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育つ葉

続きます!

 育つ葉


フィルすくすくと育った。

今は人間なら10歳くらいだろうか?

本を読むようになり、家の中を走り回り、最近では一人でできることもずいぶん増えた。


そろそろフィルと出会ったあの場所に、連れて行ってもいいかもしれない。

「フィル、おでかけするよー」

声をかけると読んでいた本を片付け、彼はかけてきた。

「どこいくの?どこいくの?」

「精霊の森よ」


そこは家からほど近い森。

あの日、夢の中で出会った謎の女性から、フィルを預かった場所。

木漏れ日溢れるその場所に着くと、フィルは大樹のそばまで歩き、立ち止まる。


「……おかあ…さん」


そしてどこか遠くを見て呟き、涙を流す。


この《お母さん》はきっと、リリィのことではない。


「そうか…僕は……」


ーーー最後に残された精霊だ。

   人間じゃない。


彼は理解した。


ーーーひとりぼっちだ


そんな彼をリリィはぎゅっと抱きしめた。


大丈夫、大丈夫、私がいるよ、と。



ーーーーーーーーーーーーー

2ヶ月目


精霊の森に行く前は、あんなに活発だったフィルが、最近はよくため息をつくようになった。

食べたいものを聞いても、欲しいものを聞いても上の空。

やっぱり、本当のお母さんがいいよね…

気のせいかフィルの成長も止まってしまった気がする。

どうしてだろう?


私にできることはないのかな?


ーーーーーーーーーーーーー


(空白のページが続いている)


ーーーーーーーーーーーーー

2ヶ月と18日目


もう耐えられない!

だからしっかり向き合ってフィルと話してみることにしたの。

フィル、自分が精霊だって知ってすごく悩んでたみたい。

私の子供じゃないことは薄々感じてたみたいなんだけど、人間じゃないこと、

成長速度も寿命も違うこと(長生きなんだって!びっくりだよね?!)

自分が最後の精霊であること

うーん…まだ小さなフィルが背負うには、確かに重いよね?

大丈夫だよ、一緒にどうしたらいいか考えようって言ったら大泣きしちゃった。

今やっと眠ったとこ。


大丈夫、私は味方だよ。


ーーーーーーーーーーーーー

2ヶ月と19日目


じゃーん!

フィルと仲直り記念にアップルパイ焼いちゃいましたー!

久々に見たよ、フィルの笑顔。

うん、笑顔が一番可愛い。

人間でも精霊でも美味しいものは美味しいもんね!

いつかお別れする時が来ても、フィルの大事な思い出になれたらいいな!


……ってまだ早いかな?


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


止まっていたフィルの成長がまた始まった様だった。

背も伸び、もう少ししたらリリィを追い越すだろう。

体型も顔つきも、まだまだ幼さは残るものの男性らしく近づいてきた。

そう感じたある日、リリィは使ってなかった来客用のベッドを片付け始めた。

布団を干し、マットレスを叩く。

「ねえ、誰かくるの?」

そんな彼女を見て、読書していたフィルは声をかけた。

「ああ、フィルも大きくなったし、そろそろ別に寝ようかと…」

「嫌だ」

食い気味に否定された。

「でもいつまでもママと寝るのはおかしいでしょ?」

「リリィは母さんじゃないよ」

「……そうじゃなくて…」

どう言ったらいいものか…リリィは考える。

「大きくなったらリリィと一緒に寝ちゃいけないの?」

悩んでいるリリィにフィルは瞳をうるうるさせて尋ねる。

「…それは…」

「今まで一緒だったのに…僕何か悪いことした?」

「そういうわけでもなくて…」

「リリィと離れて、寂しくて僕が眠れなくてもいいの?」

ーーー負けた

リリィは負けてしまった。


フィルは今夜もご機嫌な顔で、リリィのベッドに潜り込む。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢

3ヶ月目


見ちゃった!フィルがお花と会話してたの!

やっぱり精霊だからかな?

お花もキラキラして見えた。

でも、こういう姿見てると考えちゃうな…。

フィルは精霊なんだから、いつまでもここで一緒ってわけにはいかないよね?

いつかは精霊の森に帰るのかな…


寂しいな…


ーーーーーーーーーーーーー

3ヶ月と13日目


フィルもついに反抗期?!

うるさいって言われちゃった。

言ってから1人で悲しい顔してる。

そんな時期もあるよね?!

今夜はお赤飯かな?

でも文句言っても、寝る時は一緒なんだよね?


難しい年頃だぁ…


ーーーーーーーーーーーーー

4ヶ月と26日目


おかしい。何かがおかしい。

フィルが小さな時みたいに付いてくる様になっちゃった…

流石にトイレとお風呂は来ないけど、買い物や薬草採取はもちろん、ご飯の支度、洗濯、掃除までついてくるの。

まあ、手伝ってくれるからいいけど。


これが噂に聞く幼児返り?


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


フィルはすっかり背が伸び、いつの間にか、青年らしい姿になっていた。

あまりの成長にリリィもびっくりしている。

最近、本当に最近までリリィの腕の中で眠っていたのに、とてもじゃないが抱き上げることはできそうにない。

逆に持ち上げられそうだ。


2人が市で買い物中、いつかあったリリィの店の常連青年に遭遇した。

彼はリリィの後ろを歩く青年があの時の幼児とは思いもよらなかったらしく、「弟子でもとったの?」と尋ねてきた。

「親戚の子、預かってるの」

まあ、精霊だとバレたらそれこそ大騒動だ。

「へえ。ずいぶん背の高い子だね」

よろしく、と青年がフィルに笑いかける。

フィルは、リリィの隣にぴたりと寄り添った。

「……ねぇ、リリィ?」

彼女の耳元でフィルは囁く。

「あの人、あまり近づかないほうがいいよ」

「どうして?」

「……なんとなく」

そう言って、フィルは少しだけ青年を睨んだ。

それが精霊としてなのか、人としての独占欲ゆえなのか、誰にもわからなかった。


市からの帰り道、しばらく黙って歩いていたフィルが、ぽつりと口を開いた。

「……リリィ」

「うん?」

「僕がいつか精霊の森に帰るとしても……」

フィルは少しだけ迷うように言葉を止めた。

「それでも、リリィにはそばにいてほしい」

リリィは思わずフィルを見上げた。

いつの間にか、リリィよりずっと高くなったその顔は、もう可愛い息子のフィルのものではなかった。


もう少しだけ、続くのじゃ

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