14.リリ、ルークを案内する
ギルドの扉をくぐると、昨日より少し人が多く、納品窓口の方が混んでいた。
時刻的に依頼の達成報告に来ている人たちで混んでいるようだ。
ふと、依頼が貼ってある掲示板のところが不自然に人がいないのが目についた。
混んでるのに珍しいな。
掲示板の前は、机や椅子が置いてあって、混んでる時にはあの辺で順番を待ってる人も多いのに。
気になって原因を目で探すと、端っこに、右腕を呪布でぐるぐる巻きにした細身で長身の青年が腰かけているのを見つけた。
この辺ではあまり見ない黒髪に、金色の瞳で、呪布以外の見た目は普通だ。
けど、呪布から出ている気配が禍々しくて、みんな避けているようだ。
テーブルに大きな大剣が立てかけてある。
年齢は同じくらいか少しわたしの方が年上かな。
ギルドにあまり慣れていないようで、興味深げに納品窓口を眺めている。
ま、わたしは関わり合いになることはないだろう、なんて思いながらひとまず依頼の窓口に向かった。
「えっと、マヤの弟子のリリと言います。
メイサさんのところで本日こちらに伺うよう伝言を受け取ったので来ました」
「少々お待ちください」
窓口のお姉さんがメモをめくっている。
「はい、お待ちしておりました。
本日持ち込まれた依頼について、ギルドの方でマヤさんに引き受けて頂いた方が妥当と判断した依頼があります。
受けるかどうかはマヤさんに一任しますが、ひとまず依頼人から話を聞くところまでお願いします。
依頼人はあちらの方です」
そうして示されたのは、あの禍々しい気配を出している青年だった。
うっわー、と思うけど、顔には出せない。
ひとまずわたしの役目は彼を師匠のところまで案内することのようだ。
師匠のところには、普段、ギルドを通さずに直接やってくる人もいるくらいだ。わかりにくいところにあるけど、師匠も隠れ住んでるわけじゃないし、連れていくのは問題なかった。
わかりましたと頷くと、お姉さんはほっとしたようにほほ笑んだ。そして受付の中から出て、依頼人の所に向かう。
「ルークさん、お待たせしました。こちらがマヤさんの弟子に当たる方です」
「マヤの弟子のリリです」
「……ルークだ」
「それでは、リリさん、あとはお願いします」
「わかりました」
ギルドのお姉さんがお辞儀をして、受付の中に戻っていく。
わたしもお辞儀をして、ルークさんに向き直る。
「師匠に用があられるとか。
外から来られた方には少々わかりにくいところにアトリエがあるので、わたしが案内します。
ただこの時間だと、ここに戻る頃には夜になってしまいます。
夜は門が閉まってしまうので、明日でもよろしければ、改めてこちらに来ますけど」
「いや、このまま連れて行ってくれ」
わたしは問題ないけれど、いいのだろうか。
疑問が顔に出ていたのだろう。
ルークさんが続ける。
「なんというか、こんな感じだろ?」
ルークさんが困ったように腕を指し示す。
「野宿するつもりだから、門の外に出ようと思っていた」
「え、野宿ですか」
「宿屋も何件かまわったが、他の客がおびえるからと宿泊を断られた」
ルークさんは気にした様子はないけど、もしかしてこの町に来るまでもそんな感じだったのだろうか。
そう思って眺めると、確かに装備などもちょっと痛んでいるようにも見える。
「じゃ、丁度わたしも帰るところなので、寄るところがなければ行きましょうか」
ルークさんは立ち上がると、テーブルに立てかけてあった大剣を軽々と背負った。細身だけど、力持ちみたいだ。それに、わたしだと、見上げるくらいに大きい。二メルくらいあるんじゃないかな。
この間あったゲオルクさんよりも大きいけど、ルークさんは彼より細身だから威圧感はそこまで感じない。
ルークさんに何を話しかけていいかな。
並んで歩いているけれど、会話に困る。
訳ありで師匠を紹介されるような依頼人に、どんな話を振れば当たり障りない話ができるのかわからないんだよね。
「無理に話しかける必要はないかもしれない」と気がついた時には、町の門を出てしまっていた。
あとはしばらくは道なりに進んで、ある程度進んだところで、街道から出ている獣道から山の中に入る。
山道を進んでいると、ルークさんが口を開いた。
「あんたはいつもここを町まで行き来してるのか」
「そうですけど、わたしのことはリリって呼んでください」
きょとん、とルークがわたしの顔を見つめる。そして納得したように頷いた。
「さん付けもいるか?」
「任せます」
「リリも普通に話してくれ」
「わかった。師匠のお客様ってことで敬語にしてたけど、気にしないなら」
「問題ない」
ルークの様子に、もしかしてと、思っていたことを言ってみる。
「ちなみに、わたしが年上の可能性もあると思うんだけど」
「……」
たっぷりの沈黙の後、まじまじと見てくるルークの様子にちょっとだけ腹が立つ。
身長が低いから幼く見られがちだけど、これでも十五だもん。
それに身長はこれから伸びるもん!
「わたしはこの間十五になったとこ。ルークは?」
「……同い年かよ」
「あ、もっと若いと思ってた」
「どういう意味だよ」
ちょっとムっとしたようにルークがいう。
「わたしは身長低いから、幼く見られやすいの。
ルークは背が高いけど、ギルドでまだ場慣れしてない感じがしてたからもうちょっと若いかと思ってた」
「田舎もんだって言いたいのか」
「別にそういうわけではないけど」
がんばってたけど、おのぼりさんみたいな感じではあった。
けど、ルークの眉間にこれ以上ないくらいシワがよっているからそれは言わないでおく。
「……ニーベルグ出身だ」
「なるほど。あれ、でも、あそこは」
巨人族の領域だよね、と言いかけて気付いた。
普通より高い身長。細身なのに、大剣を軽々と持っている。
ただ力持ちなだけかと思っていたけど、巨人族の種族特性の可能性もある。
というか、巨人族なら色々と納得がいくのだけれど、巨人族にしては二メルは身長が低い方だ。ということは――。
「人族とのハーフだ」
「なるほど」
排他的とも聞く巨人族でハーフは珍しいけど、ない話ではないだろう。訳ありっぽいし、やっぱり、詳しく聞くのはやめておこう。
「もうすぐ師匠のアトリエにつくよ」
「ああ」
結構な山道を息切れもしないでついてくるルークを連れて、アトリエまでの最後の道のりの歩いた。




