↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/13

第2片「自然な?出会いとは」

「おーい、おやっさーん! また切れっ端おくれー!」


昼下がり。


王都西区の外れにある家具工房へ向かって、ノア・フェルンはいつもの調子で声を張った。


すると工房の奥から、


「おう! その辺にあるやつならどれでも持っていきな!」


と、気のいい太い声が返ってくる。


木を削る音。


漂う木屑の匂い。


職人たちの笑い声。


ノアはこの空気が結構好きだった。


「黒と白ある?」


「あー、それならダークオークとシラカバが余ってるぞ」


「そりゃいいね」


「この辺じゃ珍しいアカシアって赤いのもあるぜ」


「じゃあそれももらっとくよ。ありがとよ、いつも」


工房の主、ヴィルト・グリンウッドは豪快に笑った。


熊みたいな大男である。


実際、初対面の人間は大抵一瞬身構える。


だが話してみると、


「細かいことは気にすんな!」


で大体済ませるタイプだった。


ノアとはもう数年来の付き合いである。


家具製作で余った端材を、駄菓子みたいな値段で分けてくれるありがたい存在だ。


おかげで木組みパズル製作が存分に楽しめている。


「今回は何作るんだ?」


「六連」


「また変なの作るなぁ」


「今回は色分けする」


「何言ってるか分からん」


「俺も途中から分からなくなる時ある」


「おい」


そんな会話をしていると、


「あ! ノア! また来たんだ!」


工房の奥からぱたぱた駆け寄ってきたのは、ヴィルトの娘、フルールだった。


明るい栗色の髪を後ろで結んだ十九歳。


今は父の工房を手伝っている。


そして妙にノアの木組みパズルを気に入っていた。


「やぁ、フルール」


「今度はどんなの作るの?」


「黒と白の六連」


「六連!? そんなの解けないよー!」


「完成したらまた試させてやるよ」


「絶対無理だって!」


「大丈夫だ。俺もたまに解けなくなる」


「作った本人が言わないで!?」


ヴィルトが奥で大笑いする。


ノアは木材を抱えながら少し考え込んだ。


黒と白。


そこへ赤を混ぜるとどうなるだろう。


色の流れができる。


いや、構造が複雑になりすぎるか?


「……七連もいけるか?」


「何が?」


「いや独り言」


フルールは慣れた笑顔で、


「また変なこと考えてる……」


と呟いた。


◇


帰り道。


ノアはご機嫌だった。


黒、白、赤。


かなり良い材料が手に入った。


今日は久々に長時間没頭できそうである。


「やっぱシラカバ綺麗だな……」


白木の木材を眺めながら歩く。


完全に木材に意識を持っていかれていた、その時。


どんっ。


「きゃっ!?」


「っと」


また誰かとぶつかった。


今日は本当によくぶつかる。


ノアは軽くため息をつきながら相手を見る。


「あ」


「あっ!」


グレーの髪。


慌てた顔。


なんか既視感あるなと思ったらさっきぶつかった女性だった。


「先ほどはすみません!」


「いや、今もですけど?」


「あ、そうですね! すみませんすみません!」


ぺこぺこ頭を下げる女性。


ノアは少しだけ眉を寄せた。


……おかしい。


家具工房への道中。


そして今、帰り道。


しかも同じ場所周辺。


偶然にしては妙だ。


女性は慌てた様子で言葉を続けた。


「あ、あの! 二度もぶつかったお詫びと言ってはなんですけど、よ、良かったらウチで夕食でも……!」


「いえ、結構です」


即答だった。


女性が固まる。


ノアは真顔だった。


「お気になさらず」


「えっ」


「では」


「ま、待ってください!」


女性が慌てて腕を伸ばす。


「それは困ります!」


「え?」


ノアは止まった。


そして首を傾げる。


「何が困るんです?」


「えっ」


「……」


「……」


女性の目が泳ぐ。


ノアは段々確信し始めていた。


これは何かある。


普通ではない。


そもそも最初のぶつかり方も妙だった。


一度目はまだ流した。


だが同じ日に同一人物と二度は流石に怪しい。


騎士団副部隊長としての勘がそう言っている。


……いや。


使う場所合ってるかは分からないが。


「何か理由があるんですか?」


「い、いえ、その……」


「……」


「……」


「分かりました」


ノアは頷いた。


女性が少し安心した顔をする。


「食事に行きましょう」


「えっ」


「話、聞きます」


◇


十分後。


ノアは女性の自宅にいた。


小綺麗な部屋だった。


机には二人分の食事。


妙に準備がいい。


ノアは静かに椅子へ座る。


そして。


「さぁ」


女性がびくっと肩を震わせた。


「どういう訳ですか」


「え、えっと……」


「何が困るんです?」


「そ、それは……」


「説明してもらいますよ」


ちょっと騎士団モードだった。


内容は恋愛工作の尋問だが。


女性は数秒耐えた。


しかし。


「私はリーシャ・ベルノといいます。


実は、あ、あなたのお祖父様に……」


案外あっさり口を割った。


「……じいちゃん?」


「お、お孫さんに早く結婚してほしいって……!」


ノアは無表情になった。


「あのクソじじいめ……」


「す、すみません!」


「いやリーシャさんは悪くないです」


かなりじいちゃんだった。


むしろ予想よりじいちゃんだった。


女性はおずおず続ける。


「偶然を装って出会うように、と依頼されまして……」


「雑だなぁ……」


「え?」


「いや、じいちゃんの作戦」


ノアは深くため息を吐いた。


あの祖父ならやる。


やるだろうなとは思っていた。


だが本当にやるとは。


いややりそうだった。


かなりやりそうだった。


「……ちなみに報酬は?」


「えっ」


「いや、じいちゃん幾ら払ったんです?」


「そ、そういう感じじゃないです!」


「違うんですか」


「ち、違います!」


女性は慌てて首を振った。


そして少し俯く。


「あ、でも……」


「?」


「それだけじゃないんです」


ノアは黙る。


女性は顔を赤くしながら言った。


「わ、私自身も、ノアさんのことは前から気になってて……」


「はて?」


ノアは首を傾げた。


誰だっただろう。


見覚えがない。


女性は恐る恐る尋ねる。


「……覚えてらっしゃいませんか?」


「……」


ノアは真剣に考えた。


全然分からない。


「あなたがよくいらっしゃる酒場、

『月灯りの麦亭』で働いてるんですが……」


「……」


「……」


「全く覚えてない」


「…………」


空気が止まった。


女性の目が死んだ。


ノアは少し申し訳なくなった。


「いや、その」


「こないだも来てくださったじゃないですか……!」


「月灯りの麦亭は分かる」


「私は!?」


「……」


「……」


「おすすめ定食うまかったです」


「そういう話じゃないです!!」


ノアは少し怒られた。


理不尽な気もしたが、多分自分が悪い。



次回、第3片「勝手に来た迎え」

お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。