エクスキュリア編エピローグ
ふと目を覚ますと、部屋の中は真っ暗だった。
「あれ……?」
何でこんな時間に目を覚ましたんだろう?
それが緋色の感想だった。
寝つきは良くて、夜中に目が覚めるなんてことは今までほとんどなかった。
たしか昨日の夜は、大事な用事に備えて早く寝て……?
用事って、なんだっけ。
凄く長い夢を見たようで、寝る前との記憶が繋がらない。
とても怖い夢だった気がする。
だけど、夢の最後に…….
真っ暗な部屋の中、いつもの枕と布団が何故かとても心地よくて、大事なことを思い出せないままに再び眠りに落ちていく。
トゥルルルル!トゥルルルル!
沈みかけた緋色の意識を覚醒させたのは飾りっ気のない着信音だった。
こんな時間に電話をしてくるなんて非常識な話だ。だけど、スマホに表示されているのは家族以外で唯一それが許される人の名前だった。
「ご、ごめんねこんな時間に」
通話口から流れてくる遠慮がちな声が、何故かとても懐かしく感じられる。
「何だか凄く怖い夢を見ちゃって。どうしても声が聞きたくなって」
ぜんぜん構わない、僕も話がしたかった。そう答えると、電話の声はほっとしたように夢の内容を語り始めた。
「あのね、空から鎖が伸びて来てね。その鎖にヒイロが捕まっちゃうの。私は一生懸命手を伸ばすんだけど、でも届かなくって、ヒイロがつれてかれちゃって」
「……うん」
……ああ、そうだ。
そうだった。
「それでね、大騒ぎになるんだけど、でも次の日にはみんなヒイロの事忘れちゃってるの。ヒイロなんて知らない、そんな人いないって、みんな困った顔で私を見るの」
「……うん」
明日香が夢を見ている間、僕も同じ夢を見ていた。
長くて、怖くて、苦しくて、そこに明日香がいない夢。
「机も下駄箱もなくて、もしかしたら、ほんとにヒイロはいなくて、私の妄想なんじゃないかって、私までそんなこと考えちゃって。でも私、クッキークリームのアイスなんか頼んだことなかった。絶対なかった、って」
夢の事を思い出したらしく、最後の方は涙声になっていた。
「夢なのに、ただの夢なのに凄くリアルで、怖くて。変だよね。ヒイロには昨日も会ったし、明日だって会うのにね」
なぜもっと早く帰ってこなかったのだろう。
夢の中で蛋白石の少女に出会った後、一ヶ月も帰還を伸ばした自分が腹立たしい。
馬鹿だった。僕は世界の平和なんかよりずっと大事なことを忘れていた。
「あは。ヒイロの声聞いたら安心したみたい。凄く眠くなってきちゃった。ごめんね、夜中にこっちから電話したのに」
「……ごめんな、アスカ」
「え?」
「なんでもない。明日楽しみにしてる」
「うん!」
通話を終え、天井を見上げると急に眠くなってきた。明日香が言っていたように自分も安心したのかもしれない。
別に抗う理由はない。
猛烈な眠気に、渡瀬 緋色は身を任せることにした。
明日、明日香に話したいことがいっぱいある。ごめんもありがとうも、電話なんかじゃ全然たりない。
明日香が見たのと同じくらいにリアルで、怖くて、だけどハッピーエンドな夢の話。
いつもの店でチョコミントを三カ月ぶりに味わいながら、明日香に聞いて欲しかった。
――――――――
昔々。
世界に大きな穴が開き、そこからたくさんの怪物が現れました。
人々が絶望に沈む中、神託を受けた一人の青年が洞窟に隠された聖剣を見出します。
聖剣の力で異形を打ち払い世界を救ったその青年は、後に勇者と呼ばれるようになりました。
でも勇者様が死んでしまった後、悪い王様が聖剣を一人占めしてしまいました。
悪い王様は聖剣の力で他の国や種族に降伏を迫ります。
困った他の国々は天に祈りを捧げました。
すると空から死んでしまったはずの勇者様が竜に乗って現れて、王様から聖剣を取り上げてしまいました。
聖剣がなくなってしまったことはすぐに知れ渡り、悪い王様の国は沢山の国に攻め込まれて、あっという間に滅びてしまいました。
こうして世界に平和が訪れたのです。
――――ここはエクスキュリア。
様々な種族が共に、人として暮らす世界。




