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変死 第10話

 「それに……」


 南部は、拓哉と綾乃に見せた写真を見つめながら、静かに話し始めた。


「どの牛も、前日までは何事もなく元気に餌を食べていたそうなんですよ……」


「前日まで?」


 綾乃が聞き返す。


 南部は頷いた。


「ええ。ところが翌朝になると、突然、変わり果てた姿で見つかる……。

 そんなことが何度も繰り返されているんです」


「なら……何故、そんな状態になったんです?」


 拓哉が尋ねると、南部は少し俯きながら、


「壊疽……ではないかと思うのですが」


 と答えた。


「壊疽?」


「ええ。何らかの原因で身体の組織が壊死してしまった可能性です」


 南部はそう説明した。


「ただ……」


「ただ?」


「本当に壊疽なら、もっと前から牛の身体に何らかの異変が現れていてもおかしくないんです」


 南部は写真に写る牛を見つめた。


「ところが、飼育していた人達の話では、前日まで何の異常もなかった」


「……」


 拓哉は黙り込んだ。


「だったら、ちゃんと調べればいいじゃないですか」


 拓哉が少し苛立ったように言う。


「そうすれば、原因も分かるでしょう?」


 すると南部は、困ったような顔を浮かべた。


「それが……できないんですよ」


「どうして?」


「先ほども言ったでしょう?」


 南部は小さく溜息をついた。


「この辺りの牧場主達は、あの牛の死体をひどく気味悪がっているんです」


「気味悪がっている?」


 綾乃が尋ねる。


「ええ。『あれは普通の病気じゃない』『あの牛を調べると、次は自分達が狙われる』

 ……そんなことまで言う人もいます」


「狙われるって……誰に?」


 拓哉が聞き返す。


 南部は答えなかった。


 ただ、窓の外へ視線を向ける。


 青森の広い空が、教授室の窓から見えていた。


 やがて南部は、


「……だから、死体を研究用に提供してほしいと頼んでも、誰も応じてくれないんです」


 と静かに言った。


 拓哉は腕を組み、考え込んだ。


「つまり……原因を調べようにも、調べる材料そのものが残っていない」


「そういうことです」


 南部が頷く。


 すると綾乃が、ふと机の上に置かれた一枚の写真に目を向けた。


「……先生」


「はい?」


「あの写真……」


 綾乃が指差した。


 そこに写っていたのは、牛の死体ではなかった。


 暗い牧場の上空に浮かぶ――。


 奇妙な白い光だった。


「これって……一体、何なんですか?」


 南部の顔から、再び笑顔が消えた。

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