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イミテーション・エボルブ  作者: 志水アンジュ
4/16

昼食の憩いに

「いや~平和でいいねぇ~」


 午前中の講義を終えて昼休憩中、オレは食後のコーヒーを片手に独り言ちていた。

 学園の屋上公園。天気も良いからと一人で登ってきてみたのだが、今日は日差しが強いらしく人は疎らだ。いつもであれば昼食を摂る女子さん方が占領しているイメージであったので、少しだけ得した気分だ。


「ま、偶にはいいだろさ」


 そう偶には。

 いつもであれば早瀬、大城の三人で仲良く駄弁りながら昼食を摂っているのだけど、今日は二人ともに予定があるらしく一人きりという訳だ。

 そうして一人で食事を済ませてしまうと昼休憩は長々と残ってしまい、いつも行かないような場所へ行ってみようとここへ来たのだ。

 お陰で一人で物思いに耽る時間が出来た。


(さて)


 思うのは昨日の事。

 生徒会室に呼び出しをくらった、あの出来事だ。


(考えないでおこう……とか思ってたけど。 やっぱり何かの事件が起きてるって事だもんな)


 宮東海学園、生徒会。

 学園を牛耳る一色凛花を筆頭に、実質的に学園を支配している組織。

 あくまでゲームでの知識でしかないが……彼らが主導して行う事項というのは通常、学園の運営上で欠かす事の出来ない業務を意味する。

 欠かす事の出来ない、とは直接的に学校の運営が脅かされているという事。

 あの場に要職を担う生徒がそろっていたのも、事態の重さを表している。

 特に、


(風紀副委員長が二人とも同席していた……つまり学園の警備に掛かる事項である可能性が高いって事だ)


 他にも色々と可能性があるだろうけど、当りとしてはその辺が濃厚だ。

 要は誰かが学校への侵入を試みている、かもしれないと。


(……そういうイベントはゲーム中でもよくあったよな。 ま、学園の設立理由とか諸々に原因があるんだろうけど)


 宮東海学園とはこの国の未来を担うべき人材を育成する国家機関である。

 財力、才能、技能。それらを極めるべく全国から集めた原石たちを磨き上げ、開花させるための場所。

 学園には人材も、支援も、資源も潤沢に揃っている。それを元手にして学生たちは雄々しく羽ばたいていける……というのが学園の謳う未来支援である。

 実際の所がどうかは、この際は置いておくとして。

 つまる所は豊富な資金が集められる、というのがミソだ。

 イミテーション・エボルブの世界は富の格差が大きくなるような歴史を辿ってしまっている。そのため、この宮東海学園という場所は正しく格差を象徴する意味を有している。

 通っている学生の殆どが裕福な家庭からの出身者というのもあってか、憎しみの目で見られる事も少なくない。

 そんな背景もあって、年中無休で学園に侵入して中の学生らを害してやろうと考える連中が居るのだ。


「そればっかりはゲームでのストーリーありきの設定なんだろうけど。 その中に入ってみれば歪さが身に染みるなぁ」


 一度、学園を出てみた事があるのだが、宮東海学園の生徒だと分かると異様な目で見られたことがある。

 その場はそれだけで済んでくれたけれど、囲まれて殴る蹴る……とかもあったかもしれない。


(あれは本当に怖い思いをしたけど…………あぁ、今はいいか)


 頭を振って切り替える。

 

(考えるべきは…………あんなイベント、あったか? って事だ)


 イミテーション・エボルブはその多彩なストーリーが売りになっているゲームだ。

 オレは千時間以上を費やしてストーリーの掘り起こしをしたり、ゲームwikiの確認だって欠かさなかった。だというのに、今回生徒会へ呼び出され謎の写真を見せられるといったイベントは見たことが無かった。

 

(結構ホラー系のイベントかな……とか、思ったりもしたけど違うみたいなんだよなぁ)


 夜、モザイクで見えない顔の女の子。桜の散る最中、白木が隣で立っている。

 ……その要素をいくら掛けても何も生まれないのがモヤモヤする。

 オレが白木を知らないのも当然だけど、何かに巻き込まれてしまったような気がしてならない。


「ま、そこを考えても仕方ないな」


 そもスマホのパスワードすらも知らないのに、彼の何を知れるというのか。

 異世界転生。

 ……いや転生先はゲームの中だったけど。

 この転生、あまりにも不親切すぎやしなかろうか?

