第3章 - フレア
ヴァレリアの血の刃が振り下ろされた。
整った斬撃ではない。彼女がいつも見せる冷たい精度でもない。一振り一振りが剥き出しの力だった。重く、容赦なく。身体を打っているのではなく、この世界から抉り出さねばならない何かを叩いているかのように。音は鈍く、同時に硬かった。骨が砕ける。肉が裂ける。暗い血が苔と落ち葉の上に広い弧を描いて飛び散った。
悪魔が打撃の下でよろめき退いた。鉤爪が地面に溝を刻み、根に食い込み、体勢を立て直すたびに樫の樹皮を弾けさせた。だがその笑いは途切れなかった。
ただ鋭くなっただけだった。
「お前は危険だな」暗く粘ついた血が唇を伝い、牙を染めていた。笑みが以前よりさらに醜い何かに歪んだ。「なおさらいい」
ヴァレリアにはほとんど聞こえていなかった。
肩が深く落ちている。呼吸は熱く、速い。一つ一つの動きがとうに限界を超えた筋肉を引き裂くが、痛みは本当には届いていなかった。この状態では世界はわずかなものに縮まっていた。動き。標的。血。
疑念の入る余地はなかった。
その先を問う余裕もなかった。
ただ次の一撃だけ。
引き裂け。何も残すな。
血の刃が手の中で脈打っていた。温かく、重く、まるでそれ自身の鼓動を持つかのように。一振りごとに赤い軌跡を空気に引いた。当たった場所に残るのは光ではなく味だった。鉄。熱。歯の中で振動する生々しい何か。
ヴァレリアが追撃した。一歩、さらに一歩。地面は血で滑りやすかったが、脚がリズムを保った。振りかぶり、断頭台のように刃を落とした。
悪魔が横へ滑った。
通常の意味で速いのではない。身体が最後の瞬間に別の場所にいることを決めたかのような動き。斬撃が地面を裂いた。土、根、濡れた苔が吹き上がった。硫黄の臭いが立ち昇る。鋭く、病んだように。
ヴァレリアが再び斬りかかった。
再び悪魔は躱した。再び笑った。
だがその嘲りは傷を隠しきれていなかった。暗い血が腕から、口から、体を支える鉤爪から滴っていた。しかしその動きにはまるで恐慌がなかった。獲物のように退いているのではない。まだ遊べる限界がどこにあるかを正確に測りながら距離を保っていた。
そして空気が変わった。
音から始まったのではない。光からでもない。夜そのものが形を変えるような感覚だけがあった。圧が空き地にのしかかった。ヴァレリアの肩にではなく、もっと深くに。誰かが喉の周りの空気を締め上げたかのように。
血の刃が手の中で鈍くなった。
重くなったのではない。
押さえつけられた。
腕の細い毛が逆立つのを感じた。呼吸が止まった。一瞬だけ、あの残忍で狭いトンネル - 殺すことだけが存在していた焦点 - が揺らいだ。
悪魔の鉤爪の下で魔法陣が開いた。
紫。
毒緑。
不吉に地面で脈打っていたが、それは整った円ではなかった。学院の講堂や神殿の書に描かれるような、きちんと引かれた術式ではない。螺旋だった。大地に喰い込むように深く刻まれ、貪欲に内へ向かって回転し、決して触れてはならない何かを穿とうとしているかのような。その光が苔を、根を、樫の下部の幹を這い、樹皮を昇る長く歪んだ影を投げかけた。
ヴァレリアはそれを瞬き一つ分長く見つめてしまった。
それで十分だった。
視線がクレントへ走った。
彼は倒れた根の影に横たわっていた。動かない。胸の上下はあまりに浅かった。血が砕けた鎧を完全に浸し、暗く苔に沁みていた。顔は蒼白だった。蒼白すぎた。
冷たいものが彼女の内側に広がった。
森からではない。
悪魔の気配からでもない。
だめ。こんなところで。こんな風に。
内なる狂戦士が叫んでいた。一撃を振り抜け。術が完成する前に悪魔を引き裂け。進め。もっと。何も残さぬまで。
