その先にあった物
「開いた……」
開かない物と、専門店の店員からもお墨付きを貰っていた代物が、呆気なく開いていた。
「え……え。 えぇぇぇぇっ……!」
なんか開いたんだけど!? これどうゆう状況!? え、まさか一万分の一を当てらたの? 今!?
えーやば。オレまさか死ぬ? 帰り道で事故にでも会うヤツこれ!?
不謹慎か? 不謹慎だな!
いやでもどんな確率だよ、まじやばい! あれよ、内なるギャルみが出てきちまうくらいヤバッ!
パチンコとか全く興味なかったかけどコレか。コレか! 脳汁出るってやつ、コレか!
ドーパミンとか、なんとかミンとか言うヤツあふれてるヤツですやん!
……え、それって大丈夫なの。 大丈夫かぁ!
――などと、混乱と興奮が冷めやらぬ頭の中で一頻り叫んだ後に。
「あ、中身見なきゃ」
と、十分の無駄な思考の末に統一を得る。
千載一遇のチャンス、だとは分かっているため慎重に何からすべきかを見据えて、
「えぇ……っと」
ホーム画面に設置されていた電話帳ツールを起動する。
起動画面でひと悶着あった後なので少し警戒したが、パスワードなどを要求されることなくアプリは動いた。
「ごめんなさいねっと……」
取りあえず、個人情報に繋がるような物であれば何でも確認したい。
友人関係、家族、趣味趣向も。白木少年を知れる情報なら何でもいい。
……思ってる事がストーカーのソレだけど。身の安全には代えられない。
「電話帳は……あれ、登録なし?」
五十音順に並んでいるはずの名前は一つも登録が無く、まっさらなままだった。
確か最近だと連絡の全てをSNSに代替してしまう子が多いと聞く。
電話する以外の機能が備わっているのが便利なのだとか、そもそも電話をされるのもするのも嫌なんだとか。
白木少年もその手の感性を持ち合わせていたのだろう。
通話履歴も、どこからか掛かってくるでお馴染みの迷惑電話くらいしか載っていない。
こういう所を見ると彼も年相応なんだろうなぁー、と親心……でもないが。なんだか親戚の子を見るような感覚に陥りそうになる。
「そんで、SNSは…………真っさら? え?」
操作を間違えたかな、とメニュー画面を開いて改めてユーザー情報を出す……が、結果は変わらず。
登録されている友人の欄には『登録者はいません』の悲しい一文。
「サブアカというヤツか?」と色々と分かる範囲で調べてみるも何も無かった。
分かってのは、このアカウントが作られたのは数年前という事のみ。
何かの拍子でアカウントが必要で作ったけど結局は使用しなかった、みたいな驚きの白さである。検索履歴すら引っかかるものも無い程だ。
「……。」
一応と、他にも入れられていたSNSのアプリを起動してみる。
そして、それらも同様に友達登録はゼロだった。
「こーれは……」
若干、嫌な汗が滲んでくる。
しかし、ここで立ち止まってはいられず「……じゃぁ、写真は」と手を伸ばした。
「何かあってくれよ……!」
流石に家族の写真くらいは撮られているはずだ。
たとえ彼が写真嫌いの人であっても何かの記念日……学生の入学や卒業の時には写真くらい撮ってしまうもの。そこには家族や友人、恩師と撮ってる姿なんかもあったりするだろう。
そんで、ペットでも飼っていたのなら間違いない。
フォルダの中、九割に届かんばかりに大量の犬猫の写真があってもおかしくは――――
『このフォルダは空です』
「……うそぉ」
そんなことあるか?
どんな人だって写真の一枚や二枚くらいはスマホの中にあるもんだろ?
