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爆弾娘は今日もダンジョンを攻略中。なにかわからない加護をもらいましたが、がんばっていたら世界を改変していました  作者: 乙原 ゆん
第一章 スタンピード編

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20.リリ、針熊と戦う

 そうして、ルークと順調に狩りすすめ、さらに群れを三つ片付けた後だった。


 風に乗って、何やら獣の(うな)り声が聞こえた。

 耳をすますと、唸り声と何かが戦闘をしながら近づいてくる音が聞こえる。

 今まで何度もこの森に来たことのあるのに、わたしが知らない音だった。


「なんだろう」


 ルークにも聞こえたみたいで、警戒態勢のまま、周りを見渡している。


「やばいっ! 障壁! 頼む!」


 焦った声だった。


「《風陣(ウィンドシールド)》」


 ルークの言葉の持つ緊迫感に、わたしは疑問を抱くことなく障壁を張った。


 《風陣(ウィンドシールド)》は、風の中級魔法だ。

 厚い風の囲いがわたしたちを覆っていて、中からだと、外の様子は竜巻の中心にいるみたいで、詳しくは見えない。

 それでもぼやけた視界に何が起きているかはなんとなくわかる。


 鹿や兎などの動物が走り去っていったと思うと、続いて森色狼の群れが茂みから顔を出した。

 やばいと思ったけど、森色狼たちはわたし達に構わず、森の奥の方に走って行く。


 さらに、茂みが揺れた。

 続いて針熊(ニードルベア)が顔を出す。


「……針熊(ニードルベア)かよ」


 ルークは、うわぁ、みたいな反応だ。

 無理もない。

 針熊(ニードルベア)は、おそらくこの森で一番強い生き物だ。

 背中がトゲ状の毛でおおわれていて、戦闘時にはそれを飛ばしてくる。

 似たような針鼠(ニードルラット)という生き物がいるけれど、大きさが全然違う分、手ごわさも段違いだった。

 ギルドの区分だと草原兎はEランクだけれど、針熊(ニードルベア)はCランク相当の強さを持つと言われる。


 普通の熊ですら行き会いたくない凶暴な生き物なのに、針熊(ニードルベア)は背にトゲをもつうえ、そのトゲの攻撃がまた厄介と聞く。


 一人で森やら草原に出ていた時には、師匠から、できるだけ針熊(ニードルベア)は避けなさいっていわれてたけど、……これは仕方ないよね。

 普段は森の奥にいるはずなのに、こんな森の浅いところにいるのは珍しい。

 森色狼をおいかけまわしている様子から、針熊がこっちにやってに来たから、逃げようとした森色狼が街道で多く見かけられた可能性もあるかもしれない。


 針熊(ニードルベア)は追いかけていた森色狼たちからわたしたちにターゲットを変えた。

 そりゃそうだよね。

 森色狼よりもわたしたちの方が弱そうだもん。

 針熊(ニードルベア)は障壁の周りをうろうろしている。


「どうしよう」

「こっちを完全に認識してるな」

「逃げても追いかけてくるってこと?」

「ああ」

「じゃ、倒すしかないね」

「怖くないのか?」

「怖いけど、でも、戦わなくちゃ、これからダンジョンに行こうってのに、こんなところでつまづいてられないじゃない?」

「へぇ」


 ルークの目が、驚いたように大きくなる。

 そんなに変なこといったつもりはないんだけどな。


「なら、その方向でいくか」

「連携はどうする?」

「下手に変えない方がいいだろ。動きはこれまでと同じ。互いにターゲットが集中しないように動く。

 これまでと違うのは、俺でも一撃じゃあいつは沈められないだろうってとこだ。

 危険度は段違いだけど、できるか」

「もちろん。じゃ、まず、わたしが《風刃(ウィンドブレード)》を叩き込むね」

「障壁を張りながら、次の魔法を待機できるのか?」


 ルークは驚いた様子だ。


「それくらいはわたしにもできるよ! 一流を目指すんならそれくらいできなきゃって師匠に特訓させられたからね!」


 ルークはなるほどと頷いている。


「さすがマヤさんだな。ちなみに、《風刃(ウィンドブレード)》は何撃だすつもりだ」

「五連撃。それが、今、一度に出せる最大弾数だし」

「なら頼みたいんだが。

 おそらくだが、あいつの初手は背中のトゲを飛ばしてからの体当たりだ。

 体当たりは俺が止める。そっちに行かせないから、リリにはトゲを払うのを優先してほしい」

「よくわかるね。もしかして、戦ったことあるの?」

「一応な。あいつよりも大分小さいやつだったが、なんとか俺一人で狩ったことがある」

「なら、そうする!」


 ルークは魔法が使えないと聞いている。

 故郷ではソロで狩りをしていたと聞くのに、大剣だけでどうやって戦っていたんだろう。

 疑問がわくけれど、今それを聞いている余裕もない。


「トゲを飛ばしてくるとして、どれくらいの範囲かわかる?」

「あいつを起点に扇状だな。全部払わなくても、俺らに向かってくる分だけでいいからな」

「それはわかってるよ!」

「そうか。じゃ、《風陣(ウィンドシールド)》を解くタイミングもまかせる。あ、けど、合図はくれ」

「わかった。《風刃(ウィンドブレード)》の発動と同時に解くから」

「おう」


 まだお互いに背中を預けて戦えるほど、連携は練られていない。

 それでも、やると決めたのだ。

 出来る限りで挑むしかない。

 息を吸って、吐く。

 それだけで心が落ち着く。

 師匠からたたき込まれた呼吸法。

 そうして、心が落ち着くと、イメージを固める。


 きっと針熊(ニードルベア)は《風陣(ウィンドシールド)》を解くとこっちに一直線に攻撃してくる。

 まず、わたしがトゲを払う。

 針熊(ニードルベア)がどんなに強い力で飛ばそうと、トゲ自体に重さはそこまでない、はずだ。

 確か、師匠の持っている図鑑にそう書いてあった。


 中は中空で、魔力をまとっているから固いのだ。

 なら、それより強い魔力で叩き落せばいい。

 体当たりはルークが止める。

 あの巨体なら針熊(ニードルベア)は五百カロはありそうだけれど、――でも、ルークもできないことは言わないはず。


 なら、わたしの仕事は、ルークが針熊(ニードルベア)を止めた後に、もう一撃、打ち込むこと。


 よし、見えた!