だがもう一方の彼女にはクレントしか見えなかった。
その身体にどれほど僅かな時間しか残されていないかが見えた。
ヴァレリアはあの状態を断ち切った。
全力疾走の最中に扉を叩きつけるような感覚だった。その向こうで何かが両の拳で木を打ちつけている。一瞬、何も起こらなかった。
血の刃から輝きが消えた。深い赤が濁り、形であり続ける意志を失ったかのように崩れ落ちた。暗い雫が指を伝った。糸がほどけた。武器は粘り気のある重い血に崩壊し、手から滑り落ちて地面に沁み込んだ。
それとともに、頭の中のあの陶酔するような轟音も途切れた。
森が戻ってきた。
煙。硫黄。引き裂かれた大地。痛み。
魔力が身体に跳ね返った。力ずくで閉じていた堰に打ちつける水のように。皮膚の下が刺した。熱く、同時に冷たく。指が痙攣した。胃が収縮した。鋭い震えが膝まで走った。
彼女はクレントのもとへよろめき、その隣の苔に崩れ落ちた。
冷たい。湿っている。所々、血で温かい。
手が速すぎた。慌てすぎていた。腰帯の袋を引っ掻き、革が指に絡まり、硝子の微かな音が荒廃した空き地の中であまりに大きく響いた。ようやく小瓶を引き抜いた。中で回復薬が柔らかな翠緑に煌めいている。春の光を閉じ込めたかのように。
「クレント」
彼の名前が震える声で唇を出た。
上半身を抱え起こした。頭が重く肩に沈んだ。それは恐ろしい重さだった。いつも彼を彼たらしめていた張りが一切ないから。顔に色がなかった。唇が青みを帯びていた。呼吸は短く、不規則で、まるで身体がその都度、呼吸を続けるべきだと思い出させなければならないかのようだった。
ヴァレリアが小瓶を唇に当てた。
「飲んで......お願い......」
一滴が口の端から流れた。彼女は低く毒づき、瓶をより慎重に傾け、顎を少し持ち上げた。手首が震える。もう一滴。そしてかすかな嚥下を感じた。
ほとんど何でもないほど小さい。
でもそこにあった。
ヴァレリアは息を吐いた。何分も息を止めていたかのように。
同時に、最も重い傷の上に掌を当てた。鎧の布地は裂け、金属の縁が鋭く曲がっている。温かい血が肌に張り付いた。弱い緑の光が明滅した。
治癒魔法。
いつもなら馴染み深い。
今は嵐の中の道具のようだった。
マナの流れに手を伸ばし、傷へ導こうとした。裂けた組織を閉じさせ、衝撃を身体から追い出そうとした。抵抗を感じた。食い込んだ痛み。失血。彼の身体のよろめくリズム。
そして空気。
治癒の流れがうまく掴めなかった。
周囲の魔力が濃すぎ、重すぎて、指の間から砕けてほとんど制御できない時がある。次の瞬間には引き剥がされ、空白を残す。そうなるとヴァレリアの手は、魔法の足場を奪われたような感覚になった。治癒を安定させるあらゆる試みがほつれた。
クレントが喘いだ。瞼が不安げに震えた。片手が盲目的に支えを探り、ヴァレリアの脇腹の血に濡れた布地を見つけ、弱くしがみついた。
「逃げろ......」
空気以上のものではなかった。
それでも打撃のように彼女に当たった。
「黙って」声が割れた。小瓶をさらに強く唇に押し当てた。意志だけでこの世界に彼を留められるかのように。「今はだめ。どこにも行かせない」
目が焼けた。
背後で悪魔の笑い声が夜を引っ掻いた。
「遊びの時間は終わりだ、小さな人間」
ヴァレリアが顔を上げた。
心臓が縮んだ。
悪魔は今や螺旋の中央に立っていた。脈動しながら地面に喰い込み、さらに広がっていた。毒緑と紫が渦の中で燃え、その中心に何かが集まっていた。
黒い光。
闇ではない。明るさの不在でもない。
能動的な何か。
色を喰らう何か。
