宿題の山をなんとか乗り越えたよ
そう考えると、これからの予定も自然と決まってくる。
10日はふみちゃんに誕生日プレゼントを渡すことで頭がいっぱいになっていたし、11日と12日、そして13日はコスプレ関係の準備でかなり体力を使った。衣装を作って、ウィッグや小物まで揃えて、こうして本番前の確認まで考え始めているのだから、楽しかった反面、さすがに少しぐったりしている。
そして16日からは、いよいよコミケ当日だ。
つまり、俺に残されているのは14日と15日の二日間しかない。
「……二日か」
思わず小さく呟くと、隣を歩いていた白檮山さんが足を少し緩め、不思議そうに首を傾げながらこちらを振り向いた。
「どうしたの?」
眉を少し寄せて顔を覗き込む白檮山さんに、俺は苦笑しながら買い物袋を持ち直した。
「いや、ちょっと宿題のことを思い出しまして」
そう答えると、白檮山さんは一瞬だけ目を丸くし、それから「あー」と声を漏らしながら思い出したように頷いた。
「そういえば、秦くん宿題あるんだったね」
白檮山さんが納得したように頷きながら言う。
「ありますよ。しかも、ちょっと予定より遅れてます」
俺が困ったように眉を下げて答えると、白檮山さんは一瞬だけ口を閉じ、ほんの少し申し訳なさそうに視線を逸らした。
「……あ」
それから小さく肩を落として、俺のほうへ顔を戻す。
「ごめん」
「いや、白檮山さんのせいじゃないですよ」
俺は慌てて片手を振り、苦笑しながら首を横に振った。
とはいえ、そこで誤魔化している場合でもなかった。
俺は頭の中で、今の宿題の進み具合を改めて思い浮かべてみる。
夏休みの宿題は、国語のワークが二十ページ、数学の問題集が三十ページ、英語のワークが二十五ページ。それに理科と社会のプリントがそれぞれ五枚ずつある。
国語は残り十四ページ。
数学は残り二十二ページ。
英語は残り十八ページ。
理科と社会を合わせて八枚。
それに読書感想文が残っている。
自由研究については、そこそこ早い段階から進めていたので、調査や実験そのものはもう終わっている。結果をまとめるところまで済ませていて、残っているのは最後のレポートを清書して、提出できる形に整えるくらいだ。
だから、自由研究についてはそれほど心配していない。
問題は、それ以外だ。
「……」
改めて頭の中で数えてみる。
ワークだけで五十四ページ。
プリントが八枚。
そして読書感想文。
自由研究はほぼ終わっているとはいえ、それでも二日で片付ける量としては、決して少なくない。
……まあ、よく考えてみれば、コミケが終わったら夏休みも終わり、というわけじゃない。
16日からコミケが始まるとはいえ、そのあとにもまだ夏休みは残っている。
そう考えると、別に14日と15日の二日間だけで全部を終わらせる必要があったわけではない。
もう少し残りの宿題を少なくしておいてもよかったのかもしれない。
そのほうが、コミケ前にここまで焦らずに済んだはずだ。
ただ、だからといって余裕を作りすぎると、今度はその余裕を別のことに使ってしまう気もする。
「まだ時間がある」と思った途端、コスプレの準備をしたり、どこかへ出かけたり、ゲームをしたりして、結局また最後に慌てる。
そんな気がしてならない。
「……結局、こうなるのかな」
自分でも呆れて、思わず苦笑が漏れた。
最初からギリギリにしておけば嫌でもやる。
でも、本当にそこまで追い込まないと動けないのも、それはそれで問題だ。
「……結構まずいですね」
俺が額を軽く押さえながら苦笑すると、白檮山さんは少し心配そうに眉を寄せ、顔を近づけた。
「どれくらい?」
「ええと……」
俺は片手を上げ、指を一本ずつ折りながら数えていく。
「ワークが合計五十四ページ。プリントが八枚。それから感想文」
「五十四ページ……」
白檮山さんも思わず目を見開き、俺の指先を見ながら小さく復唱した。
「二日で?」
「二日で」
俺が神妙な顔で頷く。
言ってから、自分でも頭が痛くなってきた。
もちろん、全部を十四日と十五日に一から始めるわけではない。これまでにも少しずつ進めてきた。それでも、残っている量だけを見ると、二日間を丸々使ったとしても余裕があるとは言い難い。
