第二章 ビャクロ1
リー・テンにとって、街の移動は大変なことではなかった。
荷物は少ない。
着ている服と少しばかりの路銀、
そしてナイフが一本。
出立の用意はすぐに終わった。
寂しいものだ。
翌日の早朝、まだ空気が冷たい時間、
リー・テンはアステラを発った。
道中、故郷のことが脳裏によぎる。
捨て子だった俺は村長に拾われて育った。
その村長も年で死んで、特に肉親がいるわけでもない。
……だが、つい最近まで楽しく飲んでいた連中はもういない。
帰る場所だと思っていた場所はもうない。
それに……、
自分の胸に手を当てる。
やっぱり感じられない。
「この魔力さえあれば、いずれは強い冒険者になれる」
己の自信につながっていた、
あの流れるような感覚も、消え去っている。
やめだ、やめ。
こんなこと考えても辛くなるだけだ。
今は生き残ることが先決。
そう、頭を切り替えてしばらく歩く。
——気づけば、空気が変わっていた。
熱い。
ビャクロが近い証拠だ。
風が熱を含んでいる。
山脈沿いの道を進むリー・テンは、額の汗をぬぐった。
遠くからでも聞こえる。
金属を打つ音。
甲高い音が、山へ反響していた。
やがて見えてきたのは、巨大な城壁だった。
黒鉄色。
煤で汚れた外壁。
そして、煙。
無数の煙突から白煙が立ち上っている。
まるで都市全体が巨大な炉だった。
「……すげぇな。」
思わず感嘆の声が漏れる。
門をくぐった瞬間、熱気が押し寄せる。
人が多い。
だがアステラとは違う。
歩いている連中の半分以上が武器を持っていた。
剣、
槍、
斧、
金属鎧。
初めて目にする種族もいた。
筋骨隆々のドワーフたちだ。
火花、
蒸気、
鉄の匂い。
アステラの自由で雑多な空気とは違う。
ここは「職人の街」だった。
リー・テンは早速、武器屋を回った。
だが、
「やっぱ高ぇ……。」
現実は厳しい。
確かにアステラよりは安い。
だが、「まともな武器」は普通に高かった。
リー・テンはため息をつく。
今の手持ちで買えるのは、安物か中古くらい。
しかも、大斧は高い。
理由は単純。
「デカいから」
金属量が多い。
「参ったな……。」
リー・テンは路地裏へ入る。
人混みが嫌になった。
少し頭を冷やしたかった。
すると、奥の方から声が聞こえた。
「だからよぉ、お嬢ちゃん。」
「少し付き合えって。」




