第31章 - 誰でもない
アリッサが震える手で結晶を握っていた。
滑らかな表面が冷たく肌に押しつけられている。浅い呼吸。心臓が胸の中で連射のように打つ。澄んだ星結晶が太陽の光を水のように捉えていた - アリッサには氷の一片のように感じられたが。
お願い......ほんのかすかな色だけでも。
秒が引き伸ばされた。
一呼吸。
二。
三。
アリッサが結晶を額にさらに強く押しつけた。圧で結果を強制できるかのように。指先が麻痺していった。世界がこの一点に縮まった - 硝子、肌、希望。
だが何も起きなかった。
輝きはない。
午後の陽に光沢もない、冷たく無言の硝子だけ。
このなにもないと共に中庭も沈黙した。すべての音に蓋を被せたかのように。
風がひと筋、石畳を撫で、髪を揺らし、庭の端の葉をざわめかせた。だがそのざわめきすら大きすぎた。
アリッサが結晶を額から離し、見つめた。その透明さのどこかにまだ隠れた色があるかのように。手があまりに震えて、硝子が指の中で小さく鳴った。
クレントが眉をひそめた。ヴァレリアが息を止めた。ルビンとディアマントが視線を交わした。メリィアの金の瞳がほんのわずかに細まった。
ルビンの手が動いた。沈黙がさらに重くなる前に結晶を取り上げようとしたかのように。ディアマントが幅広く構えた。拳で解決できないものが迫る時のいつもの姿勢。ヴァレリアが手を上げ - 動きの途中で下ろした。触れることでアリッサに何かが間違っていると最終的に確認してしまうのが怖くて。
「前の二回と同じ - 」ヴァレリアの声はかすかな息にすぎなかった。「生まれた時と四年前の......」
文は途中で折れたが、十分だった。
ここにいる全員が意味を知っていた。
アリッサはすでに二度検査を受けていた。一度は生まれた時。一度は何年も後。そのたびに結晶は沈黙したままだった。色なく、空に。見せたがるものが何もないかのように。
そして今また。
アリッサは視線が張り付くのを感じた。悪意はない。厳しさもない。だが重い。大人は期待を、子供には必ず感じ取れるやり方で背負った。たとえ誰も口にしなくても。
「なんで......?」アリッサの声が脆かった。喉の中で一語一語が崩れそうな。「なんで......?」
目が涙で満たされた。結晶を見つめていた。剥き出しの絶望で何かを見せるよう強制できるかのように。ほんの一つの火花を。ほんのかすかなものを。何かを。
一度だけ「はい」と言ってくれたら。
だが色はつかなかった。
内側で何かが折れた。
指が開いた - 意識的にではなく、望んでもいなく。結晶が手から滑り落ちた。
石畳に当たった。
甲高い砕ける音が中庭を裂いた。破片が飛び散り、一拍の間光の中で煌めいて、地面を滑った。
アリッサが飛び退いた。
スマラグドが本能的に膝を引き寄せた。アリッサが破片に踏み入らないように。ルビンが一歩前に出て立ち止まった。スマラグドがもうそこにいたから。クレントが息を止めた。
そしてアリッサが叫んだ。
「なんで?!」
木々の鳥が飛び立った。
「なんでなにもおきないの?!」
声が壁に当たり、石に跳ね返り、世界そのものの反響のように戻ってきた。涙が熱く頬を流れた。息を求めて喘いだ。すすり泣いた。胸の中のあれは、今まで知ったどんなものよりも痛かった。
「アリッサ!」クレントが一歩踏み出し、ヴァレリアも。
だがスマラグドの方が速かった。
「ねえ、ねえ......」迷わず膝をつき、アリッサを腕に包んだ。「大丈夫......わたしがいるよ」
アリッサがしがみついた。指がスマラグドの服に食い込んだ。そこに支えを見つけられるかのように。涙で布が暗くなった。
「わたしは......何でもない......」とアリッサが泣いた。
その一文が打撃のように中庭を打った。
スマラグドが即座に首を振り、髪を撫でた。「違う。違うよ、あんたはすべてだよ」
アリッサは信じたかった。
だがあるのは結晶の沈黙だけだった。澄んだ硝子。なにもない。検査と希望と待つことと - そして最後にまた空虚。あまりに大きな声になって、痛みだした空虚。
メリィアが一歩近づいた。
急いでではなく。柔らかくでもなく。
崖の前の子供を見て、間違った言葉がまるで言葉がないのと同じくらい危険だと知っている者のように。
「聞いて、アリッサ」と穏やかに言った。「星結晶が測るのは魔法の種類。勇気ではない。努力でもない。心でもない」
アリッサはすすり泣いていたが、「心」という言葉で一瞬だけ目を上げた。
「歴史の中に、魔法の種類を持たずに魔法使いの部隊より強くなった者たちがいる」とメリィアが続けた。「劣っていたからではない。スキルを極め、身体を鍛え、より良くなることを決してやめなかったから。空は判決ではない。ただ......違うだけ」
ヴァレリアが一瞬目を閉じた。まさにその言葉を自分自身に思い出させなければならないかのように。
