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流星の魔女〜魔女見習いは魔都を飛ぶ〜  作者: ごこち 一
第五話「フィルの過去と月の魔女」

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5-9 力の活かし方


 話し合いが終わり、それぞれ解散する事となった。


 フィルはメフィストと共に自室へ。村長の妻と息子は、村長宅へ。


 クリスタ家の応接間に残ったのは、トリーナと魔女メロウ。そして、二人の対面に座る村長。この三人である。

 三人は、淹れ直した紅茶を卓に並べ、互いに顔を突き合わせていた。


 三者の間にある卓の上には、割れた赤い宝石が白いハンカチの上に置かれており、その横には、村長の息子が普段から持ち歩いている首下げ(ひも)のついた赤い発動体(スターター)が置かれている。

 村長は、自分が息子に贈った発動体(スターター)を見て顔を渋く歪めると、胸元から取り出した銀縁眼鏡をおもむろに装着した。


 その流麗な眼鏡を見て、魔女メロウが関心気な声を上げる。


「へぇ。魔力を見通すレリック『開眼せし瞳(サードアイ)』か。面白いもの持ってきてるねぇ。村長さん、用意いい」

「なんだいボーマン。あんた最初から調べる気だったんだね」


「ええ。あの時、広場に居た者達には既に話を聞いていましたから。ならば必要かと。トリーナ様、メロウ様、少々お待ち下さい」


 村長が魔法の道具(レリック)である眼鏡に魔力を通すと、レンズを通して見る世界に新たな色が生まれた。


 割れた赤い宝石からは黄、緑、赤と様々な色がマーブル模様を形作っており、(わず)かずつ(もや)となり宝石から離れていく様子が、レンズを通し映し出されている。

 靄の中に見える色は、どれも透明度の高い澄んだ色をしているのだが、その端に鈍い(だいだい)色が少量存在しているのが見えた。


 その色たちは、サードアイが魔力を読み取り映像化したものである。


 サードアイを何度も使ったことのある村長には、その鈍い橙色をした魔力に見覚えがあった。

 確信を得るため、隣に置かれた息子の発動体(スターター)を注視する村長。すると眼鏡を通して見る息子の発動体(スターター)は、同じ鈍い橙色一色で満たされていた。


「確かに、これはブレックの魔力だ」


 本来ならば、同じ魔力である事を証明するには、また別の魔法の道具(レリック)が必要である。だが、村長にはこれだけで充分であり、これ以上調べるつもりもなかった。

 村長は眼鏡をはずすと、短時間ながら酷使する事となった目と頭を休ませるようにうつむき、丹念に目頭を揉み始めた。


「ふぅ……フィルちゃんの言う通りでした」

「ブレック君も自分で罪を認めたんだし、態々(わざわざ)レリック使ってまで調べる必要なんてなかったけどねぇ」

「メロウ。あんた、子供に自白を強要しておいて、よく言うよ」


 そう言いジト目を隣へ向けるトリーナ。

 視線の先で紅茶をすすっていた魔女メロウが、悪びれもなく笑い出した。


「あははは。だってどっちが嘘つきかなんて、ちょぉっと盗み聞きしてただけの私でさえ分かることだったから……ついやっちゃったぁ。てへっ」

「『てへっ』って歳かい。あんたもう――」

「おばさま! 実年齢はトップシークレット! 駄目! 言っちゃダメぇ!」


 大きな胸の前で腕を交差させ×印を作り、必死にお道化(どけ)る魔女メロウ。

 そんな娘の友の姿に、トリーナは(あき)れ顔である。

 久しい出会いに友好を深める二人とは違い、村長の顔は真剣そのものであった。


「しかし不思議だ……フィルちゃんは、我々ではレリックを通さなければ見抜けないことを、自然と感じ取れている……いや、見えているのでしょうか?」

「さぁねぇ。ただあの子は、フィルは前からそうさ。私らには見えないものが見えて、聞こえない音が聞こえて、そして感じ取れないものが感じ取れる……ずっとずっと、フィルは正直者のままだよ」


