第二章 ビャクロ5
斧が唸る。
まだ扱いに慣れていない。
軌道も荒い。
だが今はそんなことどうだっていい。
純粋に、重さをぶつける。
「っ!?」
追手の男は反応が遅れた。
咄嗟に剣を上げるが次の瞬間、
剣ごと吹き飛んだ。
男が地面を転がる。
リー・テン自身も驚く。
「うお……。」
扱いが下手でもこの破壊力。
今までのナイフとは別物だった。
一方そのころ、
桃花はもう一人へ踏み込んでいた。
速く、静かに。
刀が一瞬だけ閃く。
男の武器が落ちる。
そのまま首筋へ刃。
「動かない。」
声は静かだった。
だが、凍るほど冷たい。
男が固まる。
リー・テンは思った。
――怖。
さっきまでと雰囲気違い過ぎた。
――その後も逃走は続いた。
完全に振り切れたわけじゃない。
だが、
夜が近づく頃には追っても諦めたらしく、
追跡の気配はほとんど残っていなかった。
森の奥、小さな崖下で、
二人はようやく足を止める。
リー・テンはその場へ座り込んだ。
「……死ぬかと思った。」
「まだ死んでない。」
桃花は普通に火を起こしている。
多少息は乱れているが、平気そうだった。
意味がわからない。
「お前体力どうなってんだよ。」
「鍛えてるから。」
リー・テンは倒れ込んだ。
全身が痛い。
でも、
不思議と嫌じゃなかった。
今日一日、ずっと必死だった。
考えて、
走って、
戦って、
また生き延びることができた。
「桃花、ありがとな。お前がいなかったら俺多分死んでたわ。」
返事はない。
――しばらくの間無言の時間が続く。
すると突然、桃花が火の向こうから言う。
「さっき、悪くなかった。」
「ん?」
「斧。」
リー・テンは少し考える。
「……重いけど、性に合うかも。」
「でしょうね。」
桃花は笑う。
「あなた、細かい戦い向いてないもの。」
「ひど。」
「褒めてる。大胆ってことよ。それはそれで強みなの。」
本当に褒めてる顔だった。
――しばらくして、
リーが申し訳なさそうに口を開く。
「……巻き込んで、すまなかった。もうビャクロには戻れそうもないし。俺のせいだ。」
「別にいいじゃない。また次の街へ行けばいいだけのことよ。……それに、貴方案外面白そうだしね。」
「……!!一緒に来てくれるのか!?」
「ええそうよ。一緒に行動すれば、貴方は生存率が上がる。それに、私も話し相手がほしかったしね。」
「本当にいいのか?俺迷惑ばっかりかけると思うけど。」
「問題ないわ。鍛錬はその分ちゃんとしてもらうけど。それじゃあ改めて、よろしくね」
「おう!」