 《風刃(ウィンドブレード)》を五個分待機させる。

 さすがに障壁を維持しながらの最大数の待機は、ちょっときつい。

 ルークも剣を抜いて臨戦態勢だ。

 ルークに目で合図をして、頷くのを確認してから、発動呪文を唱える。


「《風刃(ウィンドブレード)》」


 障壁を解くと同時に、防壁がなくなったことに気付いた針熊(ニードルベア)が背のトゲを飛ばしてくる。

 ルークの言った通りの動きだった。


 発動した《風刃(ウィンドブレード)》が、飛んでくるトゲを両断し、あるいはあたったトゲの軌道を変えていく。

 三撃でわたしたちの軌道上のトゲは一掃され、そのまま軌道上にいる針熊(ニードルベア)に残りの二撃があたる。

 けれど、針熊(ニードルベア)にダメージが入った様子はない。

 あの毛皮、魔法に対する防御力が高いみたいだ。


 わたしの《風刃(ウィンドブレード)》を避けるそぶりも見せなかった。

 つまり、針熊(ニードルベア)が避ける必要がないくらい、わたしの攻撃が弱いということだ。


 火魔法ならもっと火力を出せるかもしれないけれど、でもさすがに森を燃やすわけにはいかない。

 《風刃(ウィンドブレード)》よりも上位の魔法で、詠唱なしにルークを巻き込まずに発動できる魔法はない。

 計画を変える必要がある。


 その間に針熊(ニードルベア)が咆哮をあげて疾走してくる。

 それをルークが剣で止める。

 かかとが地面にめり込むほどの衝撃があったみたいだけど、危なげなく針熊(ニードルベア)を止めている。

 膠着(こうちゃく)状態。

 でもちょっとルークが押され気味。


 《風刃(ウィンドブレード)》を撃ち込んでも、さっきの様子だと何の役にも立たないだろう。

 ならば、作戦を変えるだけだ。

 切り替えて、詠唱を始める。


「我が魔力を糧に、ここに雪原の女神の降臨をこいねがう。

 卑小なる身に、その力の偉大さを示したまえ。

 求めるは、大いなる慈悲のひとかけら。

 偉大なる御手の導きに従い、我が敵を包みたまえ!」


 詠唱を始めた途端、ルークが一瞬ぎょっとしたようにこっちを見たけれど、構わずに言い切る。


「《氷縛(アイスバインド)》」


 無事、《氷縛(アイスバインド)》は発動。

 本来は針熊(ニードルベア)ごと凍らせる予定だったけれど、針熊(ニードルベア)の背中と、腰から下が凍った。


 突然体が凍ったせいでバランスを崩した針熊(ニードルベア)を、ルークはうまくさばき、針熊(ニードルベア)に一撃を入れると距離を取る。

 針熊(ニードルベア)はルークをおいかけようとするけど足が動かず、咆哮をあげた。


 そこに助走をつけたルークが切りかかる。


 予想以上に針熊(ニードルベア)の力が強くて《氷縛(アイスバインド)》のいましめにひびが入る。

 ルークの攻撃で、倒せるだろうか――。


 一撃では倒せないだろうという、先程のルークの言葉が思い浮かぶ。

 さっきは毛皮に防がれたけど、ルークが切り裂いた傷を狙うなら、どうだろうか。

 それに《風刃(ウィンドブレード)》は五連に力を分散したからいけなかったのかもしれない。


 一撃に全力をこめてみよう。

 魔力をありったけ乗せるために、いつもはしない《風刃(ウィンドブレード)》の詠唱を始める。


「大地を駆ける自由な羽ばたき。