あれだろうか。
この世界にはデータすら余分と切り捨ててしまうミニマリストが存在してるのだろうか。
……物質的に飽和してくると精神的な飛躍を人間はするようになる、とは聞いた事があるのだが、これはその案件だろうか。
「って、あり得んか」
彼の部屋って普通に家具が置かれていたし。
テーブルの上に小さな観葉植物も飾られていた。少なからず、そういう性質を彼は持っていなかったはずだ。
というかネット内でのミニマリストって何だよった話になってしまう。
大体はフォルダの中に納まってしまうのだから整頓も何も無いだろう……とは思うのだが。
いやそもそも、そんな性質の人間が居るのかという話から始めないといけない訳で……。
「…………なんの話だったっけ」
いかん脱線した。
あれだ。空のスマートフォンが指し示す意味はなんぞ、という話だ。
「んーーーーーーーー…………はっ」
その時、おっちゃんに電流が走る。
と、いう事は。
この中身の無いスマートフォンには別の意味が生まれてしまうのではなかろうか。
彼の私生活からでは覗けなかった一面、それが何かというと――推し量るに。
「ネットでやんちゃをした、とか」
オンラインなゲームで暴言、迷惑行為を繰り返して実際に訴訟にまで発展したとかいう話。
聞く所によれば、確かにあるらしいというのだ。
そして、白木少年は過去にそういう行為を行ってしまっていた。
日々のストレスだとか、学習面での不安だとか。学生であっても悩むことは無限にある。
彼はそうしたものを発散する術として、そうした行為に手を染めていき――ある時、その一線を越えてしまった。
両親は大激怒。友人も離れていく。そうして逃げるようにして宮東海学園の寮生活を送っていた。
しかし、ネットでの過ちと言うものは簡単には消えないもの。
スマホを使っていた時に、自分の愚かな行いが拡散されているのを白木少年は目にしてしまった。
自らの行為で今の境遇があるという事実に彼は耐えられなくなり、衝動に任せてスマホのデータを削除。それだけでは飽き足らず、ウイルスまがいのアプリをインストールしてスマホを封印してしまう。
そう。このスマホの奇妙な状態とは、彼がネットタトゥーに苛まれた末、過去と切り離すべくして施した鍵であったのだ!
「……無いか。 そんなのは流石に」
自分で考えておいて、バッサリと長考の結果を切り捨てる。
もしや? と面白半分に考えてはみたが、冗談はあくまで冗談止まり。
可能性として一考の余地も……まぁ無い。
というか、本当にネットタトゥーが原因でスマホを開けなくなるようにしたとして、そこまで追い詰められてるのなら普通は「もう見たくない!」とか言って捨てちまうもんだ。
データ消して、アプリ入れて……なんて。そんな理性があるなら、そもそんな事はしないもんだし。
ただまぁ、オレは彼のことを誇張なく何も知らない。
それこそ一片すらも余地なく、だ。
その上で言うのなら、彼は悪人ではないとオレは確信できる。
白木として過ごした一か月という期間。その間でも大城や早瀬といったクラスメイト、別のクラスでも話しかけられる事は少なく無かった。
それは白木少年が常日頃から分け隔てなくコミュニケーションをしていたという証拠だ。
人は鏡とも言う。些細なことでも優しさがあってこそ周囲の反応は返ってくる。
彼を信じる理由があるとすれば、オレにとってはそれで十分だ。
「色々と考えすぎだったかな」
オレは事態を重く受け止め過ぎていたのかもしれない。
いくらスマホが使えなかったとして、それは自分で望んだ事では無かったのかもしれないからだ。
要はスマホの中に妙なアプリが入っていて開かなくなっている。ついでに中身のデータも消えている、という状況があればいい訳で。
そんなのはウイルスが侵入して悪さをしたとすれば十分に説明が付く。
部屋を破壊され、ナーバスになったせいで白木少年をどこか露悪的に捉えてしまっていたのかもしれない。
