第6片「そんなおまけはいらん」
「……なんか最近、増えてないか?」
昼下がり。
王都中央通り。
ノア・フェルンはぼんやり歩きながら呟いた。
「何が?」
隣を歩くダグが聞き返す。
「女」
「お前それ自覚あったんだな」
「不本意だが」
ノアは真顔だった。
最近やたら増えた。
酒場娘。
地主娘。
星占い女。
なんかもう色々いた。
「副長、そろそろ刺されるぞ」
「なんでだよ」
「女関係」
「俺なんもしてねぇだろ」
「してないのに増えてるのが怖ぇんだよ」
ダグは本気で言っていた。
ノアとしてはかなり理不尽だった。
「そもそも俺は平穏に暮らしたいんだ」
「その割にイベント吸引力が高い」
「知らん」
「お前の人生だけラブコメ濃度高くない?」
「俺もそう思う」
深いため息。
そんな話をしながら歩いていると、ダグがふと足を止めた。
「あ」
「?」
「俺こっちな」
「なんだ」
「彼女との待ち合わせ」
「爆発しろ」
「副長の口からその台詞出るの面白ぇな」
ダグは笑いながら去っていった。
ノアは少しだけ空を見上げる。
平和だった。
今日は非番。
任務もない。
誰にも追いかけられていない。
茂みに埋まった女もいない。
素晴らしい。
◇
中央通り。
ノアはいつものパン屋へ向かった。
焼きたてパンの匂い。
この店は騎士団員にも人気だった。
理由は単純。
安くて美味い。
そして。
「毎回ちょっとおまけしてくれる」
これが大きい。
ノアとしてはかなりありがたい。
「今日は何残ってるかな」
店へ入る。
しかし。
「あれ?」
見慣れた顔がいない。
いつも店番している女性――明るい茶髪の店員が見当たらなかった。
「珍しいな」
適当にパンを選ぶ。
会計。
今日はおまけなし。
少しだけ寂しい。
いや別に女性目当てではない。
パンである。
パン事情の問題だ。
「まぁいいか」
袋を受け取り、店を出る。
その時だった。
「あれ?」
隣に新しい店ができていた。
木造の小さな店。
看板には見慣れない文字。
《おにぎり専門店 こめ日和》
「……おにぎり?」
聞いたことがない。
外には小さな説明札。
『隣国の穀物“コメ”を使った新感覚料理!』
「へぇ」
少し興味が湧いた。
ノアは食文化にそこまで拘りはない。
だが新しいものは嫌いじゃない。
何より。
「片手で食えそうだな」
そこだった。
任務向き。
重要である。
ノアは店へ入った。
からん、と鐘が鳴る。
「いらっしゃいま――あっ!!」
元気な声。
そして。
見覚えのある顔。
「あ」
パン屋の店員だった。
明るい茶髪。
エプロン姿。
元気系。
いつもパンをおまけしてくれていた女性。
彼女は目を丸くした後、顔をぱぁっと輝かせた。
「副長さん!!」
「どうも」
「来てくれたんですね!」
「?」
「私を探して来てくれるなんて嬉しいです!」
「は?」
ノアは真顔になった。
「違う」
「え?」
「たまたま新しい店見つけただけ」
「……」
「で、このおにぎりってなんですか?」
女性が止まる。
「……」
「……?」
「私を追って来てくれたんじゃ……」
「違う」
即答だった。
女性がぐらっと揺れる。
「そ、そんなぁ……!」
「だから、このおにぎりって」
「私を追って――」
「違う!!」
ノアが珍しく少し強めに言った。
店内に沈黙。
数秒後。
女性が咳払いする。
「あ、すみません。取り乱しました」
「いや別に」
「このおにぎりはですね!」
気を取り直した。
切り替え早い。
「隣国の穀物、“コメ”を使った食べ物なんです!」
「コメ」
「これを炊いて中に具を入れて握るんですよ!」
「へぇ」
ノアは興味深そうに眺めた。
白い。
丸い。
いや三角もある。
妙な食べ物だった。
「サンドイッチみたいなもんです!」
「なるほど」
「片手でも食べやすいですよ!」
「いいな」
女性の目が輝く。
「副長さん、好きそうだと思って!」
「なんで分かった」
「なんとなくです!」
妙に元気だった。
「おすすめは?」
「焼き肉!」
「それください」
「はいっ!」
女性は嬉しそうに包み始める。
ノアは店内を見回した。
木の机。
小さな厨房。
こぢんまりしている。
悪くない。
「独立したんですか?」
「はい!」
女性が胸を張る。
「パン屋で働きながらずっと貯めてたんです!」
「へぇ、すごいな」
ノアが素直に感心した。
女性が一瞬固まる。
「……え?」
「店持つの大変だろ」
「……」
「準備とか」
「……」
「大変そうだ」
「……副長さん」
「?」
「今ちょっと好きになりそうでした」
「ならなくていい」
「そこは喜んでくださいよ!!」
店内に響くツッコミ。
元気だった。
かなり元気だった。
ノアはおにぎりを受け取る。
「ありがとうございます!」
「どうも」
「今日もおまけしちゃいますね!」
追加でもう一個入っていた。
「いいのか?」
「副長さんには特別です!」
「ラッキー」
女性がじっと見る。
「……」
「?」
「そろそろおまけに私をつけちゃおうかなー!」
「いらん」
即答だった。
「ひどっ!?」
「そんなおまけ困る」
「ひどいっ!」
ノアは真顔だった。
女性はがっくり肩を落とす。
だがすぐ復活した。
強い。
「ちなみに私、ミーナって言います!」
「あぁ」
「覚えてくださいね!」
「努力する」
「不安!」
ノアは店を出る。
袋を片手に歩きながら、さっそくおにぎりを一口食べた。
「……うま」
もちっとした食感。
肉の味。
塩気。
かなり良い。
「これ任務向きだな……」
完全にそっち感想だった。
店の中。
ミーナは扉を見つめながら両手で顔を覆っていた。
「うわぁぁぁぁ副長さん今日も塩ぉぉぉぉ……!」
隣の客が苦笑いする。
「でも来てくれたんだろ?」
「それなんですよぉぉぉ!!」
顔は真っ赤だった。
そして翌日から。
ノアの任務袋に、おにぎりが追加されるようになった。
次回、第7片「祭りの外へ」
お楽しみに!