螺旋の上に、現実に穿たれた穴のように浮かんでいた。音が鈍くなった。葉のざわめきも、木の軋みも、空気の樹脂の匂いすらも内側へ引き込まれるようだった。幹の影はもう這うだけではなかった。見えない力に中心へ引きずられるかのように、樹皮の上を滑っていた。
ヴァレリアには自分の呼吸があまりに大きく聞こえた。
「勝ち目がない......」
クレントの頭をより慎重に苔に戻した。呼吸ができるぎりぎりまでだけ。そして立ち上がり、彼の前に出た。
全身が震えていた。疲労が筋肉の奥深くに巣くっている。指がもう正しく閉じようとしない。マナは狂戦士の断絶と慌ただしい治癒で引き裂かれていた。だが視線は悪魔に向けたまま。
悪魔が鉤爪を上げた。
ゆっくりと。嗜虐的に。
楽器を調律するかのように。
「死ね」
ヴァレリアには即座に分かった。この力は止められない。
残されたものでは。矢は間に合わない。炎はあの黒い光を貫けない。魔力はあまりに不安定で、疲弊しきって、あらゆる縫い目が開いている。
ここで終わりだ。
森が息を止めた。祠樫の森に足を踏み入れた時と同じように。だが今度は潜む静寂ではなかった。何かが引っ張っていた。内側を。まるであの螺旋が肉と骨を引き裂くだけでなく、彼女の中のすべてを内側へ折り曲げ潰そうとしているかのように。
ヴァレリアがもう一度クレントを見た。
痛みに刻まれた顔。浅い呼吸。でもそこにいる。
まだ。
彼の傍に膝をつき、腕をきつく巻きつけた。彼と世界の間に自分を押し込めるかのように。額が一瞬、彼の肩に触れた。血の匂いが呼吸を満たした。その下に馴染み深いものがあった。革。金属。汗。クレント。
「愛してる」と囁いた。
そして世界が爆ぜた。
黒い雷が頭上の空を裂いた。漆黒の炎が、おぞましい自らの意志を持って、飢えた獣のように地面を這い進んだ。樫の木が砕けた。何百年もの幹が乾いた柴のように。樹皮が千切れ飛んだ。枝が闇から引きちぎられた。黒い火花が虫のように空中を跳ねた。
煙。灰。硫黄。
ヴァレリアがクレントをさらに強く抱き寄せた。腕が震える。皮膚の下で魔力が、素手で掴もうとする水のように崩れていった。
術が直撃した。
痛み。
黒い炎が肌を引き裂いた。雷が空気を焼いた。吸い込む前に。口が苦い灰で満たされた。喉が燃えた。液体の炎を流し込まれたかのように。
叫ぼうとした。
窒息した音しか出なかった。
熱が途切れ、別の何かが襲った。切り裂くような、凄まじい冷気。圧が胸郭に、肋骨に、背中にのしかかった。水の中に押し込まれるように。深く、さらに深く。背骨が撓むようだった。腹の中で何かが引きずった。悪魔の螺旋が彼女の中のすべてを内側へ捻り、磨り潰そうとしているかのように。
クレントの呼吸が聞こえなくなった。
あるいはそう思っただけかもしれない。
そしてその完全な黒い一秒の中で、名付けられない何かが彼女の中で壊れた。意志ではない。愛でもない。別の何か。世界の根幹は残酷ではないという、最後の一欠片の信頼かもしれない。
そして轟音が来た。
耳を聾するほどの。
すべてが消え去った。
静寂。
音の不在ではない。
もっと大きな何か。
世界が一拍の間、そもそも何かであることをやめたかのような。
痛みが消えていた。
あまりに完全に、あまりに唐突に、それが間違いに感じられた。ヴァレリアはようやく目を開けた。灰色の縞模様になった煙が空気を漂っていた。灰がゆっくりと降っていた。肌は無事だった。焼けてもいない。裂けてもいない。クレントの重みが腕の中に温かくあった。
温かい。
ここにいる。
遠くで悪魔が貪欲に空気を吸い込んでいた。術の消耗で胸が重く上下していた。身体があったはずの場所の、えぐれた地面から煙が立ち昇っていた。
