13.リリ、一人でお使いに行く
翌日。
午前中は沈瞑草の収穫を行った。
必要な分をそろえると、生えている沈瞑草の六割くらいを収穫することになった。
今回は根っこも使うから、使った分、また地道に増やさないといけない。
それが終わるとメグリ虫の糸と封蜂の蜜蝋をそろえるため、師匠の倉庫に入る。
この中にある素材は、何年もかけて採取場所や採取方法、保管方法も師匠に教えてもらってきた。
一通り教わった後は師匠が使う素材の準備のお手伝いもしている。あと、年に二回ほど、倉庫の在庫整理もさせてもらえるようになった。けれど、とにかく物が多くて片付けても片付けても、全然片付かないのがこの倉庫だった。
昨日もらったメモを見ながらメグリ虫の糸と封蜂の蜜蝋の必要量を探していく。
ごそごそと倉庫を漁っている間に、すべての材料をそろえる頃にはお昼を回っていた。
師匠に確認をお願いして、その時間で簡単に夕飯の支度をする。
師匠からオッケーがもらえたので、材料を包んで出発した。
今出ると丁度良い時間に到着できると思う。
昨日と同じように町の門を入って、今日は直接メイサさんのお店に向かう。
途中、露店で何やら騒いでる人がいた。
兎人族の人かな。
耳以外は兎人族の特徴はなくて、人族に近いタイプ。
とってもきれいない青みがかった銀色の兎耳と髪色が特徴的なお兄さんだ。
「さっすがサンストナ国の王都だけはあるね。
店主、この帽子に使ってる素材だけど、この色、この艶。これはレマドーナ鳥の尾羽じゃないかい?
この珍しい素材を惜しげもなく使った奇抜なデザイン。さすがとしか言いようがない」
「そうだけど、兄ちゃん、うちの商品に文句でもあんのかい?」
「いやいや、心の底から褒めているだけさ。試着しても?」
「ああ」
思わず聞こえた会話に目を向けると、兎耳のお兄さんが帽子を手にとっていた。
白い中折れ帽に瑠璃色と赤色の羽飾りがついて、とても派手。
でも、お兄さんの毛色にあっていて、似合っていた。
「店主、この帽子、最高だね」
「だろ」
「いくらか聞いても?」
「銀貨五十」
「ぐぬぬ、白の中折れ帽はなかなかお目にかかれないうえに、レマドーナ鳥の尾羽の飾り付き。
決して高いとは言えない。高いとは言えないが――銀貨四十」
「おい、馬鹿にしてんのか、銀貨四十八」
「といいつつ、まけてくれるところにおやっさんの人情を感じるぜ。あんたいいやつだな。銀貨四十三」
「っく、おとといきやがれといいたいとこだが、まぁお前さんにその帽子が似合ってることは認めるぜ、銀貨四十五」
「よし買ったぁ!」
「なかなかやるな」
「オレの名はニコラス。しばらくここを拠点にするから、またくるぜ」
「そうか。覚えておくぜ。あんたに似合いそうな帽子もまた仕入れておこう」
「約束だぜ!」
そしてお兄さんはお代をわたすと帽子を被ったまま去っていった。
うん、つい見入ってしまったけど変わった人もいるもんだ。
メイサさんのお店まではあと少しだ。
思わぬ寄り道をしてしまったし、急ごう!
