誕生日当日のハプニング
なんか今更ではあるんだけども、文ちゃんの誕生日を、こうしてちゃんと意識したのは初めてかもしれない。
つい最近、家族ぐるみで出かけたばっかりだが、誕生日だから何かを贈る、みたいなことで真剣に悩む。
そんなことになるとは考えたことはなかった。
「……まあ、隣に住んでるんだしな」
自分に言い聞かせるように呟く。
別に変な意味じゃない。
……たぶん。
そう思いながら歩いていると、さっきまで気にならなかった店のショーウインドウが目に入って、思わずそこに映った自分を見る。
鞄の中には、ラッピングされたプレゼント。そして、なんとなく浮かれたような表情。
「……俺もこういうことするようになったんだな」
いままでは、誕生日プレゼントなんてもっと適当に選んでいた気がする。
欲しいものを聞いて、それを買って、はい、終わり。
あるいはネットで調べて、良さげなものを選ぶ。
まあ、そんな感じだった。
でも今回は違った。
文ちゃんが何を持っているか、普段どういうものを使っているか、どういうものなら喜んでくれるか。お母さんに相談までして、そんなことを考えながら選んだ。
……まあ、考えすぎた気もするけどな。
スマホを見ると、時間には余裕がある。
「……帰るか」
明日は文ちゃんの誕生日。
たぶん、渡すだけなら簡単なんだが、家は隣なんだから、わざわざ遠くまで行く必要もない。
なのに、なぜか少し緊張している。
明日のことを考えると、今から妙に落ち着かない。
「……それだけ意識してるってことか」
思わず苦笑してしまった。
たかがお隣さんに渡す誕生日プレゼント。なのに俺は、鞄の中身をもう一度確認したくなった。
もちろん、そんなことをしてもプレゼントは逃げないのだが、それでも鞄の上から軽く触れてみると、ちゃんと入っているのがわかる。
「よし」
それを確認して、今度こそ歩き出す。
家に帰ったら、母さんにも見せてみるかな。たぶん、また何か言われるだろうけど。
……いや、やっぱり見せるのはやめておこう。
「そんなとしごろになったのね」
そんなふうに絶対にからかわれるだろうし。
そんなことを考えながら歩いていると、いつもの帰り道なのに、今日は少しだけ足取りが軽かった。
◇
そして翌日。
俺は朝から、妙に落ち着かなかった。
別に大したことじゃなくて、お隣さんへプレゼントを渡すだけだ。
そう自分に言い聞かせながらも、ふと時計を見るたびに、まだ早い、とか、そろそろ行っていいか、とか、そんなことばかり考えてしまう。
やっぱり家族旅行で海に行って一緒に遊んで、普段は見えなかった姿も見えたのが大きかったのかな?
「……何やってんだ、俺」
そんなことを思いながら、思わず頭を掻く。
昼を過ぎても落ち着かず、夕方になって、ようやく俺は意を決して行動を開始した。
一応、鞄の中を確認すると、昨日買ったプレゼントはちゃんと入っている。
当たり前だが、なんかそうしないといられなかった。
「よし」
俺は大きく深呼吸して、自分を落ち着かせようとした。
別に大げさなことじゃなく、隣の家に行って誕生日プレゼントを文ちゃんに渡すだけだ。
それなのに、玄関の前に立った瞬間、妙に喉が渇いた。
手を上げ、インターホンを押そうとし、……一度、手が止まった。
「…………」
何を緊張してるんだ。
もう一度、手を上げ、今度こそ押すと、すぐに家の中から声がした。
「はーい!」
文ちゃんの声だ。
聞き慣れた声なのに、今日は少しだけ心臓が跳ねた。
「俺だよ。いまちょっと時間いい?」
できるだけ普通に声を出したつもりだった。
けれど、自分でもわかる。少し硬い。
やっぱ緊張してるみたいだ。
「あ、うん。今行くよー」
ぱたぱたと足音が近づいてくる。
そして、扉が開いた。
「どうしたの?」
文ちゃんが顔を出す。
いつもの顔。
けれど、俺のほうを見た瞬間、少しだけ首を傾げた。
「……なんか変じゃない?」
「え?」
「いや。今日、ちょっとよそよそしい」
そう言って、文ちゃんが目を細める。
たしかに、緊張してるのがよそよそしく見えるのかもしれない。
「そんなことないって」
「ほんと?」
文ちゃんがじっと俺を見る。
その視線に耐えられなくなって、俺は鞄に手を伸ばした。
「これ」
「……え?」
包みを取り出す。
文ちゃんの目が丸くなった。
「誕生日プレゼント」
「……私に?」
「うん」
文ちゃんが包みと俺の顔を交互に見る。
すぐには受け取らない。
その数秒が、妙に長かった。
「……今日、私の誕生日だよね?」
ふふっと笑って文ちゃんは言った。
「そうだよ」
「覚えてたんだ」
文ちゃんが、ふっと笑った。
その笑顔を見て、俺も少しだけ肩の力が抜ける。
「そりゃ覚えてるだろ。忘れないようにメモは取ってるしな」
「……そっか」
嬉しそうに手を伸ばす。
その瞬間だった。
「あっ、いた!」
後ろから突然、別の声が飛んできた。
文ちゃんがびくっと肩を跳ねさせる。
俺も反射的にそっちを見る。
そこにいたのは、俺には見覚えのない女の子たちだった。
「文ちゃん、なんで長々と席離れてるの?
