第78章 - フレムヒェン
※本話には激しい戦闘描写・流血描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
スマラグドが立っていた。金の槍がまだ手に。ほとんど呼吸する勇気がなかった。
翼の光は消えていなかった。
肩にかかり、細く温かな線になって背中を流れ、後ろに広がっていた。同時に羽のように軽く巨大な何かのように。一瞬、悪魔スライムすら忘れた。引き裂かれた通りも、石畳の血も、脇道からの咳も。
ゆっくり空いた手を後ろに伸ばした。
指が翼に触れた。
柔らかい。
布や毛のように柔らかいのではない。もっと、突然形を得たのにそれでも触れる光のように。温かい。縁が穏やか。その下に力強い何か。望んでも潰せない何か。
目が見開かれた。
これ......本当にわたしの?
数歩後ろにアリッサが両手剣に重くもたれて立っていた。こめかみにまだ血。左腕が力なく横に。
彼女も見つめていた。
「スマラ......」と息を切らして始め、一歩前に出た。まず慎重に、次にもっと決然と。「天使......みたいだよ」
言葉は低かった。
それでもどの咆哮より遠くまで届いた。
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アリスですらほとんど信じられなかった。
まだ麻痺の下に立っていた。負傷した男を半分腕に抱えて。とうに終えたかった動きに凍りついて。胸が速く上下して。目が覚醒し、圧倒され、信じられずに。あれがスマラグド? さっきまで壁に押しつけられて目の前に死があった少女が? この光、この翼、この槍 - すべてがあの子に?
クレント、ルビン、ディアマント、ヴァレリア - 全員に見えていた。
誰も指一本分すら近づけなかった。
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悪魔スライムが動かず二人の子供を見ていた。
視線がゆっくり先に流れた。
通りを。
屋根を。
凍りついたか遮蔽に這う人間を。
まだ壊滅に秩序を持ち込もうとするスライムを。
笑い始めた。
ゆっくり。
広く。
広すぎる。
口がどの身体にもありえないほど不自然に開いた。黒い質量が縁の間で張り、震え - そしてこの開口部から霧が溢れ始めた。
冷たい空気の息のようにではなく。
火の煙のようにでもなく。
悪魔の口から生きたもののように流れた。重く地面を這って。まず灰黒の筋で、次にもっと密に、もっと太く、あっという間に通りに広がった。
石畳と瓦礫の上を這った。
倒れた屋台の下を潜った。
家の入口に入り込んだ。
脇道に押し入った。
数呼吸の間に這う影のように街に広がった。スマラグドが立つ場所以外のあらゆる場所に。彼女がわずかに放つ金色の光が霧を彼女とアリッサから見えない縁のように分けた。光が地面に触れる場所で闇が退き、低く嘶き、不安定な輪で止まった。
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周囲で人々が咳き込み始めた。
まばらに。
次に至る所で。
短い乾いた咳払い。吐き気。叫びに傾く深い咳。
アリッサが横を向いた。
男が片膝をつき、手を喉に当て、指の間から血が噴くほど激しく咳いた。さっきまでただ泣いていた子供が目を見開いた。目尻から赤い湿りが出て、細い線になって頬を流れた。女性が両手を耳に押し当て、そこからも血が溢れると窒息した音を出した。
麻痺に保たれている者ですら咳ができた。
吐くことができた。
見開いた目で見ていることができた。身体が何かに反応するのを。背を向けることすらできない何かに。
「毒なの?」とアリッサが不安そうに訊いた。
声がかすれて、望んだより小さかった。
スマラグドにも分からなかった。
たった今まだ立って翼を感じていた。たった今アリッサに天使みたいと言われた。そして今、人間の目と耳から血が溢れ、黒い霧が街を這っていた。
光がほんの一瞬与えてくれた確かさがまた揺らいだ。
「わたし......」とスマラグドが始めて途切れた。
悪魔スライムがもっと広く笑った。
「ドウスルノ、ケツジョ、ポイン?!」
ほとんど楽しそうに聞こえた。
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スマラグドが反応する前にアリッサが動いた。
両手剣を上げた。
