35
フォックス、そしてホワイトロックはあの時零社のビルの近くに流れ着き、身柄を拘束され注射を打たれるに至った。
あの後ホワイトロックとは別行動する事になったわけだが、注射を打たれてから唸るように気分が悪い時もあれば、正気に戻る時もあった。
何にせよ身体に力が漲ってくるのは確かで、敵対している相手二人を味方に加える離れ業も成し得たのだ。
ナギサとナナシ。
今の自分に比べれば無力だった。
だが時魔法を扱えるナギサに魔力アップの補助魔法を施すと秘められた力が解放され禁術「タイムワープ」が成されるに至った。
五年分の成長を授かるそれは自身の寿命を削る。
だが、とんでもない力を手に入れるとされている。
魔力補助程度で禁術発動になるとは予想していなかった。
ナギサの才能を試してやろう、と軽い気持ちだったのだ。
結果論からするとナギサは天才の一人だったわけで、十九歳の姿のナギサは胸も少し膨らんでいた。
目が悪いのかポケットに仕舞っていたはずの眼鏡をかけている。
亜人は人間に恋はしない。
それはフォックスの中では絶対だった。
だが必ずしもあのクロウも同じ気持ちとは限らない。
サイコロを投げ、今のナギサが存在したようなものだ。
自分が零社側につくのは少し前までは考えられないようなものだった記憶が薄っすらある。
美人だろうが何だろうが、戦闘における味方として利用して終わりだ。
聞けば裏魔法を扱える気がすると言う。
二代目ホワイトロックでも名乗るつもりか。
この女性と一緒なら伝説を遺せる可能性も上がると言えた。
ヒロナ帝国中西部の岬。
ここでフォックスはある人物と待ち合わせしていた。
銀竜に跨った、そうハウルである。
零社はガゼドの者と手を組んでいるーー意外だったが、ハウルを乗せた銀竜が向かうのはガゼドとは別の所だそうだ。
「フォックスサマ、マダデスカ?」
ナナシが待ちきれなくなり堪らず言う。
このゴブリンは火炎弾が扱える以外は取り柄がない。
つまり補助のしようがないのだ。
ハウルとの待ち合わせまでにこの岬から突き落としてもいい。
不意に邪悪な案がフォックスの脳裏を過ぎった。
サーベルで刺し殺すわけじゃない。
あばよ。
フォックスはナナシを海の方へ蹴り落とした。
ハウル達を舐めない方がいい。
中途半端な力はどのみち後で殺される。
ナギサが驚いていたが、むやみやたらに何も言って来なかった。
(ナナシ、悔しければそこから這い上がってこい)
冷酷染みた自分も久しぶりな気がした。
「来た、銀竜だ!」
東の方から体長十メートルに達するドラゴンが弧を描き、翼をはためかせながら着地する。
竜騎士アレサンドロの相棒だった竜、やはり中々の迫力だ。
「これから向かうのは新コンテンツの天空島。一緒に黄金を探そう」
ハウルは紫の長髪で見事な着物を着ていた。
「そちらは?」
「ナギサ。一応裏魔法が使える」
フォックスはそう告げるなり銀竜に跨った。
「おや?エスコートは?」
「亜人に色恋沙汰は無しだ」
ハウルは再び頷きナギサが乗り終えるまで待っていた。
妙だ……これが魔王復活を企むガゼドの者か?
もっと邪悪で凶暴かと思っていたが……。
まあいい、宝探しは嫌いじゃない。
「裏魔法の秘密についてはご存知か?」
「あっ、知らないんだ。裏魔法四人の連携技で魔王ラグナロク様を復活或いは完全消滅させられるんだ。ナギサさん、この事秘密だよ」
裏魔法四人の連携で……!
ホワイトロックを手懐けた今、アニキが明暗を分けるのか。
その時フォックスを頭痛が襲った。
これは嘗て魔王を嫌っていた時の記憶……!
(うっ……!)
「大丈夫?」
「うむ……ガゼドの者にも良心はあったか」
「当たり前、です。俺らからして見ればジン王国の民こそ滑稽」
(フッ……流石は砂の街リエコスを焼き払っただけある)
銀竜はスピードを上げて遥か上空へと飛んでいく。
しっかり掴まってないと振り落とされそうだ。
「うっ……!」
ナギサが落っこちそうになった時、思わず手を差し伸べていた。
又もや頭痛。
今度はさっきよりも酷い。
(これは……ソラ達との記憶のフラッシュバック……!)
大剣ソーイアロが目当てのはずだった。
それがソラやクレラといった者たちと友情育む一歩手前までいっていた。
以前の自分は冷酷そのものだった。
正義感はあったが、基本人間を忌み嫌っていた。
クロウと同じ亜人同士という理由でつるみ、酒に溺れる日々を過ごしていたのだ。
そう言った意味ではソラとクレラとの出会いはある種の分岐点だったと言ってもいい。
三人を乗せた銀竜の向かう方向に、空に浮かぶ陸が見えてきた。
(天空島……黄金探しだ)
フォックス自身の黄金の取り分は良くてほんの数パーセントかもしれない。
それでも宝探しはロマンがあると言えた。




