12.リリ、呪具屋に行く
呪具屋は、ギルドからそう離れていない。
場所的には、武器屋などがある職人通りから一本裏に入って、細い道を民家を横目に少し歩いた先にある。
民家にまぎれた小さなお店で、通りから道に面した窓ごしに、中の商品の一部が並べてあるのが見える。
刺繍がほどこされた小物や、ブローチ、アミュレット、ブレスレットなど、きらきらしてかわいいものが並べられていて、ガラス越しに奥を覗くと、店の奥には一面刺繍が入ったマントなど布物もある。
一見すると、ただの雑貨屋なのだけれど、そのすべてに何らかの祝福や呪いがほどこしてあるのだ。
店の奥に、わたしと同じ年頃の少女が縫物をしながら店番をしていた。
淡くピンクがかった金髪に、垂れ目がちの薄い青色の瞳。身長はわたしと同じくらい。
わたしの数少ない友達でもある。
名前はミア。
ミアもわたしと同じ、メイサさんのところの住み込みの弟子なのだ。
彼女の師匠とわたしの師匠が顔見知りなうえに、同じ年だということもあって、小さい頃から仲がいいのだ。
玄関にまわって扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませー」
「邪魔するよ」
「こんにちは」
「あ、リリとリリのお師匠さま、どうもー」
ちょっとのんびりした話し方は、彼女の癖でもある。
「えっと、今日は何をお求めですかー?」
「メイサはいるかい?」
「奥で作業をしてますが、お急ぎですかー?」
「ああ。呼んで欲しい」
ミアがパタパタと店の奥へと消えた。
その間、師匠の側で待機なのだけれど、つい、並べられている商品に目が行く。
だって呪具や護符だとわかっていても、かわいいものが多いのだ。
あ、これかわいい。
並べられた商品の中、刺繍が施された布を使ったくるみボタンに目が留まる。
青色の布地に白糸で小花をくわえた小鳥の刺繍。
込められている術は、たぶん《旅人の気まぐれ》。危なくなった時、これに触れて願うと一度だけ発動して、希望したところに連れて行ってくれるものだ。
まだダンジョンに入れないのでそんなに稼げてないわたしにはもったいない買い物かもしれないけど、それでも欲しいな、と思ってしまうくらいには可愛い。
値段は銀貨三枚。
今日の稼ぎの半分だ。
買えない値段じゃない。
悩んでいるとミアが彼女の師匠を連れて戻ってきた。
メイサさんは黒髪に紫色の瞳をした神秘的な美人さんだ。私より背が高いけど師匠よりは背が低い。
紅蓮に輝く赤毛の師匠と並ぶと、なんというか、とても絵になる。
「いらっしゃい。あんたが来るなんて珍しいね」
「忙しいところ悪いね。急ぎで頼みたいものがある」
「厄介ごとかい?」
「まだ判断はしてない」
「へぇ」
口の端をあげて、メイサさんがほほ笑む。
メイサさんの神秘度があがった!
「リリが何らか加護をもらったんだけど、しばらくは抑えておきたくてね」
「どんな加護だい?」
「それがわからなくてね。能力は全体的にあがってるようだ」
「なるほどねぇ。見てみても?」
師匠がわたしに確認を取るように見てくるので、頷く。
「じゃ、ちょっと魔力を見せてもらうよ。私の魔力を通すけど、じっとしてるんだよ」
「はい!」
メイサさんは細い杖を取り出すと、わたしへと向けた。
あ、ちょっと怖い。
呪文は詠唱省略しているようで、メイサさんが杖を優雅に振ると、先端から魔力の光がきらきらと放たれる。
頭から降り注いでいる魔力がわたしの体表を覆っている魔力に触れて、パチパチと弾けた。どちらも実体はないのになんだかくすぐったい。
しばらくそうしていただろうか。
「よしっ」
メイサさんが断ち切るようにして杖を一振りすると、魔力の放出は終わった。
「たしかに、リリちゃんの魔力に何か力が乗ってるね。本来の質は変わっていないけど、影響は受けているようだ」
「だろう? だから、せめて何かわかるまでは抑えておこうと思ってね」
「わかった。けど本格的に作るならそれなりの材料がいるし時間もかかるよ」
「頼んだ。材料は何がいるんだい」
「相性もあるだろうからね。
リリちゃんは魔法使いだろう?
ナーグの羽に、沈瞑草の花か根があれば一番だけど」
「沈瞑草は畑にあったはずだ」
畑の世話はほとんどわたしがしている。
確認するように視線を向けられて「あります」と返事をする。
「あるみたいだ。あと、ナーグの羽はないけど、近いので、メグリ虫の糸なら在庫があったはずだが、そっちじゃダメかい」
「ああ、ならそっちでいい。でもそれだと、封蜂の蜜蝋も欲しいね」
「そっちは確か倉庫に在庫があるはずだ。どれくらいかかる?」
「急いで、三月はかかると思ってほしい」
「なら簡易的なものでもいいから、すぐ使えるものも欲しい」
「すぐにってなると、草原兎の額石にでも呪文を刻むかね」
「助かるよ」
「しめて金貨二枚と大銀貨三枚」
思った以上の大金に、思わず師匠を見上げるけど、師匠は納得するように頷いていた。
わたしでは逆立ちしたって払えない程には高いけど、いいのだろうか。
「妥当だね」
「だろう? 特急料金しか乗せてないからね。
材料持ち込みなしなら、金貨五枚とるところだ」
「だろうね。意外とやっかいな素材ばかりだ」
師匠は思うところあるようで頷いている。
「額石の方は、いつとりに来るといい?」
「簡易版の方は明日夕方に取りに来ていいよ。あ、さっきの材料だけど、用意してほしい量は――」
メイサさんがメモにそれぞれの必要量を書きつける。
「これを、明日来るときにもってきてほしい」
「わかった。リリ、頼んだよ」
「はい!」
「じゃ、これが代金だ」
そういうと師匠は前払いで一括で払ってしまった。
「毎度あり」
メイサさんもそれを受け取る。
そうして、店を出るとあとは帰宅するだけだ。
門を出て、人通りが減った街道を歩きながら師匠に問う。
「あの、師匠」
「なんだい」
「あんなに高いの即決しちゃってよかったんですか」
「ないとリリが困るだろう」
「それは、そうなんですけど」
貰ってしまって良いのか、というのもあるのだ。
「安全は金に換えられないよ」
「それはそうなんですが」
「弟子にしてしまったからね。
最後までとことん面倒みてやるよ。
ま、気にするなら、出世払いということにしておこうかね」
「……はい!」
そうしている間に、家に着いた。
今日は草原兎のソテーと野菜のスープの予定だけど、せめていつもよりも丁寧に作ろう。
そう思った。