綺麗にではなく。優雅にでもなく。右肩が痙攣し、脚が揺れた。それでも軋む呼吸で刃を後ろに引いた。
剣では今必要なものは出せない。
手を空けなきゃ。炎のために。炎だけのために。
投げた。
剣が重く力強く空気を飛んだ。
矢のように速くはなく。もっと、もう取り消せない決断のように。
剣が悪魔スライムに届く前にアリッサが走り出した。
最初の二歩でほとんどよろめき、持ち直し、歯を食いしばり、まだ周りを回っていた深紅の炎に手を伸ばした。
炎は逃げなかった。
迎えに来た。
アリッサが手を閉じた。
紫が指の間で爆発し、光の糸が肌を引き、一拍の間、何か生きたものを掴んだかのようだった。
「ごめんね、フレムヒェン......」と痛みに歪んだ顔で呟いた。「でも今は別の使い方が必要なの」
悪魔スライムが飛んでくる両手剣をかわした。
質量に対してあまりに軽く横に滑り、笑った。刃が後ろの木の柱に激突し、縦に割った。
「ヤットダ」と唸った。「コイ、タタカエ、ポイン!」
アリッサにも突進した。
アリッサが身をかがめた。
格好良く見えるほど深くはなく。即座に死なないだけちょうど深く。
「ブラッディ・ライトニング・パンチ!」
言葉が生のまま、無秩序に飛び出した。半分名前で半分意地で半分痛みへの叫び。
銀色の髪が顔にかかった - そして毛先が黒く染まった。ほんの一瞬。闇の一息が先端を喰うかのように。青い稲妻が拳の周りで痙攣した。熱く鋭く。握り潰した紫の中でもっと暗い何かが脈打ち始めた。同時に血が手に引き寄せられた。身体自身がまだ持っているすべてをこの一撃に押し込むかのように。
スマラグドが目を見開いた。
何をして-
アリッサが悪魔スライムに当たった。
爆発はただの光ではなかった。
圧だった。痛み。引き裂かれた空気。
紫と青と暗い赤が同時に弾けた。衝撃が悪魔スライムを弾き飛ばし、埃と瓦礫を巻き上げ、アリッサ自身も反対方向に飛ばした。打撃が内側からも引き裂いたかのように。
窓枠が軋んだ。瓦礫が飛んだ。霧が渦を巻いて散り、震えながら再び閉じた。
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埃が少し晴れた時、さっきまで悪魔がいた場所に奇怪な半分だけが立っていた。
上半身の半分。
片腕。
片目。
残りは引き裂かれていた。線の途中で絵を引き裂いたかのように。
赤いぎょろ目の半分がアリッサを固定した。
アリッサ自身はスマラグドの前で地面に硬く打ちつけられ、破片と埃の上を滑り、喘ぎながら横たわっていた。即座にまた押し上げようとした。身体が本来もうそれを許されないはずなのに。
「キケンナコドモ......」と悪魔スライムが唸った。
もうほとんど身体とは言えないものから出た言葉。
次にもっと暗く、もっと怒りを込めて。
「トテモキケンナコドモ!」
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スマラグドがアリッサに行きたかった。
一歩。
もう一歩。
だが止まった。周りでまだ人間が咳いていたから。
スライムが黙っていなかった。
メタルスライムが霧の中に滑った。深くではなく。消えるほどではなく。だが鏡の身体で暗い靄を押し戻すだけ十分に遠く。陣形で抗った場所で霧が退き、引き裂かれ、渦を巻き、一瞬薄くなった。後ろの人間がまた息を吸えるほど。
上で天使スライムが光を強めた。温かい火花がもっと密になり、金色の桃色の雨のように通りに落ちた。額に、頬に、肩に。目と耳からの血が完全には止まらなかったが流れが弱くなった。咳が途切れた。顔からよろめきが消え、ほんの少しの明瞭さが戻った。
そして英雄パーティーの赤いスライムがぶくぶく言い始めた。
前に転がり出て、霧と人間の間に幅広く立ち、小さな盾を上げた。一瞬ほとんど滑稽に見えた - そして地面に硬く叩きつけた。
石畳が応えた。
土が裂け、押し上がり、後ろの人間を弧に包むように広がった。優雅な壁ではなかった。もっと、裂けた地面と石畳の欠片と瓦礫で作った速い粗い壁。霧を遮るだけ十分に厚く。後ろの人間を悪魔スライムの直線から外すだけ十分に高く。
赤いスライムが一度深く満足げにぶるっと鳴った。
そしてただ立ったままにはならなかった。
壁に沿って滑り、ここを補強し、あそこに土を押し上げ、壁の一部が崩れると隙間を塞いだ。二度、盾と身体で霧に体当たりした。本当に自分の任務を正確に知るタンクであるかのように。