お店につくと、今日もミアは縫物をしながら店番をしていた。
「こんにちは」
「いらっしゃーい」
うつむいて刺繍をしていた布からミアが顔を上げた。
「言われてた材料、もってきたよ」
「うん、待ってたー」
ミアは刺繍が途中の布を籠に入れると、渡した荷物を作業台に広げて材料の数を確認する。
「きっちりだねー。
あ、ギルドから伝言預かってるから忘れないうちに先に言っておくね。
今日の昼頃、マヤさんがこっちに来てないか聞きに来られたんだけど、午後からリリちゃんが来るって言ったら帰りに寄って欲しいって」
「なんだろう? わかった。帰りに寄ってみる」
「なんだろうねー? あ、素材、師匠に渡してくるから適当に見ててねー」
そう言って奥へと入っていく。
店内を眺めると、昨日とそう変わりはなかった。
ちなみにミアがわたしを置いていったのは不用心でもなんでもない。一応信頼関係はあると思ってるけど、それ以上に、現実的な理由もある。
強盗とか万引き対策にお店にはトラップが仕掛けられていて、商品はきちんとした手順を踏まないと店から持ち出せないようになっているのだ。
聞いた時にはさすが呪具屋さんと思ったものだ。
そういう仕組みがあるから非力そうなミアだけで店番ができるみたい。
ちなみに、ミアは見た目はか弱い女の子だけど、本気で怒るとすっごく怖い。
一応、店内で触っただけで発動するものじゃないと知っているけど、商品は手に取らずに眺めるだけにする。
高価な呪具やアミュレットなどの高級品は憧れるけれど軽く見るだけにして、わたしでも買えそうな値段の小物をゆっくりと見てゆく。
やっぱり、気になるのは昨日見ていたボタンだ。
銀貨三枚。
贅沢だけど、買おうかな。
単純に気にいったというのもあるけど、何か気になる。
「それ私が作ったんだよー」
ボタンを眺めていると、ミアが戻ってきた。
「そうなの!?」
ミアはもう売り物になるものを作っているんだ。
そう思うと、なんだか置いていかれた気分だった。
「えへへ、ようやく綺麗に布が染められたから、最後までやってごらんって師匠に言ってもらったのー」
「じゃ、さっきやってたのも?」
「あれは次のやつの練習なんだよー」
「すごいね…! わたし、ミアに置いてかれてるかも」
「そんなことないと思うけどなー」
ダンジョンにも入れないし、こうして呪具の力を借りないといけないのに。師匠の方針に文句はないけど、このまま時間ばっかり過ぎていったらどうしようとも思うのだ。
うつむいていると、ミアが少し明るい声を出した。
「お客さま、これ、お気に召されましたらご購入、いかがでしょー?」
わざと明るく言ってくれるミアに、少し救われた気分がして、わたしもわざと明るい声を出す。
「もう一声!」
「込められている術は《旅人の気まぐれ》。
危険は何も冒険の先にあるだけのものではありません。森の中で危険生物に遭遇した時はもちろん、道に迷った時、帰るのに疲れた時など、状況に合わせて使ってくださーい」
あ、いいかも。
ダンジョンの中で使うことばかりを考えてたけど、そういう使い方もできるのか。
さすが毎日店番をしているだけある。
「ちなみに、これは私が作った最初の商品になりまーす」
「それを、早く言ってよ!」
「えへへ、だってこれ言うとリリちゃんは絶対買ってくれるでしょ」
「当たり前じゃん」
わたしも初めて狩った草原兎の額石はミアに自慢した後、ミアに買い取ってもらった。
「毎度、ありがとうございますー」
銀貨三枚を渡し、代わりにボタンを受け取る。あとで洋服のボタンをどれか付け替えておこう。
「あと、こちらが師匠から預かってきたタリスマンになりまーす」
「ありがとう」
草原兎の結晶を金色の金属の枠で固定し、鎖がついたものだった。
薄紅の結晶の中に、白い線で幾何学的な図形の呪印が刻まれている。
装飾品としても売れそうに美しいものだった。
「師匠から伝言。身に着けるだけで発動するタイプだから、とにかくいつも装備だけはしておいてってー」
「わかった。そういえば、メイサさんは?」
「師匠はちゃんとしたやつも急いだ方がいいだろうからってもう制作に入ってるよー」
「そっか。よろしくお願いします、って伝えておいてください」
「わかった。出来上がったらこっちから連絡するねー」
「うん、お願い」
素材を包んできた布なども受け取って、帰り支度をする。
「あ、そうだ、リリちゃん」
「なーに?」
「あんまり無茶はしないでね?」
「うん。ありがと。ミアも頑張ってね」
「うん、私ももっと色々作れるようになりたいから、がんばるよー!」
そうしてミアに別れを告げて、次はギルドに向かった。




