そうだけど」
「リリがよければ、もう少し連携をつめたい」
確かに、文句がありそうだったもんね。
「わかった」
家を出る前に師匠に声をかけると、思いがけないことを言われた。
「師匠、ちょっとルークと連携を確認してきます」
「いいけど、明日も出かけるならあんまり無理しすぎないように」
「はーい」
「休養日はきちんと休むのも大切だよ」
「気を付けます」
「連携を確認するのも大事なのはわかるから、無理するようならもう一日休みを取りな。
私はちょっとばかし集中力がいる調合をするから、今日は夕飯いらない。明日も起きてこないようなら先に出かけていいからね」
「わかりました。でも、明日は師匠が起きて来なくてもご飯、準備しておきますからね」
「あんたたちと違って加減がわかってるからね私は倒れたりはしないよ。
けどま、助かる。ありがとね。
じゃ、出掛けに悪かったね。いってらっしゃい」
「いってきまーす」
「行ってきます」
ひとまず草原兎のいる原っぱまで出ることになった。
魔法を使っても迷惑になる人がいない場所に行こうってことになったんだよね。
「俺は使えるのは大剣だけだ」
「うん」
もしルークに魔法が使えたらこの間も使ってたはずだもんね。だからそれはわかる。
「で、だ」
ルークは厳しい顔だ。
「リリはどんな魔法が使えるんだ。
昨日も聞いたけど、改めて聞いておきたい」
「そう言われてもー?
昨日伝えた感じだよ。
一番得意なのは、火魔法。その次が水と風と光が同じくらい。
後は詠唱とかいるけど、氷と土、闇魔法も使える。
あ、支援系もちょっと使えるっていったよね!」
「それだ。支援魔法って具体的に何が使えるんだ?」
ルークは心なしか、むすっとしているようだ。
「支援系は、無属性と聖属性魔法の補助魔法は師匠が教えてくれて《加速》と《祝福》は燃費は悪いけど使えるよ」
「燃費が悪いっていうのは?」
「魔力消費が悪いの。《加速》は一回に《風刃》三発分、《祝福》は五発分くらい持ってかれるから、一人だとほとんど使わないんだよね。あ、回復は初級も使えるけど、師匠の錬金薬の方が効くから、ほんと、一応ってくらい」
「試しに加速をかけてもらっていいか」
「今日はそういうのを試しに来たんでしょ。いいよ」
「あ、ちなみにどれくらいもつんだ?」
「わたしの体調と魔力、かけたときの運によるけど、普通にかけたら、少なくとも五分は大丈夫。切れる時は、段々体が重くなってくるからわかるよ。じゃ、準備はいい?」
「あぁ」
そうして、ルークに向き合うと、詠唱を始める。
「彼方より来たりて、彼方へと去りしものよ。
我ここにこいねがう。
しばしの間、彼のものにそなたからの解放をもたらさん。《加速》」
一瞬、ルークが青い燐光が帯びて、すぐに消える。
「ちょっと試してくる」
そう言っていつもよりも軽やかに駆けていく。
わたしは《風索》をかけて、ルークの狩りを観察する。
十匹ほどの群れに近づくと、ルークが大剣を離れた場所から一閃。
範囲に入っていた草原兎六匹が気絶。
ほうほう。あれはルークの大剣技能かな。
残りの草原兎は逃げていったけど、ルークはひとまず気絶した兎にとどめを刺して周っている。
そうして、五分後。
ルークは手に六羽の草原兎を持って帰ってきた。
「わー、狩ったねぇ」
「かなり体が軽くなるな。
これ、掛け続けるのはできるのか」
「魔力消費はかける時だけなんだけど、ダンジョンに潜るなら、かけ続けるとわたしが戦闘に使う分の魔力が足りなくなってしまう、かな」
「ならボス戦とか限られたところで使うのがいいのか」
「そうだね。途中で掛け直す隙ができるかはわからないけど、挑む前にかけておくとはできるよ」
「安全を期すなら頼みたいところだな」
「そうだね。そのやり方はわたしも考えてたよ。
あとは、岩山のダンジョンは大丈夫と思うけど、逃げる時に使ったりもしていいって師匠がいってた」
「なるほどな」
「《祝福》は、ちなみにどんなやつなんだ?」
「あ、そっちも試す?」
「《祝福》が使えるやつなんていなかったからな。お願いしたい」
「ちなみに効果は知ってる?」
「能力値上昇だったか?」
「あってるけど、もうちょい詳しく言うとね、魔法を掛けられる人の潜在能力を引き出す魔法なの。
引出される力は、掛けられた人の実力にもよるから、普通の人に《祝福》をかけても、気のせいかな?ってくらいしか変わらない。
でも、それが、例えば剣の達人とか、能力を磨いている人に掛けたら、その人の能力の一割アップとかもできる。
だから、師匠には、まだ能力の上がりきらない若いうちはこれは多用しない様に言われてる。
一回や二回なら全然大丈夫なんだけど、《祝福》があることに慣れちゃうと、《祝福》がある状態の力を実力と勘違いしちゃうからって」
「ちなみに、効果時間は?」
「そっちはわたしの魔力次第で、今のところさっきの《加速》と同じくらいの時間だよ」
「なるほどな。じゃ、《祝福》をかけてもらってたいしたことなくても、それは俺の実力不足ってことなんだな」
「ま、そうだね」
「一応、かけてみてもらっていいか?」
「いいよ」
一呼吸、息を整えて、ルークに向き合う。
《祝福》は習った時に試したくらいであとはほとんど使わないから、《加速》よりも緊張する。
「あまねく世界、作りしものよ。
あまねく理、定めしものよ。
与えられし力の全てを、我、ここに振るわんと欲す。
我、ここに理の先をこいねがう。
かのものに一時の祝福をもたらさん。《祝福》」
キラキラとした輝きが降り注ぎ、ルークに触れると消えていく。
「じゃまた試してくる」
そういうと、再びルークは草原に、かけて行った。
五分後戻ってきた彼の手には、狩るのが難しいと言われる草原狐が一匹握られている。
見てたけどね!
見てたけどね!
でもまさか、大剣で素早いうえに狡猾で、なかなか見つけられないことで定評のある草原狐狩ってくるとは思わなかったよ。
悔しいけど、なにも言わないのも気にしてるようで、ようやく言葉を絞り出す。
「やるじゃん」
「《祝福》のおかげだろ」
ルークは特別に嬉しそうでもない。
「《祝福》があったからって、草原狐は技術がないと狩れないもん」
そういうと、少しだけルークの口の端が少しだけあがった気がした。