「ようやく静かになった - 」声が掠れた。
笑みが戻った。
そして煙が晴れた。
悪魔が硬直した。
ヴァレリアとクレントはまだそこにいた。
無傷で。
二人の周囲に障壁が張り巡らされていた。完璧に、煌めいて。空気そのものが盾になったかのように。明確な半球ではない。硬い境界でもない。むしろ切子面の集合のようだった。磨かれた硝子が光を屈折させるような。
だが千の色にではない。
五つだけ。
紫紅。碧藍。金。翠緑。漆黒。
それぞれの面がまさにその色を捉え、返していた。そこに秩序が、交渉の余地のない法則があるかのように。悪魔の黒い炎は岩に当たる水のように弾かれた。雷は一つも届いていなかった。何一つ触れていなかった。
ヴァレリアには即座に分かった。
これは誰かが維持している盾ではない。力を注いで保っている術でもない。
世界のこの場所にある何かが、二人は死んではならないと、ただ決めたのだ。
「馬鹿な - 」悪魔が一歩よろめいた。
足元の螺旋が神経質に明滅した。毒緑と紫が渦の中で痙攣する。まるで大地が自らの悪意に咽せたかのように。
そして再び地面が震え始めた。
爆発の前触れのようにではない。
応答のように。
空気が変わった。重くではない。冷たくでもない。澄んだ。悪魔の気配が耐えられない何かが森に足を踏み入れるかのように。
そして声が響いた。
静かに。
囁きにすぎないほどに。
だがヴァレリアはそれを耳で聞いたのではなかった。その言葉が心と魂に直接響いた。思考が生まれる場所でその音が生じるかのように。
......フレア。
ヴァレリアが身を震わせた。
痛みではない。
その言葉が自分を名指している、という感覚。その中の何かが彼女を見ている。彼女自身が言葉にしたことのない何かを、彼女の内に認めている。
クレントは動かなかった。頭が胸に重く預けられている。目は閉じたまま。だが呼吸はあった。
ヴァレリアの目が悪魔に張り付いた。
世界が応えた。
光線ではなく。
悪魔の周囲に、虚空から五つの炎が突然灯った。
紫紅。
碧藍。
金。
翠緑。
漆黒。
普通の火のようには燃えていなかった。木々に温かな揺らめきを投げかけることもない。一つ一つの色がそれ自体として在った。密で、生き生きと。光ではなく、独立した状態であるかのように。一瞬、静止して漂った。互いを見つめるかのように。
悪魔が鉤爪を振り上げた。
笑みが砕けた。
叫び声のための息を見つける前に、五つの炎がすべて同時にその身体を貫いた。
衝撃は無音だった。
その効果はそうではなかった。
色が悪魔の本質を喰い破った。呪いも、抵抗も、肉体も、それらにとっては何の意味も持たないかのように。螺旋の毒緑と紫が傷ついた神経のように痙攣した。そして崩壊した。術の上の黒い光が自壊した。存在する権利を剥奪されたかのように。
閃光が祠樫の森を貫いた。
白ではない。
もっと異質な何か。
一拍の間、夜がその偽りの法則を忘れ、あらゆる影が空き地から追い払われた。
そして炎だけが残った。
紫紅は怒りのように燃えた。
碧藍は冷気のように切り裂いた。
金は裁きのように灼いた。
翠緑は生命のように強いた。
漆黒は暗いのではなく - 最終的だった。
そして静寂。
そして灰。
悪魔は消えていた。
黒い欠片だけが一瞬、空中を漂っていた。迷うように。その起源が消滅した後、自分がどこに属するのかもう分からないかのように。煙が退いた。風に吹かれたのではない。何かを避けるように。
舞う灰の中に、一つの姿が実体化した。
ヴァレリアが息を止めた。