主役はあなただよ」
「ちょ、ちょっと待って!」
文ちゃんが慌てて振り返る。
その顔が、さっきまでの嬉しそうなものから、一気に困った顔へ変わった。
「……あの」
文ちゃんが俺を見る。
手には、まだ俺から渡したプレゼント。
「なに?」
「……友達」
「え?」
「今日、学校の友達が誕生日会してくれるって……」
「ああ」
そういうことか。
俺と文ちゃんは家は隣だけど、通っている学校は違う。
だから、文ちゃんの学校の友達なんて、俺はほとんど知らない。
向こうからしても同じだろう。
「……もう、来ちゃってた?」
「うん」
俺が答えると、文ちゃんが小さく息を吐いた。
それから、俺の腕を掴む。
「え?」
「ちょっと来て」
「いや、ちょっと待って。プレゼント」
「それ持ったままでいいから!」
引っ張られる。
「どこに?」
「いいから!」
そのまま玄関の中へ連れていかれる。
一歩入ったところで、俺は固まった。
「…………何これ」
家の中に、人がいる。
しかも、俺には見覚えのない顔ばかりだ。
「文ちゃん!」
「遅いよ!」
「主役がいないと始まらないって!」
口々に声が飛んでくる。
その中の一人が、俺を見る。
「……えっと」
明らかに戸惑っている。
そりゃそうだ。
俺だって、いきなり知らない家に知らない人がいたら戸惑う。
「この人、誰?」
その質問に、文ちゃんが一瞬黙った。
それから俺を見る。
「……隣の幼馴染」
「へえ……」
「幼馴染?」
俺はいたたまれなくなって、つい口を挟んでしまった。
「そう、別に恋人とかじゃないから」
思わず訂正すると、文ちゃんが吹き出した。
「そこは訂正するんだ」
「いや、実際違うだろ」
「まあ、そうだけど」
クラスメイトたちが、なんとなく俺と文ちゃんを見比べてによによしている。
この感じ、妙に居心地が悪い。
「……で、その人が?」
別の子が、俺の手元を見る。
ラッピングされたプレゼント。
「うん」
文ちゃんが答える。
「誕生日プレゼント」
「へえー」
「いいじゃん」
「もしかして、さっき渡してた?」
「うん」
文ちゃんが答えると、みんなが一斉に俺を見る。
「……なんだよ」
思わず苦笑する。
なんとなく、面接でも受けているような気分だ。
「いや、なんかちゃんとしてるなって」
「何が?」
「だって、わざわざ誕生日プレゼント持ってきてくれたんでしょ?」
「まあ……隣だから」
そう答えると、文ちゃんが少しだけ笑った。
「ふふ」
「何だよ」
「なんでもない」
文ちゃんはそう言いながら、プレゼントを大事そうに胸元へ抱えた。
その顔を見ていると、昨日から妙に緊張していたのが、少し馬鹿らしく思えてきた。
俺はプレゼントを渡す。
それだけのつもりだった。
なのに、気がつけば文ちゃんの学校の友達に囲まれている。
「……じゃあ、俺は帰るよ」
「え?」
文ちゃんが顔を上げる。
「今日は友達と誕生日会なんだろ?」
「うん……」
「じゃあ、ゆっくり友達と楽しんで」
「でも……」
文ちゃんが少し迷う。
「せっかくだし、一緒にいてもいいよ?」
「いやいや」
俺は苦笑する。
「俺がいたら気を遣うだろ」
「そんなことないって」
「いや、絶対気を遣うって」
クラスメイトたちを見る。
みんな、なんとも言えない顔をしている。
「……ほら」
「……うん」
文ちゃんが小さく頷く。
「じゃあ、またあとで」
「おう」
俺が玄関へ向かう。
その背中に、
「ありがとう!」
文ちゃんの声が飛んできた。
振り返る。
文ちゃんは、プレゼントを抱えたまま笑っていた。
「……どういたしまして」
そう返して、俺は家を出た。
プレゼントを渡すだけだったはずなのに。
なんだか、思っていたよりずっと大事な日になった気がした。
クリア
8月10日:文ちゃんの誕生日
予定
8月のお盆:白檮山さんとコミケ1日目2日目に参加
8月20日:中垣内とプールデート
8月23日:南木さんと水族館デート
8月26・27日:弥生ちゃんとTDR
7月末と8月末:東雲さんと宿題