メリィアの視線が破片に移り、またアリッサに戻った。「......前と同じね。興味深い」
その言葉が穏やかに落ちた。
だからこそ深く切った。
灰色。魔法の種類が眠っていない者たちをそう呼んだ。ある者にとってはただの用語。別の者にとっては蔑称。アリッサにとっては、一度も完全には消えなかった引っ掻き傷。
大人たちが息を止めた。
「アリッサ」とメリィアが言った。「もう一度試したい?」
アリッサがすすった。唇が震えた。そして頷いた。
泣き腫らした顔で地面の破片をちらりと見た。一部が逃げたかった。もう一部が、自分は壊れていないと証明したかった。メリィアがすでに黒い結晶を手にしていた。
試作品。
さっきスマラグドの言葉を示したもの。
アリッサが手を伸ばした。
もっと重かった。
もっと冷たかった。
光だけでなく希望も呑み込むかのように。
スマラグドがぴったり傍にいた。肩と肩。隣の呼吸。「離れない」と言う温もり。
アリッサが黒い結晶を額に押しつけた。
なにもない。
唸りもない。
ちらつきもない。
小さな「もしかしたら」すらない。
今度の沈黙はさらに深かった。
ただの静けさではない。
誰も口にしないのにアリッサに聞こえた判決。
クレントが唾を呑んだ。喉が動くほど強く。目が危険に光った。
「あり得ない」と呟いた。
今度は疑いのようには聞こえなかった。
世界への脅しのように聞こえた。
「クレント - 」とヴァレリアが慎重に言いかけた。
「あり得るわけがない!」
声が中庭で爆発した。
「あり得るわけがない!」
メリィアに向かって突進した。歩みは硬く、目が灼けて。一瞬、慰める父親ではなくなった。自分の子供を見過ごされることに耐えられない男でしかなかった。
半妖精が静かに顔を上げた。
「落ち着きなさい」
「落ち着け?!」クレントが襟を掴んで引き寄せた。声が怒りと絶望に割れた。「この子がどれだけ苦しんでるか見えないのか?! 自分は誰でもないと思ってるんだぞ! お前はここに座って『興味深い』と言いやがる、俺の子がそれで壊れていく間に!」
「わた - 」
「黙れ!」
怒号が壁に叩きつけられた。
「なぜこの子が苦しむか、知りたいか?!」
呼吸が荒かった。手が震えていた。
「俺のスキルを全部真似できるからだ!」
大人たちの間にざわめきが走った。
ルビンが凍りついた。ディアマントが歯の間で小さく毒づいた。ヴァレリアがアリッサを見た。その目に一瞬、恐ろしいものがあった - 理解。
アリッサがスマラグドの腕の中でかろうじて顔を上げた。
その言葉が恥と救いとして同時に彼女を打った。
メリィアの瞳が光った。「......何ですって?」
クレントが唐突に手を離し、後退し、拳を握った。胸が不安定に上下した。
「小さな子供の頃から、見たものすべてを写すんだ」と搾り出した。「俺のライトニングストライクも......ヴァレリアの拳打も......全部!」片手で髪をかき上げた。自分を支えなければならないかのように。「何度も何度も試す、失敗しても、痛くても!」
声が誇りと怒りの間で揺れた。
「なのに結晶は......結晶は何も示さない!」
メリィアが黙った。
金の瞳が細まった。嘲りではなく。視線が働いていた。層を一つずつ。
「つまり」とやがて呟いた。「見たものを......すべて真似できる、と」
「そうだ!」クレントがまた叫んだ。「それを『興味深い』と呼ぶのか?!」
拳が飛んだ。
轟音。
メリィアの頬に当たった。
そして跳ね返った。石を殴ったかのように。
メリィアは動かなかった。瞬きもしない。揺らぎもしない。音もしない。ただあの金の瞳。判決のように固い。
「お前の言うことが本当なら - 」声が沈黙を切り裂いた。「この目で見せてもらう」
見えない圧がクレントを押し戻した。
数歩よろめき、喘ぎながら止まった。怒りはまだ灼えていたが、突然輪郭を持っていた。ヴァレリアが間に入ろうとして、しかし止まった。アリッサはまだスマラグドの腕の中で震えていた。これ以上の混乱はただ深く引きずり込むだけだった。
メリィアがアリッサを見た。
視線は刃のように鋭く、石のように譲らず - だが残酷ではなかった。集中していた。まるでアリッサを初めて本当に見ているかのように。空としてではなく。問題としてではなく。真剣に受け止めるべき何かとして。
「見せて、アリッサ」と言った。
アリッサがすすり泣いた。指がスマラグドの服にしがみついたまま。何を見せるべきか分からなかった。ただ全員が違う目で自分を見ていることだけ分かった。哀れみではなく。期待を持って。
そしてまさにこの瞬間、ひっそりと、結晶自身以外の誰にも気づかれぬまま、黒い硝子の中に三つの歪んだ断片が灼きついた。
__世____
ほんの一拍だけ。
そして文字はまた消えた。一度もそこになかったかのように。




