変死 第3話
牧場主から見せられた牛の写真を見ながら、綾乃は明らかに困った顔をしていた。
『こんな状態で、どうやって調べろっていうのよ……』
牛の死体はすでに処分されている。
残っているのは、牧場主が撮影した一枚の写真だけ。
これでは詳しい調査などできそうになかった。
そんな綾乃の様子を横目で見ながら、拓哉は牧場主に声をかけた。
「すみません……」
「はい?」
拓哉は牧場主の顔を見つめながら、
「あの写真を、少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
と尋ねた。
牧場主は一瞬、嫌そうな顔をした。
しかし、すぐに表情を戻すと、
「ええ……いいですよ」
そう言いながら、服のポケットから先ほどの写真を取り出した。
そして、拓哉に手渡す。
「ありがとうございます」
拓哉は写真を受け取ると、もう一度、そこに写っている牛の死体をじっくりと見つめた。
綾乃も拓哉の横から写真を覗き込む。
「……やっぱり、変ですよね」
「ああ」
拓哉は短く答えた。
「何かがおかしい」
牧場主はそんな二人を黙って見つめていた。
その顔には、どこか不安そうな表情が浮かんでいる。
「じゃあ、この写真はしばらくお借りしますね」
拓哉はそう言うと、写真を大切にしまった。
そして綾乃と共に牧場を後にした。
二人が車へ向かって歩き始めた時――。
綾乃が振り返った。
牧場主はまだ、二人の後ろ姿をじっと見つめている。
「……拓哉さん」
「ん?」
「やっぱり、あの牧場主……何か隠していると思いませんか?」
拓哉は振り返らずに答えた。
「ああ。俺もそう思う」
そして、手にした写真を見つめる。
「問題は……何を隠しているかだ」
その時だった。
牧場の奥から、また一頭の牛の鳴き声が響いた。
「モォォォォ……」
拓哉と綾乃は同時に牧場の方を振り返った。
だが――。
今度は牛の鳴き声に混じって、
「……キィィィン……」
という、どこか機械のような奇妙な音が聞こえた。
「……何、今の?」
綾乃が不安そうに呟く。
拓哉は牧場の上空を見上げた。
しかし、そこには何もなかった。
ただ、青い空が広がっているだけだった。