 トリーナはそうしみじみと語り、湯気立つ紅茶を口へと運ぶ。

 先程までお道化(どけ)ていた魔女メロウも、何かを思い出すかのように自分の(あご)を人差し指でトントンと叩いていた。


「そういえばパーラもそんな所があったね。私達とは違う世界を見てるというか……まぁ、だから今でも、魔女なんてけったいなモノしてるんだろうけど」

「あんたも魔女だろう。自分で『けったい』だなんて言うもんじゃないよ」

「ハハハ。相変わらずおばさまは優しいなぁ」


『困った子だねぇ』と言わんばかりに(しわ)を増やすトリーナと、笑顔の仮面を被りながらも少し嬉しそうな魔女。

 二人と違い、村長はその平坦な面持ちに困惑の色を浮かべていた。


「すみません。私には、その『魔女』というものが何か分からないのですが。トリーナ様はご存じなのですか?」

「私も知らないよ。さっぱり帰って来ない娘とバロックは、夫婦揃って魔女を名乗ってるけど、それだけさ」


 あっけらかんと言うトリーナの言葉に、魔女メロウの薄紫色の目がキョトンと丸くなってしまう。


「ん? パーラもバロックも、おばさまに何も話してないの? あの子たちったら……ん、まぁーなんと言うか、自分の信念に(もと)づき、魔法を使って世界を裏から支えている人達の……呼び名? その寄合(よりあい)? みたいなもの。世界各地で目下(もっか)暗躍中だけど、基本的には危ない存在じゃないから安心して、ねっ」


「はぁ。メロウ様がそう仰るのであれば」

「やっぱりよくわからないねぇ」


 受け入れた風に装う村長であったが、分からぬと言うトリーナの言葉に内心頷いていた。

 トリーナも村長も、自らの知識や世間の常識の範囲にない『魔女』という存在が理解出来ない。魔法を使う者の一般的な呼び方『魔法使い』や、その中でも卓越した者の称号である『魔術師』、それと『魔女』の何が違うのか、分からない。


 だが分からないのが普通であり、元より詳しく教えるつもりなどない魔女メロウの雑な説明で理解出来る方が可笑(おか)しいのである。


「まぁまぁ、魔女のことは気にしない気にしない。それよりも、これからどうするの? お二人さん」

発動体(スターター)の事ですね。当然、弁償させて頂きます。代わりになどならない事は百も承知ですが、良い魔鉱石を仕入れ、コズモ先生に加工を頼もうかと」


 コズモ先生とは、村に魔法を教えに来ている魔術師であり、フィルにも魔法を教えている好々爺(こうこうや)である。

 魔女メロウも『コズモ先生』のことを知っているのか、口笛と共に「いいねぇ」と呟いていた。

 しかし、弁償を受ける立場のトリーナは、ゆっくりと首を横へ振っていた。


「別に使えるならば良いものじゃなくてもいいんだよ。代々受け継いできた発動体(もの)とはいえ、あれは元々高価なものじゃないからね……それに、あの子の気持ちは……あれがパーラが使ってた物だったってことは、金額の多い少ないじゃどうしようもないからさ」


 そう言って紅茶を一口飲み、温かな吐息を零すトリーナ。

 そのぼんやり開いた目が見るのは、対面に座る村長ではなく、中々顔を見せに帰ってこない娘パーラの姿であり、今も自室で謹慎中の孫フィルメイルの姿であった。


 村長も息子がしでかした事の重さに、何も言えずにいた。

 応接間にしんみりとした空気が流れる中、短い静寂を破り、透き通る声が響く。

 魔女メロウの声である。


「よしっ。決めた。ここは月の魔女メロウ・グロウにお任せあれ、ってね。村長さん。その割れた発動体(スターター)、調べ終わったなら私が預かってもいい?」


 突然の申し出に、村長は驚きを隠せない。


「は、はい。トリーナ様がよろしければ」

「わたしは構わないよ。けど、いいのかい? あんたも忙しいんだろう?」

「ハッハッハ。魔女の自由を縛れるのは魔女だけだよ……あと、自慢じゃないけど私、今、暇!」

 

 無駄に胸を張った魔女の宣言に、トリーナの笑声(しょうせい)と村長の苦笑いが重なる。

 トリーナの増えた(しわ)に釣られてか、ふんすと自慢げであった魔女メロウの顔にも笑い皺が生まれてしまう。


「それに力ってのは、こういう時にこそ活かすべきでしょ。ねっ、おばさま」

「ハハハ、言うじゃないか。何をするか知らないけど、任せたよメロウ」

「魔女にお任せあれ~」


 アハハハ、ウフフフと笑い合う二人を前に、村長は独り悩んでいた。

 魔術師協会を通した金額の決まった仕事なら()(かく)四本線の魔術師(クァトル・マギ)『虚空の』メロウ・グロウに直接仕事をして貰うのに、一体全体幾らお金を積まねばならないのだろうか、と。


 村長は、キリキリと痛む胃へ無言で紅茶を流し込み続けた。

 魔女メロウが無償で受けるつもりである事など、知る由もなく。

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