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彼らのいた時代  作者: あという人
第1部

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第二章 ビャクロ3

 ——桃花。

不思議な名前だった。

「案内してくれ。」

「いいわ。」

ビャクロの夜は、明るい。

日が沈んでも、街中の炉が燃えているからだった。

赤い火、

白い蒸気、

鍛冶場から響く金属音。

まるで街そのものが眠る気配を持っていないようだ。


リー・テンは通りを歩きながら、肩の長柄斧を見下ろした。

ずっと背負っていると重い。

筋肉をつける必要があるかもしれないな。

だが悪くない。


問題は…


「扱えねぇ。」

「でしょうね。」

隣を歩く桃花が即答した。


リー・テンは顔をしかめる。

「否定はしねぇけど。」

「振り回されてたもの。」

「初日なんだから仕方ねぇだろ。」

桃花は小さく肩をすくめた。

「まあ、死んでないだけ上出来。」




 ――桃花は、妙に物知りだった。


街の構造、

裏通り、

安い宿、

避けるべき店、

危険な区域。

全部把握している。


リー・テンは聞く。

「ここに来て、長いのか?」

「別に。」

「じゃあ何でそんな詳しいんだよ。」

「生き残るのに必要だから。」

答え方が軽い。


しかし、妙に重みがあった。


二人は屋台街へ入る。

肉を焼く匂いがする。

酒、

煙、

怒鳴り声。

リー・テンの腹が鳴る。


桃花が吹き出した。

「わかりやすいわね。」

「うるせぇ。」


結局、適当な屋台へ座った。

リー・テンは串肉を頬張る。

熱くてうまい。

久々のまともな飯だった。


桃花は茶を飲みながら言う。

「あんた、初心者でしょ?だからまず一つ、冒険者の基本。」

「ん?」

「厄介ごとには首を突っ込まない。今日、私のこと助けてくれたけど、裏組織ともめごと起こしたら、結構厄介なのよ。」

「……。俺、結構まずい?あいつら大丈夫だろうな……?」

「さあね。用心するに越したことはないかもしれないわ。それからその二、死体を漁る時は確認してから。」


リー・テンが止まる。

「……は?」

「死んだふり、結構あるから。」

「怖。…ってか、冒険者って死体漁りとかするのか?」

「そうね、良い装備は特に。買うと高いし。でも、仲間が生きてたら漁っちゃだめよ。あと、依頼品の横取りは御法度。」

「ギルドがうるさい?」

「それもあるけど、普通に殺し合いになる。」


リー・テンは納得した。

冒険者ってもっと自由な連中かと思っていた。

でも実際は違う。

秩序がないと回らない。


「あと…」

桃花は指を立てる。

「依頼中の救援要請は、基本断らない。」

「なんで?」

「次に死ぬの、自分かもしれないから。」


リー・テンは少し黙る。

なるほど。

冒険者は個人主義だ。

だが同時に、

完全に孤立もできない。


「まあ。」

桃花は少し笑う。

「見捨てる人もいるけど。」

「そりゃいるだろうな。」

「そういう人は、長生きできないの。」


しばらく歩いていると、桃花がある通りを避けた。

リー・テンが気づく。

「ん?そっち行かねぇの?」

「行かない。」

即答だった。


「なんでだ?」

「さっきの連中の縄張り。」

リー・テンが振り返る。


薄暗い通り。

武装した男たち。

視線が刺さる。

慌てて目をそらす。


「この街、表向きは鍛造都市だけど。」

桃花は淡々と続ける。

「裏は裏で色々あるの。武器流通に希少鉱石、魔晶石。……そして奴隷。」

最後だけ少し声が冷えた。


リー・テンは眉をひそめる。

「奴隷って合法なのか?」

「国による。」

「ビャクロは?」

「グレー。」


嫌な言い方だった。

つまり実質ある。


リー・テンはため息をつく。

「面倒な街。」

「大都市は大体そう。」


途中、

リー・テンはふと聞く。

「お前、強いの?」

桃花がこちらを見る。

「どうして?」

「なんか余裕ありそうだった。」


襲われていた時、

普通の反応じゃなかった。

桃花は少しだけ笑う。

「まあ、それなり。」

「それなりって何だよ。」

「あなたよりは強い。」

「うわ、ムカつく。」


否定できないのがさらに腹立つ。

「でも、あなたも悪くない。」

「そうか?」

「戦い方が『死にたくない人間』のそれ。」


リー・テンは少し黙る。

その言葉は、妙に刺さった。

桃花は続ける。

「変に格好つけない。逃げる。転がる。物を使う。それに泥臭い。」

「褒めてんのか?」

「褒めてる。」


「冒険者は綺麗に戦うほど死ぬ。」

桃花はそう言った。


その後、

桃花はリー・テンへ身体強化の話をした。


「魔力が全くない人間って、ほぼいないの。」

「へぇ。」

「戦士系は無意識に身体強化してる人も多い。」


リー・テンは手を見る。

「でも俺、魔力感じねぇぞ。前はあったと思うんだけど、いろいろあってな。」


桃花が少し考える。

「……変ね。」

「何が。」

「ゼロではない。」

リー・テンは眉をひそめる。


桃花はじっとリーを見る。

観察するように。

「むしろ、多いくらい。」

「は?」

「ただ、流れが変。私も魔力についてきちんと知っているわけではないから、何とも言えないけど。」


リー・テンは意味がわからなかった。

桃花も完全には理解していない顔だった。

「まあいいわ。今は使えないんだから同じ。」

ひどい結論だった。


夜、

宿へ戻る頃には、リー・テンの頭は少し整理されていた。

この世界は広い。

危険も多い。

ある程度の秩序はあれど、冒険者は自由だ。

でも自由だからこそ、実力がないと死ぬ。


リー・テンはベッドへ倒れ込む。

身体が重い。

だが、少しだけ楽しかった。


村を失ってから初めて、

ほんの少しだけ、

人と関わる楽しさを思い出した。

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