だからこれは、事故にでも遭ったと思って切り替えなければ――と。
「ん? 他にもアプリがあるのか」
どれどれ、と画面をスワイプしてみれば、見知った文字が並んでいた。
赤と黒の力強い色合いに『I・E』のアルファベット。
即ち『イミテーション・エボルブ』と。
◇◇◇
見知った文字列。
ゲーム『イミテーション・エボルブ』を表すロゴマーク。
ここにあってはならないもの。
あるはずのないものを見て出てきた言葉は、
「は……」
掠れて、ただの吐息とも取れるような曖昧なものだった。
「なんで」
疑問。
当然に湧き上がってくるのは『なんでコレが存在しているのか?』というもの。
答えてくれる誰かも居ないというのに、そればかりが頭の中を埋め尽くしていく。
(なんである)
埋め尽くされるがゆえに、感覚としては空白で。
(あるはずがない、ありえない)
まるで自分だけが置いて行かれるようで。
(なにかのまちがい。 だってそんなことはぜったいに)
周囲の情報が消え去って内側に籠る。
音も、温度も、呼吸でさえも忘れて、永遠に出せない疑問に捕らわれる。
(まて、まてまて。 なにが……いや、オレは)
そして、カチッという音に体が反応した。
それは隣の隣の席から聞こえた、カップをソーサーに置く些細な音。
そこから談笑の声、コーヒーの香り、カフェのガラス越しにモールの中を行きかう人の影を見る。
震える喉から息を吐きだして、意識が晴れた。
「おちつけ……」
言って自分の胸を撫でる。
そう、落ち着かないといけない。あまり思いもよらない物を見てしまったがために気を動転させてしまっただけ。
それになにもこれがオレの知るイボルブだなんて決まった訳じゃないんだ。この世界にだって同名の作品くらいは存在してもおかしくない。
それが何のデータも残していなかったスマホに偶然……本当に偶然で残っていただけの事。
「ふぅー……。 兎にも角にも、見てみないと」
分かるものじゃない、と息を整えて画面をタップする。
暗転……すぐにアプリが立ち上がった。
大きくタイトルロゴが張り出され『Tap』の表示。少し、押すのを躊躇いそうになるが、画面を見据えて人差し指を押し込む。
「……なんだ、これ」
そして出てきたのは文字化けと明滅する訳の分からない画面だった。
まともに読める文字は無く、メニュー画面らしいものも溶けてしまっている。白黒に明転と暗転を繰り返しているのも目に悪すぎる。
上下にスワイプしてみても反応は見られない。それどころか何の操作も受け付けていないようで、どこを触れても無反応なままだった。
「……壊れてるのか?」
それともまだ完成をしていなかった……か。
どちらにしても、このアプリは通常の動作が出来ない状態にある事だけは分かった。
嫌に息が詰まる感覚を遮ってまで中身を確認しようとしたというのに……。
変に力を入れていた分、なんだか拍子抜けしてしまった。
「まぁ、現状でもお腹一杯加減だったんだ。 厄介ごとが重ならなくて良かった……という事にしよう」
生徒会からの呼び出し。
部屋の破壊。
白木少年への疑念。
そこに、この世界の根底に繋がっていそうと邪推してしまえるような謎アプリ……。
ま、アプリに関しては一般に普及してる可能性もあったり、偶然にオレの知るゲームと酷似していただけとも言えるだろうけど。
そこは考えても仕方がない。
てか、他の事案に関してもヒントが少なすぎて思考の余地がない。なんならヒント欲しさに行動してみたら別の厄介ごとを掘り起こしたまである。
現状、とは言ってみるが。四面楚歌の四語で事足りてしまう程度には、不明と無秩序が折り重なっている。
それでいて対象が不明なのだから対策の仕様がないというのが一番に終わっているのだけども。
「……安心したら頭が回ってきたかな」
何も変わらない様子の画面を今一度見つめる。