しかも、ワークをただページ数だけ埋めればいいわけではない。
数学なら一問解くのに時間がかかる問題もあるし、英語だって単語を確認したり、間違えたところを直したりしていれば、それなりに時間を食う。
読書感想文なんて、むしろ今からが本番だ。
「……一日二十七ページくらい?」
俺が少し遠い目をしながら呟くと、白檮山さんも指を折りながら計算し、やがて小さく頷いた。
「ワークだけなら、それくらいかな」
それから指を止め、少し困ったように眉を下げる。
「でも、プリントと感想文もあるよね?」
「あります」
俺が即答すると、白檮山さんは困ったように口元を引きつらせた。
「じゃあ、もっと大変なんじゃ?」
「そうなんですよ」
俺も苦笑しながら肩をすくめる。
自分で言っておいて、どんどん焦ってくる。
しかも、十四日と十五日を完全に宿題だけに使えるわけでもない。
食事もする。風呂にも入る。寝なければならない。
そして、コミケ前日には衣装や荷物の最終確認もしておきたい。
ウィッグのセットだって、一度くらいは試しておきたい。今日買ったカラコンも、使い方を確認しておく必要がある。
そう考えると、実際に宿題へ使える時間は、思っているほど多くない。
「……まずいな」
俺が眉間に皺を寄せて呟くと、白檮山さんはそんな俺を見て、少しだけ笑みを浮かべながら励ますように首を傾げた。
「でも、二日あるよ?」
その言葉に、俺は横目で白檮山さんを見ながら苦笑する。
「二日しかない、とも言えます」
「そんなに?」
白檮山さんが目を丸くし、少しだけ口を開ける。
「だって、十六日は朝早いですよ」
俺が指を立てて説明すると、白檮山さんは「あー……」と納得したように頷いた。
「じゃあ十五日の夜までには終わってないと駄目なんだ」
少し眉を上げながら言う白檮山さんに、俺も頷き返す。
「そういうことです」
つまり、俺に与えられた猶予は、実質二日。
十四日の朝から始めて、十五日の夜まで。
それを過ぎたら、十六日の朝にはコミケへ行く。
そこに宿題を持ち越すという選択肢はない。
……いや、正確には持ち越せる。
持ち越せるけれど、そんなことをしたら、コミケへ向かう電車の中で宿題をやる羽目になる。
それだけは絶対に嫌だった。
「十四日は数学と英語を中心にやって……」
俺が歩きながら、空中に予定表でも描くように指を動かして考えると、白檮山さんも隣からその指先を眺める。
「十五日は国語とプリント。それから感想文」
「それで間に合う?」
白檮山さんが不安そうに俺の顔を覗き込む。
「分かりません」
俺が正直に首を横に振ると、白檮山さんは思わず目を瞬かせた。
「分からないんだ……」
「今のところは」
俺が苦笑しながら答えると、白檮山さんは困ったように笑った。
俺自身、かなり不安だった。
ただでさえ数学に時間がかかる。読書感想文だって、ここから文章にまとめなければならない。
自由研究はほとんど終わっている。それだけでも助かっているが、それでも残りの量を考えれば、十四日と十五日はかなり真面目に取り組まないと厳しい。
最悪、二日間とも朝から晩まで机に向かうことになるかもしれない。
ついさっきまで、「家で衣装を着てみよう」なんて話をしていたのに、その予定すら怪しくなってきた。
「……コスプレの試着、できるかな」
俺がぼそっと呟くと、白檮山さんは少しだけ目を細め、それから俺のほうへ顔を向けた。
「宿題が終わったらね」
そう言って、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ですよね」
俺が肩を落として答えると、白檮山さんはくすっと笑った。
それから少しだけ俺に身を寄せるようにしながら、励ますような表情で続ける。
「じゃあ、宿題終わったら一緒に合わせようよ」
「それを目標にします」
俺が頷いて答えると、白檮山さんも満足そうに頷いた。
そう答えたものの、俺の頭の中には別の数字が浮かんでいた。
残り五十四ページ。
プリント八枚。
感想文一つ。
それを二日。
……五十四ページという数字が、さっきまで手に持っていたウィッグの袋よりずっと重く感じられる。
