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第45話 会議

 母校の女学校で私達は、ヘンリエッタ校長、タチアナ先生、男子の中等学校のフーベルト先生と、我が国の中等教育における算術教育について話し合っていた。最終目標は明らかで、ヴァルトラントにおいても男女の中等教育において、ノルトラント王立女学校と同等な算術教育を実現することである。軍事的には先の戦争でノルトラントが射撃精度を高度な計算によりあげたことは各国に知れ渡っているから、我が国も同様の技術を使いこなせる人材を育てなければならない。非軍事的にも今後のノルトラントとの科学協力において必要なのは明らかだ。父国王陛下がお望みのように、ステファン殿下と大聖女様を我が国にお迎えした場合、現状のヴァルトラントの人材ではお二人のお役にたてないだろう。


「どうでしょうかオクタヴィア姫殿下、現状の6年生の授業をノルトラント女子大の受験に耐えうるレベルに変えられるでしょうか」

 タチアナ先生がかなり厳しい表情で仰った。6年生は中等教育学校の最終学年にあたり、標準で十八歳である。先生のお顔から、答えはすでにご承知と思える。

「残念ですが先生、正直なところそうしてしまうと、かなりの数の落第者が出てしまうでしょう」

「やはりそうですね、数年かけてカリキュラムを改変していくしかないですよね」

「そもそも失礼ながら、ノルトラント王立女学校の6年レベルを教えられる教員がいないのではないですか」

「ええ、正直なところ、ヴァルトラント王立大学から男性教員をお借りするか、ノルトラントから派遣していただくしかないと考えられます」

 ここでフーベルト先生が発言された。

「少し話がそれますが殿下、男子の中等教育学校の算術のレベルも早期にそうなりたいのです。というのは、いずれノルトラントの高等教育機関の入試が女子大と同レベルになることがよそうされますので」

「それもそうですね、フーベルト先生」

 相槌を打ったものの、私はここで大変に言い難いことを言わざるを得なかった。

「問題はですね先生方、ノルトラントにおいて5年生・6年生の算術の授業は、大聖女様とお仲間の方々がほぼ一手に担っていらっしゃいます。ノルトラントにおいても、そのレベルの教員の養成には苦労しているのです」

 皆しばらく声を失ってしまった。


 重苦しい雰囲気のなか、絞り出すようにヘンリエッタ校長が仰った。

「そうなると、大聖女様かお仲間の方にこちらに来ていただくしかないのでしょうか?」

 そしてまたしばらく、会議室を沈黙が支配した。


 なぜ皆沈黙なのか、それは出席している全員が大聖女様のお忙しさを理解しているからである。普通の聖女様であっても国民のために祈り、福祉事業をてがけるので忙しい。地方への出張も多い。大聖女様はもちろんそういった通常の業務に加えて、聖騎士団を従え国防の任につき女子大で教育と研究活動もされている。我が国も気象観測のお手伝いをさせていただいているから、ここにいる出席者全員そのことはよく分かる。

 さらには大聖女様のスケジュールは上記の理由により多忙を極めているから、ノルトラント国内でも大聖女様の授業は短期集中講義になってしまったりしている。女学校のみならず女子大でももちろんそうである。国防にかかわることだから直接聞いたことはないが、各騎士団における算術授業もなかなか組めないらしい。

 そして私たちが教員の派遣を要請した場合、大聖女様は決してそれをお断りにならないことが予見される。あの方は困っている人を、どこの国民であろうと捨てておくことはできないからだ。お仲間たちも全く同様である。なんとかして、無理をしてでも私たちにお力をお貸ししようとされるだろう。


「大聖女様にさらなるご負担をおかけすることは、我が国の望むべきことではありません。さりとて我が国の発展自体は大聖女様もご期待とは思います。自助努力できるところは努力し、同仕様もない部分については、大聖女様とご相談するしかないのではないでしょうか」

 タチアナ先生は、下を向いたまま、そう仰った。大聖女様への相談の窓口は間違いなく私であるから、先生もとても言い難かったに違いない。王族の不興を買いかねない発言を勇気をもってされたのであるから、私も王族としての義務を果たそう。

「タチアナ先生、先生の仰るとおりだと思います。私はノルトラントに帰りましたら、大聖女様にご相談申し上げます」


「私から申し上げるのも変なのですが殿下」

「なんでしょう、ヘンリエッタ先生」

「どうか、どうか大聖女様がご無理をされないよう、お気をつけてお話ください」

「ええ、もちろんそういたします。大聖女様は他国の方ではありません。私としては我が国、我が国民が、ノルトラントのお仲間になりたいと熱望しております。大聖女様に無理なご苦労をおかけすることは、私の本位ではありません」

「殿下、差し出がましいことを申し上げ、申し訳ありません」

「先生、先生は大聖女様とお話になったことがおありですよね」

「はい、殿下」

「すでに先生はもう、大聖女様のお仲間ですよ、間違いなく」

「ありがとうございます」

 ヘンリエッタ先生は目を赤くされた。


 後日ノルトラントに戻った際、私はこの件を大聖女様達にご相談した。

「う~ん、難しいですね。もちろんオクタヴィア殿下の仰ることはよくわかりますし、なんとかしたいと私も思うのですが、とにかく手が足りないのです」

 予想通りの反応であった。大聖女様は難しい顔で考えこんでいらっしゃる。他のみなさんも同様だ。


 ややあって、ステファン殿下が仰った。

「アン、この問題は、早急に解決する必要があると思う。これはノルトラントの内部問題でもある」

「どういうこと、ステファン」

「結局のところ、女学校、中等学校、各騎士団、もちろん女子大を含め、かなりの部分の算術の授業、我々が行っているだろう」

「そうね、ステファンにも頼んでるくらいだもんね」

「まあ僕が授業をすることには問題ないけど、将来的に今のままというわけにはいかないだろう。ノルトラントの国内問題として、高度な算術・数学の教員の養成は解決しないといけないんだよ」

「それもそうね」

「だからさ、教員の養成コースを整備しないといけないんだよ」

「それはわかった、ステファン。でも短期の問題はどうする?」

「うん、今年はもう実質的にうごきはじめるからもう、どうにもならない。来年に向け、準備していこう」

「具体的になんかある?」

「ああ、アン、若手の学校だよ」

「若手の学校?」

「うん、来年の夏にさ、合宿形式で1か月くらい、どうかな?」

「どこでやる?」

「離宮だろう。離宮でさ、男子・女子の算術教員の研修をするんだよ。そこにヴァルトラントからも来てもらえばいいだろう」

「わかった。みんな、いいかな」

 そこでフローラ先生が口を挟んだ。

「いい、とは即答できない。研究させて」

「じゃあお願い。あんまり時間をかけられないわよ」

「うん、1・2週間で結論は出ると思う。たださ、離宮の使用許可は、殿下か聖女様、お願いね」

「わかった。そっちは任せて」

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