 今ここに刃の形をとりて、我が敵を切り裂かん」


 そうして、待機状態にしている間にもどんどん魔力を乗せていく。


 ありったけの魔力を注ぎ込んでいるせいか、維持するだけでも油断すると暴走しそう。

 顕現している風の刃のまわりに、魔力圧でひずみが出ている。


 ルークが一閃し、針熊(ニードルベア)の喉笛を切り裂いたあと、すぐに離脱する。

 今だ!


「《風刃(ウィンドブレード)》!」


 そして、ルークを払うよう手を伸ばした針熊(ニードルベア)に、わたしが放った特大の《風刃(ウィンドブレード)》があたる。

 針熊(ニードルベア)はわたしの方に向きを変える。

 けれどそれが最後だった。

 血をさらに噴出(ふきだ)し、針熊(ニードルベア)は倒れた。

 しばらくそのまま眺めていても、動き出す気配はない。


「倒したの?」

「ああ」


 あまりにも静かな幕引きに、おそるおそる口にすると、ルークの呆然とした声がかえった。


「やったー!!!」


 すごい! 針熊(ニードルベア)を倒せるなんて!


「あっ、ルーク、怪我はない?」

「ない。それより」


 ルークは怒った口調だ。


「なに?」

「あの氷魔法はなんだよ」

「え?」

「あれ、言ってなかったっけ? 詠唱つきなら、氷魔法使えるの」

「火、水、風、光魔法だけじゃないのかよ。ほかに使える魔法は?」

「詠唱つきで闇魔法も? 他は支援系もちらほら使えるよ!」

「そうかよ……で、急に氷魔法使ったのは?」

「わたしの《風刃(ウィンドブレード)》にひるみもしなかったんだもん。

 それに、ルークも膠着(こうちゃく)状態だったし」

「まぁ助かったけど」


 ぼそっというルークに、ほらね、と思ったけど、それを言うとさらに怒りそうだから口には出さない。


「結果、うまくいったし、いいじゃん!」

「でも、何をするつもりかわかんなくてヒヤヒヤしただろ!」

「あー、それは、ごめん」


 確かに、そこで相手を信じられるほど、わたしたちには信頼関係はない。


「はぁ……パーティ組むならその辺もおいおい詰める必要があるか」

「そうだね」

「じゃ、後始末するか」


 そうして、アイテムボックスを開こうとして固まる。


「あーーー!」

「なにかあったのか?」

「どうしよう! もう! アイテムボックス一杯なんだけど!」

「は?」

「毛皮の状態がいいやつを選んでいたけど、森色狼五匹で、あと一匹入るかってとこだったの。

 折角仕留めた針熊が入らないよ!?」

「…………」

「どうしよう!?」


 針熊(ニードルベア)だよ!?

 置いていくなんて考えらられない。

 けど、選んだ森色狼を置いていくのももったいなさすぎる。

 それに、中身を全部出しても入るかが怪しい。


「……血、抜いたらオレが背負って帰る。水魔法たのめるか」

「お、重いんじゃない?」

「あれくらいなら大丈夫だ」


 あ、そういえば、さっきも針熊(ニードルベア)を剣で受け止めてたし、巨人族の種族特性かな。

 巨人族って怪力って聞くもんね。

 そしてわたしの水魔法を使って血抜きを行い、ルークが針熊(ニードルベア)を背負って帰還した。

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