10日までは、ふみちゃんへのプレゼントのことで悶々としていた。
11日から13日までは、コスプレ衣装を作ることで精いっぱいだった。
そして、ようやく衣装が完成したと思ったら、今度はウィッグやカラコンまで揃えている。
遊ぶ準備だけは、驚くほど順調だ。
自由研究だって、早めに手をつけておいたおかげで、そこだけは何とか終わりが見えている。
なのに、その裏側でワークとプリントと読書感想文がしっかりと積み上がっていた。
「……俺、夏休み何してたんだろう」
俺が遠い目をしながら呟くと、白檮山さんは横から顔を覗き込み、楽しそうに笑った。
「楽しいことしてたんじゃない?」
その言葉に、俺は少しだけ口元を緩める。
「それはそうなんですけど」
苦笑しながら返す俺に、白檮山さんは肩をすくめるようにして笑う。
「じゃあいいじゃん」
「よくないですよ。宿題が終わらないと」
俺が困ったように眉を下げて言うと、白檮山さんは「あはは」と声を上げながら笑った。
「じゃあ、明日から頑張ろう」
白檮山さんが笑顔のまま言ったその言葉に、俺は思わず眉を上げる。
「明日からじゃ遅いんですよ」
「今日から?」
白檮山さんが少し驚いた顔で首を傾げる。
「今日はもう十三日ですよ」
俺が呆れたような顔で教えると、白檮山さんの表情が固まった。
「あ」
白檮山さんが目を見開く。
俺も固まる。
二人で顔を見合わせて、それから同時に苦笑した。
十三日は、もう終わりかけている。
つまり、本当に十四日と十五日しかない。
「……よし」
俺は気を取り直すように息を吐き、少しだけ背筋を伸ばした。
「帰ったら、まず宿題の残りをもう一回確認します」
そう言うと、白檮山さんは「うん」と頷きながら、こちらを励ますように微笑んだ。
「それで、十四日と十五日の予定を組みます」
「頑張って」
白檮山さんが小さく拳を握ってみせる。
「ありがとうございます」
俺も少し笑いながら答え、買ったばかりの袋を持ち直した。
中には、これから始まるコミケのためのものが入っている。
そのことを考えると、胸は少し高鳴る。
けれど同時に、頭の片隅には五十四という数字がこびりついていた。
五十四ページ。
八枚。
感想文一つ。
残り二日。
……遊ぶ準備は、もう十分なくらいできている。
だから今度は、やるべきことをやらなければならない。
十四日と十五日。
この二日間で、どこまで取り戻せるか。
そして十六日の朝、何の心配もなくコミケへ向かうことができるのか。
それは、これからの二日間にかかっている。
そう思った途端、さっきまで楽しみにしていた夏休みの残り時間が、急にものすごく短く感じられた。
――そして翌日の十四日。
俺は目覚ましが鳴るより少し早く目を覚ました。
昨日の夜に考えた予定が頭に残っていたからだ。
布団から起き上がると、まず机の上に宿題を全部並べた。国語、数学、英語のワークに、理科と社会のプリント。それから読書感想文を書くための本とノート。
こうして実物を目の前に並べてみると、昨日頭の中で数えたときよりも多く見える。
机の隅には、昨日買ったウィッグの袋も置いてあった。
少しだけ視線をそちらへ向ける。
本当なら今日は衣装と合わせてみるつもりだった。
けれど、今は宿題を片付けるほうが先だ。
「……やるしかないか」
小さく呟きながら椅子を引き、俺は数学の問題集を開いた。
最初は順調だった。
一問ずつ解いて、終わったページには印をつける。分からない問題は後回しにして、とにかく進めていく。
ところが、数学はやっぱり時間がかかった。
予定では午前中のうちに十ページほど進めるつもりだった。
けれど、実際には一時間経っても三ページしか終わっていない。
「……え?」
俺は時計を見て、思わず手を止めた。
「三ページ……?」
さっきまで集中していたせいで時間の感覚が抜けていた。
問題集を見下ろし、それから時計へ視線を戻す。
まだ午前なのに、予定との差がすでについている。
「まずいな……」
俺は小さく呟きながら、残りのページ数を指でなぞった。
二十二ページ。
その数字が、昨日よりもずっと現実味を持って迫ってくる。
それでも止まっているわけにはいかない。
