第46話 新学期
「オクタヴィア殿下、お手紙です」
秋の初め、女子大の寮で新学期を待つ私のところに父から手紙が来た。私は敗戦国の王族であるから、寮監ゲルリンデさんから受け取った手紙はいつものように開封されてあった。
「聖女様から、申し訳ないのですが開封させていただきました、とのご伝言をいただきました」
「ありがとうございます」
今までそのようなことは言われたことがなかった。もしかしたら特別なことが書かれているのかもしれない。少し心臓の鼓動が早くなるのを感じながら自室に急ぐ。先程までは夕食が胃に存在感を示していたが、もう感じない。
部屋に帰り手紙を読む。
内容は簡単だった。アルターハーフェン領主家より、テオパルド様の配偶者として輿入れしてもらえないかという要請が来たとのことだ。国王である父は、私に不満がなければぜひ受けてほしいとあった。
アルターハーフェン領主家はノルトラント王家の遠戚であるから、王としては家柄に文句は無いと書いてよこしてきている。ただ父として、幸せな家庭を築くのに確信が持てないのならば、すぐに返事する必要はないし、なんなら断ってもよいとあった。
私としてはテオパルド様に不満はない、と言うより自分の気持ちにはとっくに気づいていた。問題はただ一つ、アルターハーフェンは王都から少し離れた港町であるから勉学を続けることはできない。また、ヴァルトラントとノルトラントの外交に関与することも難しくなるだろう。だから私としては、婚約は早期に行い、情勢が落ち着いてから結婚と言う形が良いように思われる。
女子大ではよく、結婚と仕事の両立ということが話題とされるが、ついに自分にもその時が訪れてしまった。この秋私は最終学年を迎える。一年は勉学に励もう。そして来年の夏女子大を卒業したら、教員要請のための「若手の学校」にはぜひ参加したい。女性としてすぐにでも家庭生活に入りたくもあるが、一人の人間としてヴァルトラントとノルトラントに、いや社会に役立つ仕事もしたい。あわてて決断すべきことではないから、時間をかけて考えて行こうと思う。ただ、私だけで考えてはいけない。テオパルド様のご意見も是非聞きたい。
父には、婚姻自体に異論はないが、その時期についてはしばらく考えさせてほしい、父上のご意見もお聞きしたいし、アルターハーフェンの希望にも沿いたいと返事した。
新学期が始まった。最終学年の私達は、特定の教員について勉強することになっている。私とシルヴィー嬢は、大聖女様につかせていただくことになった。同学年の他の留学生は、また別の先生につくことなった。神学部のシュテフィーは、聖女代理のジャンヌ様のところで勉強することになった。大聖女様が聖女職に就任する前、ノルトラントの聖女位は空位であった。アン大聖女様が若すぎたからだそうだ。その期間ジャンヌ様が代理として聖女の仕事をなさっていたので実務に詳しく、シュテフィーは喜んでいた。
「殿下、先日ジャンヌ様のゼミの顔合わせがあったのですが」
夕食時にシュテフィー嬢が話しかけてきた。
「ええ、どうでしたか?」
「カトリーヌ様が面白かったのですよ」
帝国の次期聖女候補カトリーヌ嬢もジャンヌ様についているという。
「それはどういうことでしょう?」
「カトリーヌ様はですね、神学部に入るのではなかったと仰るのです」
なんとなく話の中身はわかった。
「理学部なら大聖女様のもとで勉強ができたとぼやくのですよ」
予想通りである。
「それでですね、殿下。ジャンヌ先生が仰るのですよ、ジャンヌ様ご自身も若ければ女子大で、それも理学部で勉強したかったと」
「そうですか」
「その一言でジャンヌ先生とカトリーヌ様が意気投合されましてですね、ジャンヌ先生がいろいろと昔話をされるのですよ、大聖女様の」
「それは私も、聞きたいですね、シュテフィー嬢」
「殿下、私がちゃんとお伝え致します。それでですね、殿下」
「はい、シュテフィー嬢」
「カトリーヌ様はですね、それでもやっぱり大聖女様といっしょに勉強もしたかったと仰るのですよ」
「それは残念でしたね、正直なところ、私は大聖女様のなるべく近くで勉強させていただくために理学部に入ったわけです。あ、これはカトリーヌ嬢にお伝えしてはいけませんよ」
「はい」
朝私達四年生は、それぞれ割り当てられた教員の部屋に行く。ヘレン先生が、四年生とはそう言うものだと仰っていたからだ。私とシルヴィー嬢は、大聖女様の執務室へ行く。
廊下には女性騎士が2名立っており、身分証を確認された。
「もちろん殿下のことは存じておりますが、規則ゆえお許しください」
「とんんでもないです、お勤めご苦労さまです」
「ありがとう存じます」
中に入るとレイコ先生が立っていらして、そして今までにはなかった大きな机が一つ入れられていた。
「おはようございます殿下。聖女様は今騎士団で執務中ですので、お手すきの方はこちらの課題を解いておくようにとのことです」
「おはようございます先生。お世話になります」
いよいよ私たちの女子大最後の一年が本当に始まる。




