第3話 仕組まれた罠
カリスマ政治家小石川麗子は東都知事選挙に敗退した。
引退の2文字が報道に並んだのも束の間、落選知事に光が当たることはない。
無名政党から無名政治家が誕生する新しい時代の畝りの中で、古い料亭政治は風前の灯に見えた。
料亭閉店のハガキが届く昨今、水面下で鳴りを潜める落選政治屋も珍しくない。
安物スーツに身を包んだブサメン秘書を、小石川麗子は知事時代から重宝している。
3期12年に及ぶ知事時代に小石川は資産を増やし続けた。
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長期に及ぶ円安ドル高、株価高騰の中で政治屋たちは資産を蓄えた。
外貨預金は売買タイミングを間違え無ければ失敗は皆無である。
1ドル80円で購入して160円で売れば80円の差益が生まれるのは当たり前。
インサイダーに手を汚す政治屋も珍しくない時代。
不思議なほど実弾介入の噂はなく、レートチェックはスルーされ相場が暴走した。
円安株高の法則は外人株を引き寄せる。
株価は鰻上りに跳ね上がり新聞が“最高値更新”の大見出しで投資家の背中を押した。
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輸入企業が大赤字の中、冷酷無残な既得権益政治屋が輸出企業に黒字をプレゼントしキックバックの恩恵に酔った。
輸入企業は悲鳴をあげ政治屋は美酒に酔い知れる。
自戒党に復帰した小石川は参議院選挙で国会に復活を果たした。
小石川麗子が知事選挙落選のあとで漏らした“次の台本”は小石川の中で眠っている。
小石川が狙っているのは次の首相だ。
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参議院議員では首相になれないことを知っている小石川麗子は秘書の小森を見て微笑んだ。
「小石川先生、自戒党の総裁選挙ですがーー 」
「小森、立候補するわよ。でもそれは次への布石
ーー 簡単じゃないことくらい分かっているからね」
「はい、小石川先生の悪運の強さは小森が一番承知しています」
「小森、私のは良運なのよ。知らないの」
「はい、口がつい」
「この口が悪いのね。じゃあ小森が大好きなコニャック、あげるわね」
下戸の小森は小石川が差し出したバカラのシャンパングラスから鼻を遠ざける。
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自戒党の総裁選挙が終えた。
高石百合が総裁に選ばれ、小石川も組閣に参加する。
「小森、次の台本が始まるわよ」
小森は小石川の耳元で囁くように伝えた。
「先生、衆議院がまもなく解散されます。時期は、おそらく3か月以内かと」
「真冬じゃない」
「先生、今は数週間先までの気象予報が可能な時代です」
「なるほどーー あのヤロウの魂胆が見えたわ」
「解散する側は意図的に罠を仕組めますからね」
「流石、策略家の小森の前ではバレバレね」
「先生、今回は奴らの証拠を」
「そうね、あとで使えそうだわ」
小石川麗子の薄気味悪い笑い声が響いていた。