ただでさえ余裕がないというのに、このアプリを見つけて更に地力を削られてしまった。
いや……地力とか、たいしてそんな物はないのだけど。それでも頭の中の一切を消し去ってしまう衝撃というのは予想もしなかった。
白木という人物を知りたいがための行動が思いもよらない何かを引き当てた……と言うか。
オレ、唐松修平としての視点で彼を理解しようとすると正しく認識できない、と言うか。
兎も角、彼の過去は現状不明であると、結論付けておく他ない。
「だとすれば……壊された部屋を戻してもらうのが先決か」
白木少年の件を保留にするなら対処可能なことを片付けるべき、と。
次の行動を決めて、げんなりする。
だって、対処してもらおうにも尋ねないといけないのはあの場所だ。
昨日に呼び出されて、辛くも一生を得た生徒会総連へ行かなければならないのだ。
結局は尋ねないといけないから遅いか早いかの違いだったんだけども。
「舌の根が乾かぬ内に……じゃないけどさ」
バツが悪いのは事実だ。
それに事態の要素が他生徒による闇討ちみたいなものだ。信じてもらえるように説明するのも一苦労なのは自明。
なにせ、一昨日はあれだけ一方的に攻められるような構図だったのだ。
難癖付けに来た、と思われてしまうのも予想の内だ。
「嫌だなぁ……行きたくないなぁ」
言っても仕方がないのは分かっているが、愚痴らなければやってられないのである。
しかし、行動しなければ得られるものはなし。
黙って俯いてるなら行動しろ、と。
やる気の起きない自分に火を付けて、足に力を入れようと――
「ん?」
などとしていれば、開きっぱなしにしていたアプリにノイズが走る。
崩れ切った画面に今更ノイズが見えても驚きはしない……のだけど、画面には違う反応が見られた。
画面中央にはっきりとした言語が載ったのだ。
「ステータス……?」
ただの一言すらも真面に読めなかった文字列の中に浮かび上がったのは不穏な単語。
ふと思いいたるのはやはりゲームでいう所のスタータスだが……。
ここにきて何かしらの反応があったことに嫌な予感がしてならない。
「……押してみるか」
調べないという選択肢は、残念ながらない。
このアプリの正体が何なのか。果たして意味がある代物のか。
不明に無理解を塗り重ねているかのようだ。
しかし、ただの無駄足だったと判断するためにも―――と、右の人差し指で画面に触れる。
『―――や――――――い―――――――』
『いし――――――――ま――――――』
『し――――13――――』
『―――ゅ――4――』
「……はぁ」
開いたその先も文字化けの海が広がっているだけだった。
その事実に、どこか安堵のため息が漏れる。
これが何かは分からないが、とことん厄介な代物だということだけは嫌と言うほど理解させられた。
「もういい。 覚書だけして電源落とそ」
次にいつ開くとも構わない。これ以上は考えただけ無駄でも頭が勝手に働いては取り留めもない思考に追いやられてしまう。
ので、たった一語。
『状態異常』と読める文字が見えたのも無視して……と、思ったのに。
続く文面に、触れようとしていた指が止まった。
『あなたは現在、記オクを失ッテいます。 取リ戻すための努力を氏ましょう』
「…………。」
そして、電源を落とした。
最後の最後まで徹底して精神を揺さぶられた気分だった。
◇◇◇
すっかり冷たくなったコーヒーを口にする。
いくら美味しいコーヒーでも冷たくなってしまうと不味いなぁ、としみじみとしながら荷物をまとめた。
と言っても財布と帰ってきたスマホくらいしか手荷物は無いんだけど。
「身軽なのはいいんだけどね」
逆に言えば自分の物と思ってるものがあまり無いって意味なんだけどね。
……思ってみて寂しくなってしまう。
「今は切り替えよう」
今日は……と締めくくるには早すぎるが、午前中だけでも疲労感は凄まじいものになっていた。