分からない問題はいったん飛ばし、できる問題から先に進めることにした。
昼食の時間になっても、予定していたほどには進まなかった。
「午前中で十ページ……って考えてたのに、六ページしか終わってない」
食卓でそう呟きながら、俺はため息をついた。
昼食を食べ終えて時計を見る。
午後になった時点で、残りはまだ十六ページ。
「……これ、今日中に数学終わるのか?」
不安になって、思わず時計をもう一度見る。
十四日の朝。
俺は「数学と英語をやる」と決めていた。
なのに、数学だけで予定より時間を使っている。
このままだと英語にほとんど時間が回せない。
そう考えると、胸の奥がざわついてきた。
午後もひたすら問題集に向かう。
ようやく数学の最後のページを終えたときには、もう夕方になっていた。
「……終わった」
俺はシャープペンを置き、肩を回しながら息を吐いた。
数学は終わった。
けれど、達成感より先に別の不安が出てくる。
英語だ。
「……まだ英語がある」
机の端に置いていた英語のワークへ手を伸ばす。
予定なら、数学を終えたころには英語もかなり進んでいるはずだった。
けれど実際には、これから始める。
俺は時計を見た。
「……夕方から十八ページは無理だろ」
思わず苦笑が漏れる。
それでも、できるところまでやるしかない。
単語を確認しながら問題を解き、間違えたところを直していく。
机の隅に置いたウィッグの袋が目に入った。
一瞬だけ手を止める。
今日くらいは少し触ってみようと思っていた。
けれど時計を見ると、そんな余裕は残っていない。
「……今日は無理だな」
俺は苦笑しながらウィッグの袋から視線を戻し、再び英語のワークへ向かった。
気がつけば夜になっていた。
十四日の終わり。
数学は終わった。
英語はかなり進んだ。
けれど、全部は終わっていない。
机の上には、まだ数ページ残っている。
「……予定より一日遅れるかもしれない」
その言葉を口にした瞬間、俺の中の焦りが一段強くなった。
十五日は国語とプリント、それから感想文をやる予定だった。
そこへ英語が追加される。
さらに自由研究の清書まである。
そして、本当なら明日のうちにコミケへ持っていく荷物も整理しておきたい。
「……明日、全部終わらせないとまずい」
俺は明日の予定を書いたメモと、机の横に置いたコミケ用の荷物を交互に見ながら、眉間に皺を寄せた。
そして十五日。
朝起きると、昨日よりも少しだけ机へ向かうのが嫌になっていた。
けれど、机の上に並べた宿題を見ていると、昨日より明らかに減っている。
それだけが救いだった。
「まず国語」
俺は小さく気合いを入れるように呟き、国語のワークを開いた。
数学ほど一問に時間はかからないので、昨日よりは順調に進んでいく。
ページを終えるたびに残りを確認し、昼前にはかなりのところまで片付いた。
ただ、その時点で時計を見ると、もう昼近くになっている。
「……午前中、国語だけか」
俺は少し焦った顔で時計を見つめる。
国語は進んだ。
でも、残っているものはまだ多い。
昼食を食べたあと、残っていた英語を終わらせ、そのまま理科と社会のプリントへ移る。
一枚終わるたびに裏返して机の端へ置いていく。
一枚。
また一枚。
そうやって八枚あったプリントが少しずつ減っていく。
ところが六枚目を終えたところで時計を見ると、思っていたよりも時間が遅くなっていた。
「……もうこんな時間?」
俺は目を見開き、残り二枚のプリントを見つめた。
このあとには読書感想文が残っている。
そして自由研究の清書も残っている。
「……まだあるんだよな」
思わず額に手を当てる。
机の隅を見る。
コミケ用の荷物がそのまま置かれている。
本当なら今日の昼過ぎくらいには、衣装やウィッグ、小物をまとめて確認するつもりだった。
けれど、今の状況ではそれすら後回しにするしかない。
「……今日は宿題だけか」
俺は小さく呟き、荷物から視線を逸らして再びプリントへ向かった。
それでも一枚ずつ終わらせていき、最後の一枚を終えたときには、俺は思わず小さく拳を握った。
「よし……!」
誰に言うでもなく呟きながら、俺はプリントの束を脇へ寄せる。