少女だった。若く、それでいてすでに大人びている。朧げ。ほとんど透明。凝縮された星の光と記憶でできているかのような。輪郭はあったが、決して完全には定まらなかった。空気が彼女を通り抜けるのか、彼女自身が空気と光でできているのか、ヴァレリアには分からなかった。
その手に巨大な両手剣が収まっていた。
人の身には到底持てぬほどの大きさの刃。それでもその手の中で重くは見えなかった。荷ではなく。ただ彼女に属するもののように。
空気が静まったにもかかわらず、髪が揺れていた。
五つの炎は消えなかった。静かな輪に引き戻され、少女の周囲をゆっくりと巡り始めた。遠い太陽を回る惑星のように。
紫紅。碧藍。金。翠緑。漆黒。
ヴァレリアは障壁がその動きに応えるのを感じた。切子面が一瞬揺らめいた。不安定にではない。同意するように。両者が同じ法則から成り立っているかのように。
少女はヴァレリアを見なかった。
クレントも見なかった。
その視線は、森とも空とも時間とも関係のない、どこか遠くに向けられていた。一瞬、何かを語ろうとしているように見えた。だがヴァレリアに聞こえたのは、あの一つの言葉が内側で反響するだけだった。
......フレア。
やがてその姿は溶け始めた。
唐突にではなく。輝きが薄くなった。輪郭の端がまず灰色の煙に溶け、次に肩が、刃が、髪が消え、彼女がそこにいたという感覚だけが残った。
五つの炎が小さくなった。凝縮した。障壁そのものに引き戻されるように消えていった。
虹彩の半球が最後に一度明るく閃いた - まさにあの五色で - そしてゆっくりと退き、空気を解き放った。
ヴァレリアはクレントとともに苔に沈んだ。
ようやく、身体がどれほど震えているか気づいた。緊張が鎧のように剥がれ落ちた。長く着すぎた鎧のように。手の感覚がなかった。肩が鈍く痛んだ。目の奥で脈が打っていた。
頭を回して空を見た。
梢の間に、ただの夜空が戻っていた。螺旋はない。黒い光もない。色の海もない。
ただ星だけ。
静かに。
何も見なかったかのように。
隣にクレントが横たわっていた。
意識はない。だが呼吸はさっきより規則的になっていた。十分に穏やかで、ヴァレリアの胸が痛いほど締めつけられた。彼の胸に手を置いた。リズムを感じるためだけに。彼がまだここにいると証明するためだけに。
鼓動はあった。
遅い。弱い。だが確かに。
生きている。
その思いは勝利のようには来なかった。ただ慎重に。ほとんど震えるように。
ヴァレリアは一瞬目を閉じた。自分の心臓の鼓動が異質に感じられた。何かに慣れていたのに、それが突然なくなったかのように。
そして感じた。
ずっと深いところで。
温かい。
小さい。
かすかな。
もう一つのリズム。
ただ一拍分。かろうじて感じ取れるほどの。だが確かに。反響ではない。魔力の残響でもない。森から来たものでもない。悪魔から来たものでもない。生きている何か。
彼女の中に。
ヴァレリアの目が潤んだ。
恐怖ではなく。
痛みでもなく。
この静かで、不可能な確信のために。この夜のどんな叫びよりも強く彼女を打ったもの。
心の中であの少女の声がもう一度響いた。柔らかく。子守歌のように。それでいて言葉にできないほど重く。
唇が動いた。
「ありがとう......」
森にではない。
空にではない。
星にではない。
二人は死んではならないと決めた、その何かに。
瞼が重くなった。音が遠ざかった。世界の縁が柔らかくなった。隣のクレントの呼吸が最後の確かな音として残った。
そして闇が彼女を優しく受け止めた。
祠樫の森は再び完全に静まり返った。
焦げた大地の苦い匂いだけが空気に残り、ここで起きたことを証していた。頭上の澄んだ空は静かに、黙って佇んでいた。まるで世界がまだ知るべきでない秘密を守っているかのように。




