10 由美の特訓(1日目)
「で? 剣を教えるって言ってもどうするの?」
なんだかんだ言って葵も結局特訓の一日目には顔を出してくれた。
「そうだな。とりあえず薪割り的な感じで木を切ってみるか」
俺は目の前にある木を軽く切り倒し、簡易的な薪割りセットを作る。
「んじゃ由美ちゃんとりあえずこれを真っ二つにしてみて」
「はい師匠」
そういうと由美ちゃんは例のごとく「はぁぁぁぁぁぁ」と薪に対しても無駄に気合を入れた声を上げて全力で切りにかかる。
そんな気合とは対照的な小さい音でパコンと、木が二つに弾けた。
やっぱ動かない葵にも当てられなかったから、さすがに――――ん?
ちょっと待って。パコンって音がしたの⁇ 木が二つに弾けたの⁉
「あ、あれ? やった? わ、私、できました!!」
俺ですら最初現実を受け止められない――って言ったら失礼だから、信じられない光景を目の当たりにして驚いていたが、由美ちゃんはそれ以上の反応を見せていた。
木を真っ二つにした張本人が一瞬茫然と立ち尽くしていたのだから。
「師匠! 割れましたよ。どうしたんですか、何なんですかこれ! 私、成長期的な‼」
だが、何が起こったのかを理解するにつれて彼女の顔はほころび、声は大きくなっていった。
一応まぐれということも考えて、もう一本薪を割らせてみたところ、また一発で成功。何の困難も見受けられなかった。
「なんだ、出来んじゃん」
「で、ですね!」
俺だけじゃない。葵も由美ちゃんもこの場にいる全員がこの現実に興奮が抑えられなかった。
「じゃあ次は動いているものを切ってみるか」
そんな興奮が俺の期待を加速させる。本当は一週間くらい後になるだろうと思っていた動くものに挑戦させることになるとは。
「動いているもの……ですか?」
そういうと今度は木を切るのではなく、揺らすことで新たな敵を登場させる。
だが、そんな行動を見せる俺を眺める由美ちゃんの顔は、何かを察したのかみるみると青白くなっていき、その敵が登場した瞬間、彼女の中の何かが爆発した。
「む、む、虫ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
その素早さがあればいくらでも奇襲できるだろ! と突っ込めるほど一瞬で由美ちゃんは俺の後ろに隠れた。
「無理無理無理無理無理無理。絶対無理ですよ! 虫を切るなんて」
「由美ちゃんは自然保護団体のなんかなのか?」
「違いますよ! 虫ですよ。ちょこまかと動いては私たちの皮膚にまとわりついたり、謎の液体を出してきたり、かみついたり、お茶の中に入ったり! 虫って信じられないくらい害悪なんですよ。それを私の剣で、いや近づくのすら無理!」
だが、俺は譲らなかった。どうせ、将来生き残れば自分と戦いたくないものと戦う場面だって出てくるはずだから。
「師匠、それは鬼ですよ。……でも、まぁ分かりました」
そういうと、由美ちゃんは生まれたての子鹿のように足を震わせながら、虫へと近づいて行った。
それから一体何十分が経っただろうか。 やがて虫はお亡くなりになった。
例のごとく剣は虫に対してなかなか当たらないし、そもそも虫嫌いも相まってなかなか虫を刺そうと試みることすらしないし。ちょっと虫が動くだけで数メートル距離を取るし、よくもまぁ虫も殺されるまでこの場にずっといてくれたなと思うほどだった。
「や、やりました! やりました師匠‼ ついに、ついに憎き相手の一人を殺すことが出来ました」
そんな風にたかだか小さな一匹殺しただけで因縁の相手に勝利したかのように喜ぶ彼女を茫然と眺めることしか俺にはできなかったのだ。
いや、ごめんなさい! 今日も長くなってしまいました。
ホント気軽に読める小説を謳っておいて1500字近くまで行くなんて……
でも、切るタイミングが見つかりませんでした。お許しください。
次回は特訓二日目です。何日特訓するかは今のところ未定です(由美ちゃんがちゃんと剣を振れるようになるまでです)。