残るのは読書感想文と、自由研究のレポートの清書だけ。
自由研究は内容そのものが終わっているので、文章を整えて清書していけばいい。
問題は読書感想文だった。
本を読み返しながら、何を書けばいいのか考える。
最初はなかなか文章が出てこなかった。
書き始めても、「面白かった」「印象に残った」ばかりになってしまう。
「これじゃ感想文にならないな……」
俺は書きかけの文章を見下ろしながら眉を寄せ、何度かペン先を止めた。
時計を見る。
もう夜に近づいている。
「……あと何時間だ?」
そう思って十六日の朝を基準に逆算すると、残された時間が思った以上に少ないことに気づく。
ここで感想文に時間をかけすぎたら、自由研究の清書が終わらない。
けれど、適当に書いてしまうわけにもいかない。
それだけじゃない。
このままだと、コミケの荷物を確認する時間までなくなってしまう。
「……まず感想文だけ終わらせよう」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、再びペンを走らせた。
それでも、少しずつ思ったことを書き出していくと、ようやく文章が繋がっていった。
気がつけば、窓の外はもう暗くなっている。
最後の一文を書き終えたところで、俺はゆっくりとペンを置いた。
「……終わった」
しばらくそのまま動かなかった。
まだ自由研究のレポートの清書が残っている。
だから、本当の意味で全部終わったわけではない。
時計を見る。
もうかなり遅い。
「……あと少し」
そう呟きながら、俺は自由研究のレポートを机に広げた。
内容そのものは終わっている。
だから、あとは間違えないように書き写していけばいい。
けれど、最後の最後で字を間違えて書き直すことになれば、その分だけ時間が削られる。
俺は普段よりずっと慎重にペンを動かした。
一行。
また一行。
ページを一枚終えるたびに、残りを確認する。
「あと二枚……」
そして最後のページを書き終えたとき、俺はようやくペンを置いた。
「……終わった」
今度こそ、本当に終わった。
俺は椅子の背もたれに身体を預け、長く息を吐いた。
時計を見ると、もう夜になっていた。
決して余裕のある二日間ではなかった。
十四日は数学に予想以上の時間を取られ、英語を十五日に持ち越した。
十五日は国語と英語とプリントを終わらせてから、最後に読書感想文と自由研究の清書まで片付けた。
途中で何度も時計を見て、「これ、今日中に終わるのか?」と焦った。
何度も、コミケの準備まで手が回らないんじゃないかと思った。
実際、衣装を着てみる時間も、ウィッグを試す時間も取れなかった。
本当なら今日のうちにやっておきたかったことをいくつも諦めて、それでも宿題を優先した。
それでも、最後までやり切った。
机の上を見回す。
昨日まで積み上がっていた問題集やプリントが、今は全部片付いている。
「……本当に終わったんだな」
俺は半信半疑のまま、小さく笑った。
明日の朝は、コミケへ行く。
そう思うと、昨日までとはまるで違う気分になった。
宿題のことを考えながらコミケへ行く必要はない。
机の横に積み上がっていた宿題も、もうない。
ただ、コミケ用の荷物には、まだ最終確認していないものが残っている。
「……荷物くらいは確認しておくか」
そう呟きながら立ち上がる。
疲れて重い身体を引きずるようにして、俺は机の横に置いてあったバッグへ手を伸ばした。
衣装。
ウィッグ。
小物。
カラコン。
必要なものを一つずつ確認していく。
さすがに全部を試す余裕はない。
それでも、忘れ物だけはないように確認しておきたかった。
最後にバッグのファスナーを閉じる。
「……これで大丈夫」
俺はようやく肩の力を抜いた。
「……これで、思いっきり楽しめるな」
俺は椅子に座ったまま、力の抜けた笑みを浮かべて呟いた。
それから、昨日白檮山さんに言われた言葉を思い出す。
『じゃあ、宿題終わったら一緒に合わせようよ』
明日はコミケ本番。
その前に、やるべきことは全部終わらせた。
あとは、思いっきり楽しむだけだ。
そう思うと、疲れているはずなのに、明日のことを考えるだけで少しだけ眠れなくなりそうだった。




