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第41話 著作権者

「さあオクタヴィア殿下、ノートを出版するわよ!」

 大聖女様は気合が入っていた。


 毎日午前の散歩のあと、お昼を挟んで夕方までノートを原稿にする作業を続けた。その作業にはもちろん、私たち6人のノートもとに作ったもう一冊のノートが役に立った。それでもノートだから不備はある。単独の書物として読んだ場合、わかりにくい場所もある。講義した先生の意図と少し異なる内容が書かれていることすらある。だから私たち6人に、大聖女様のお仲間のみなさんも加えての議論が続いた。


 ヴァイスヴァルトの離宮での作業は、意外なところで効率的だった。それは図面である。もとはと言えば、カレン嬢の一言からだった。

「大聖女様、現在ヴァルトラントでの気象観測は、ノルトラントから輸入した機器で行っているのですよね」

「そうですね、観測をお願いしているわけですから、こちらからお送りさせていただいています」

「このノートにですね、機器の設計図が出ていれば、ヴァルトラントでも生産できるようになりませんか? そうすれば観測網をひろげるのに役に立つと思うのですが」

 大聖女様の表情が、ぱっと明るくなった。

「そうね、それは素晴らしいわ!」

 一応私は口を挟んだ。

「大聖女様、大変ありがたいお話ですが、軍事機密とかに抵触しませんか。また、たいした金額ではないかもしれませんが、ノルトラントの収入が減ることにならないでしょうか」

「オクタヴィア殿下、大丈夫ですわ。ヴァルトラントに機材をお渡ししている時点で機密の問題はクリアしています。また、ノルトラントでの機器の生産能力はすでにいっぱいいっぱいですから、ヴァルトラントでも生産にご協力いただければ、むしろ助かりますわ」

「そうですか、それではお言葉に甘えさせていただ期待と思います。ありがとうございます、大聖女様」

「それじゃね、図面についてはここの工房の人たちに協力してもらいましょう! 職人頭のフランツさんには、私から話ししておきますね!」


「聖女様、図面入れるならさ、挿絵も入れたほうが良くない?」

 そう仰ったのはフローラ先生だった。

「たとえばさ、水銀柱の読み取りはさ、水銀柱に対して視線を垂直にしないといけないじゃない。私達とか女子大の理学部の学生はそういう測定の基礎は身についているけれど、一般的には違うわよね」

「そっか、それもそうね。レイコちゃん!」

「はい!」

「ヤニックさんに挿絵お願いしようよ。でさ、モデルはレイコちゃんやってよ」

 ヤニックさんは大聖女様専属の絵師で、レイコ先生のフィアンセでもある。

「聖女様、それはだめだよ」 

「なによ、ヘレン」

「私も気持ち的にはレイコちゃんがモデルをやるべきだと思う。だけどさ、あんたがモデルになったほうが、ノートの売上増えるよ」

「う~ん、そっか、不本意だけどそうかもね。レイコちゃん、ごめん」

「聖女様、それでしたらモデルはオクタヴィア姫殿下でもいいのではないですか?」

「そうね、殿下、それがいいわよ。ヴァルトラントの方も、そのほうが喜ぶでしょ」

「お言葉ですが大聖女様、このノートの著作権者は大聖女様ですよね。」

「え、そうなの?」

「だって大聖女様の講義をもとにしていますから。ですから挿絵のモデルは大聖女様であるべきではないでしょうか」

「私一人の講義じゃないわよ」

「だったら女子大、聖女庁、聖騎士団のいずれかになりますよね」

「う~ん、私はそれには反対だな。私はね、オクタヴィア姫殿下を筆頭に、ヴァルトラント留学生のみなさんが著者になるべきだと思う。みなさんのノートですから」

「いえいえ、私達はノートをとっただけでして。それに大聖女様のお名前をいただいたほうが、よく普及するのではないかと思います」

「そっか、私の名前がノートの普及に役立つならそれは構わないわ。だけどね、それによる収益は、あなたたちかヴァルトラントに入るようにしたい」

「それは申し訳ないです、大聖女様」

「あのね、殿下。私は、いえ私達はヴァルトラントを学問の仲間として、協力したいだけなのよ」

「は、はい、ありがとうございます」

「国王陛下にはちゃんと話通すから、安心してね」

「重ね重ね、ありがとうございます、大聖女様」


 その後議論を重ね、ノートのタイトルを「ノルトラント女子大講義ノート~気象観測入門~」とし、私達留学生の共著とした。監修に大聖女様のお名前をいただいた。そして売上の管理はヴァルトラント聖女室が行うことになった。挿絵のモデルは、大聖女様と私が半々にやることになった。

「印刷もね、ヴァルトラントでやったらいいと思うのよ」

「は、大聖女様、それでいいのですか」

「うん、そのへんの交渉のため、夏の間に一度、ヴァルトラントを訪問させていただくわ。正式にはノルトラント王室から打診するけれど、オクタヴィア姫殿下からもお伝えいただけると助かるわ」

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