考えることが多いというのはある意味では幸せなのだろうが、それが解決の糸口すら掴めず、かつその問題と言うのが複数同時に乱立しているなど正気じゃない。
いくらなんでも限度があるというもの。
上限一杯をぶち抜いて飽和状態。
今日は店じまいにした所存、とは思っても……。
「まだやることあるんよね……」
生徒会総連へ行って被害の報告と補填をしてもらわなければならない。
一夜くらいは瓦礫の中で寝るのも出来たが、これが続くとなれば話は別で。疾く早く新しい部屋なり、片付けるなりをしてもらいたい。
それにあちらにしてみれば事件性がある事案なのだし、報告が遅れることで何かと疑念を向けられても嫌だ。
ので、もう何もしたくないと駄々を捏ねている暇も無くなったし、手早く会計を済ませて生徒会総連へ向かわなくては。
あれこれと話を聞かれるのは前提なんだし、早くに対応して今日こそは安眠したい。
「さて……」
最後の一口を流し込む。
やはりコーヒーはホットに限る。こうも冷たくなってしまっては、いくら美味しく淹れてもらったとしても形無しだ。
だから、今度訪れるときは純粋にコーヒーを楽しむために来よう、と心に決めて。
「行くかな」
そうして腰を上げ――しかし、浮かしたはずの尻がポスンとまた椅子へと沈んだ。
「あれ……?」
急に力が抜けてしまった。
唐松として働きづめの時には良くあった症状に、少し驚く。
白木の体でも起きるんだなぁ……まぁ人の体だもんなぁ、と呑気に納得していると更に変化が起こる。
「…………ん?」
視界が揺れる。
目眩かな、と目頭を押さえるも視界が定まらないのは変わらず。
睡眠の浅さが目にキたのかと思えば、
(え……あれ?)
足に力が入らないことに気が付いた。
何かおかしいと気づいても遅く、何かを言おうと口を動かしても声にならない。舌も空気をから回すだけでまともに動かせない。
脳梗塞? こんなに若いのに? と半ば本気で考えてみるが、次いで来る強烈な眠気に思考が止まる。
(ね……む、い…………?)
何が、と思う事すらも難しく、呆然とした意識が混濁していく。
(いけない……ねむっちゃ、だめ……)
正常な判断が下せない。
ただ、衝動として湧き上がった危機感に従って重くなる瞼に耐える。
こうして不意に意識を失う瞬間をオレは知っている。どうしようもない誘惑に負けそうになる感覚を知っている。
目を開け続けなければならない。でなければ……と、横たえそうになる体を無理やり両腕で支えて頭を上げようと
「久しぶりだね」
その声を聞いて、目の前に誰かが座っていることに気づいた。
俯いたまま下がった視界では何も確認できない。重たい意識では何かを感じ取ろうにも有耶無耶に霧散していく。
ただ分かったのは何かの花の香りと柔い声。
確かに親愛の籠った声だった。
「本当はゆっくりと話したいんだけどね。 コレを投与すると意識が混濁しちゃうから」
投与。
背筋の凍りそうな単語に一瞬頭が冴える。
ただし本当に一瞬のことだけ。すぐに意識は汚泥に沈んでしまう。
「ねぇ」
テーブルに乗せて体を支えている右手に何かがふれる。
それは少し冷たくて、細くて、触られていて心地がいい……。
あぁ、これは手か。
「頑張ってね、ここから大変だよ」
労わるように手の甲を撫でられる。
くすぐったい感覚に腕ごと引こうとするも、薄い笑い声が聞こえて指が絡む。
もう右手だけしか感覚がないのに、それが却って敏感にさせる。
もっと触れていてほしい、と意味不明な欲求の芽が出てくる程度には頭が回らない。
「でもソレがあったなら大丈夫。 きっと乗り越えられるから」
そう聞いて、手が離れた。
右手は追いかけるように空を泳いだ。情動に任せた行動を面白く思われたのか、また笑い声が聞こえて、
「じゃ、また会おうね。 白木くん」
最後に、浮いた右手の甲がまた撫でられる。
そうして胸中に浮かんだ疑念も、郷愁もまとめて、
「……ぁ…………」
意識と一緒に、ブツリと切れた。