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アリッサが顔を上げた。
顎に血がこびりついていた。頬に埃。呼吸が重すぎた。あまりに。それでも目にまだあの意地があった。やめようとしない意地。
スマラグドが即座に傍にいた。
しゃがんで肩に手を置き、慎重に少し起こした。アリッサがびくりとしたが歯を噛んだだけ。
「アリー-」
「またお礼はやめて」とアリッサがかすれて呟いた。
それでもスマラグドはほとんど笑った。その音が小さく震えて出てきた。
「お礼言おうとしてなかったし」
「嘘つき」とアリッサが吐息のように。
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悪魔スライムはその間完全には立ち上がらなかった。
観察していた。
黒い質量をゆっくり形に戻した。慌ててではなく。パニックでもなく。ほとんどのんびりと。二人がまだ何をするか見てから次の一手を打つかのように。
盲目の暴走よりまだ悪かった。
「スマラ」とアリッサが囁いた。視線が半分彼女に半分悪魔に。「今ここで計画があるって言ったら、信じるよ」
スマラグドは笑うべきか泣くべきか分からなかった。
「計画はない」と正直に認めた。
アリッサが弱く頷いた。「了解。安心する」
スマラグドが唇を引き結んだ。
金色の光をまた感じた。翼。槍。パニックにだけ反応するのをやめた時に中に定着したがるあの奇妙な温かい明瞭さ。
アリッサを見下ろした。
まだ重傷だった。脇腹が血で暗い。左腕がぶら下がったまま。動くたびに力が目に見えてかかる。だがいた。覚醒して。怒って。不条理にもまだ続ける気で。
「わたしの後ろにいて」とスマラグドが言った。
アリッサが片眉を上げた。「ほとんど立てないんだけど」
「なら......それでも後ろにいて」
今度はアリッサが本当に笑った。短く痛い音。「はい、ママ」
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悪魔スライムがまた立ち上がった。
今度は完全に。
欠けた半分が流れ込み、高くなり、また肩、胸、腕になった。片目が即座にまた二つに。灼えて生きて。剣が黒い質量からまた形成された。重く脈打って手に。
「ウザイガキ」と唸った。「トテモウザイガキ」
スマラグドは槍の握りがきつくなるのを感じた。
傍でアリッサが足に立った。綺麗にではなく。安定してもなく。だが立った。
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そして炎に何かが起きた。
さっきまでアリッサに寄り添っていた深紅の灼熱が変わり始めた。
突然にではなく。
一瞬の色変わりのようにではなく。
紫が縁で薄くなった。下から何かが出てくるかのように。色が冷めはしなかったがずれた。まずほんの一息。次にもっとはっきり。紫が退いた。もっと澄んだ、もっと深いものが現れた。
翠緑。
ヴァレリアが鋭く息を吸った。
炎がまた変わった。
あの時、紫は漆黒に傾いた。
今、翠緑になった。
炎はアリッサの傍にい続けた。
だがもう紫ではなかった。
翠緑になっていた。
スマラグドの光のようにではなく。金色で聖なるものではなく。親しげでもなく。ただ違う。独自。覚醒している。アリッサの傍にいる緑の火。状態を変えたが自分でもまだそれが何を意味するか決めていないかのように。
アリッサが気づいたのは煌めきが腕を滑った時だった。首を回し、一瞬瞬きし - 見つめた。
「えっと......スマラ?」
スマラグドにも見えた。
「うん」とゆっくり言った。
それ以上は浮かばなかった。
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目の前で悪魔スライムがまた笑っていた。
後ろで人間がまだ咳いていたが、赤い英雄スライムの壁が保っていた。天使スライムがもっと高く浮かんで治癒を続けた。メタルスライムが霧を押し戻した。
そして金と翠緑と黒く脈打つ刃の間に二人の少女が立っていた。どちらもあまりにも傷つき、あまりにも若く、あまりにも生きていて、諦められなかった。
戦いが激しさを増した。
※更新についてのお知らせ
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