変死 第4話
車に戻った拓哉は、持ってきたノートパソコンを開いた。
そして、先ほど牧場主から借りた牛の写真をパソコンに取り込むと、何処かへメールで送信した。
「何をやっているんですか?」
綾乃が拓哉の操作しているパソコンを覗き込みながら尋ねた。
「ちょっと、専門家の意見を聞こうと思ってな……」
拓哉は真剣な表情で、パソコンの画面を見つめていた。
「専門家って……」
綾乃がそう呟いた直後だった。
突然、拓哉の携帯電話が車内に鳴り響いた。
「もしもし……」
拓哉が電話に出る。
すると――。
『もしもし、拓哉? メールに添付されていた写真なんだけど……あれ、どうしたの?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、科学警察研究所に所属する茉里の声だった。
「どうしたって?」
『どうしたも何も……あの写真、本当に牧場で撮られたものなの?』
茉里の声には、いつもの軽い調子がなかった。
拓哉は眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
『写真そのものに、ちょっと気になるところがあるの』
「気になるところ?」
拓哉が聞き返す。
茉里は少し間を置いてから、
『牛の死体の周囲を拡大してみて』
と告げた。
「周囲?」
拓哉は携帯電話を肩と耳の間に挟みながら、パソコンの画面を操作した。
そして、写真を拡大していく。
「……これか?」
牛の死体の周囲。
そこには牧草が広がっている。
だが――。
その一部分だけ、まるで円を描くように草が倒れていた。
「……何だ、これ?」
拓哉が思わず呟く。
『でしょう?』
茉里が答える。
『最初は撮影した時の影かと思った。でも、影じゃない』
「じゃあ、何なんだ?」
『それが分からないのよ』
茉里の声が少し低くなる。
『それと、もう一つ』
「まだあるのか?」
『写真の右上を見て』
拓哉は言われた通り、写真の右上を拡大した。
そこには――。
青空の中に、小さな黒い点が写っていた。
「鳥じゃないのか?」
『最初は私もそう思った』
茉里はそう言った。
『でも、拡大すると……形がおかしいの』
拓哉はさらに画像を拡大した。
すると、その黒い物体は――。
まるで円盤のような、奇妙な形をしていた。
「……何だ、これ?」
拓哉の表情が変わる。
その横から写真を覗き込んでいた綾乃も、
「こ、これ……」
と息を呑んだ。
茉里は電話の向こうで静かに告げた。
『私にも、それが何なのかは分からない』
そして、少し間を置いて、
『でも……普通の航空機には見えないわ』
と言った。
車内に、嫌な沈黙が流れた。
拓哉は写真を見つめたまま、
「……まさか」
と呟いた。
その時――。
突然、車の外から、
「キィィィィン……」
という、あの奇妙な音が聞こえてきた。
拓哉と綾乃は、同時に顔を上げた。
「……今の音」
綾乃が青ざめた顔で窓の外を見る。
だが、牧場の周囲には何もない。
ただ、風に揺れる牧草だけが広がっていた。
拓哉はゆっくりと空を見上げた。
そして――。
「……茉里。写真の解析、急いでくれ」
『分かった』
電話が切れた。
拓哉は携帯電話を握り締めたまま、しばらく空を見つめていた。
この牛の変死事件は――。
どうやら、ただの怪死事件ではない。
そのことを、拓哉も少しずつ感じ始めていた。




