第33話 提案
アルターハーフェン滞在から女子大に帰った私が始めにしたことは、宮廷教会の観光客向けの売店に出向くことだった。大聖女様の肖像画を買い込むためである。内陸国である祖国ヴァルトラントに海軍はないが、湖とか大きな河川で警備任務につく艦艇は存在している。その艦艇に大聖女様の肖像画をかざることで我が国のノルトラントへの恭順を示すのだ。売店で私は身分を正式に名乗り、正規のルートでヴァルトラントへの輸送を頼んだ。
その夜には父であるヴァルトラント王に手紙を書いた。大聖女様の肖像画の件について説明し、アルターハーフェンでの出来事を詳細に報告した。父はこれを読めば、正式に私の婚姻についてノルトラントに申し込むのではないかと思う。その手紙を書いている最中、寮の自室がノックされた。扉をあけると寮監のゲルリンデさんだった。
「オクタヴィア姫殿下、聖女様からです」
ゲルリンデさんは封筒を渡してきた。
「ありがとうございます。すぐに読みますので、少しお待ちいただけないでしょうか」
「ええ、お待ちします」
「せまいですが、中でどうかおかけください」
ゲルリンデさんを室内に導き、私は勉強机で封筒の手紙を読んだ。封筒は封をされてはいなかった。重要なことが書かれているわけではないことを示しているのはわかるのだが、それでも手が少し震えた。
思った通り簡単な手紙で、明日の放課後、ヴァルトラントからの留学生全員と今後の学習について相談したいとあった。心臓がドキンとした。どんな話なのか、もしかしたら何か外交上の問題が発生し、私達は軟禁とか追放とかになるのだろうか。いや、そうであれば悠長に明日の放課後などとしていされないのだはないだろうか。いや、我々の油断を誘うため、あえてそのような形式を取っているのかもしれない。
いけない、ゲルでリンデさんを待たせている。私はとにかく承諾した旨返事をしたためた。もちろん私も封はしない。
「ゲルリンデ様、お手数ですがこちらを大聖女様にお願いできないでしょうか」
「承知いたしました。では私は失礼致します。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私はすぐに寮内のヴァルトラント留学生に連絡をした。どの留学生もギクッとした顔を一瞬みせたが、気丈にもにこやかに一緒に大聖女様と面会することを承諾してくれた。
翌日、大聖女様のお話の内容が気になり、どの授業も今ひとつ集中しきれなかった。このあとのお話が最悪の内容だとしたら、私は父から与えられた任務に失敗したことになるし、せっかく身につけつつある学問も中途で終えることになる。私は正直なところ、レオパルド様に惹かれている。ご両親も私をアルターハーフェンに暖かく迎えてくれるような気がしていた。しかしそれも叶わぬことになる。
昼食はいつものようにヴァルトラントの仲間たちと一緒に摂ったのだが、皆口数が少なかった。皆、大聖女様との面会での話題を気にしているのだ。私としては皆を元気づけたいところだが、根拠のないことを言うわけにもいかない。
集中力を欠いたまま午後の授業をこなし、仲間たちと指定されたゼミ室に集合した。あまり待たされず、大聖女様がいつものお仲間たちと一緒にいらっしゃった。
「オクタヴィア姫殿下、シルヴィーさん、マルティナさん、シュテフィさん、カレンさん、グリゼルダさん、お呼びだてして申し訳ありません」
大聖女様は本当に申し訳なさそうに仰り、着席された。
「大聖女様こそ、お忙しいでしょうに、お時間をいただき、恐縮です」
「とんでもない、大事な話ですから」
「はい」
大聖女様は一呼吸置いて、話を始めた。
「で、ですね、みなさん、私は学生個々人の専攻内容とか強制することはないのだけれど、みなさん、大学での学習内容の中心を気象分野にしませんか?」
「あの、どういうことでしょうか?」