 転生主の記憶を共有されない。

 学習や技能の面で何かしらのブーストも無し。

 あまつさえ知識は全て元の唐松修平に準拠してるもんだから、一から勉強をしなければいけない。

 無いものねだりに意味はないのは分かるけど、それにしたって無い尽くしにも程がなかろうか、って話だ。

 ま、それもこれも大城と早瀬の二人によってどうにか解決の糸口を見つけられたからいいものの、それにしたって不親切が過ぎる。

 

「そういやオレ、神様に転生先の説明も受けてないんだけど」


 職務怠慢?

 投げっぱなし放置?

 どっちにしたって笑えない。

 てか笑い話云々で言えばオレがモブキャラだと発覚したのも衝撃だった。

 イボルブはキャラメイクのあるゲーム。だらか最初こそ自分はキャラメイクで生まれた存在だと確信して疑わなかった。

 やりこんだゲームだったし、何より転生だったし。

 疑う余地なしオレ主人公! だったのだ。普通に「ちょっと弱々しすぎないか? もうちょい筋力にビルド振るのが好みなんだけど」とかキャラビルドについて文句を垂れる程度には疑っていなかった。

 しかし、意を決して学校へと登校したその日に有村蓮介の姿を見つけてしまい「いやオレモブキャラかよ!」となった訳だ。

 ……というか、この際モブキャラだとかは置いておくとして、気になるのは白木弥生というキャラについてだ。

 ゲーム中、白木なんて名前は一度も出て来なかったし、ネームレスのモブだったとて立ち絵ですらも見たことが無い。

 すべての生徒がゲームに出てきていた訳じゃない、と言われてしまえば終わりなのだけど。

 今回の一件で白木少年という人物が気になってきている。

 彼は何者なのか?

 

「……結局はその謎に行きつくんだよな」


 考えようも材料が無い現状では何もしようがないのは痛いほど分かってるのに。


「いかんいかん。 これから午後もあるんだから、気合い入れて頑張んないとぉーー!?」


「なーに、一人で盛り上がってんだい白木さんや」


「珍しい所にいたな白木!」


「二人ともぉ……」


 冷たい物が押し当てられた頬を撫でながらに振り向く。

 って缶コーヒーかよ。通りで冷たい訳だ。


「もう用事はいいの?」


「おう、俺のはただの部活ミーティングだし。 正臣は――」


「委員会の連絡。 いつものだからすぐ終わるんだよ」


「だとさ。 ははは、悪い待たせたな!」


「別に待ってはいないけどさ~……」


 それはそれとして冷たい物を押し当ててきたのは何故か答えたまえよ。

 おじさん、寛容だから許しちゃうけど。そういう一部界隈が盛り上がりそうなムーブを素で決めてこないで欲しい。

 心臓に悪い。

 あと爽やかに笑わないで。後ろの方からザワザワ聞こえてくるから。


「……ま、今日はいいか。 これも心配税だと思うよ」


「なんのことか分からんが。 心配はしたぞ、本当に」


 今朝、いつもの時間に登校してみれば既に早瀬と大城の二人が来ており「大丈夫だったか!?」と凄い勢いで迫られたのだ。

 オレが生徒会に呼び出される現場に立ち会っていた二人はそれこそ心配もひとしおだったようで。

 朝一番に言われた事といえば、


「あれから何も連絡ないから心配したんだぞ!」

 

「あ、ごめん。 疲れて寝て――」


「なら寝る前に一報入れんかいバカ!」


「お、おう。 次から気を付け――――」


「次があってたまるか! もう呼ばれるようなことすんな!」


「は、はい。 肝に銘じあたたたたたたたたたっごめ肩! 肩! 外れる外れ――」


 と、やり取りをしたくらいだ。

 肩は痛めても胸が暖かくなる出来事である。


「今度、お礼するよ」


「「おぉ~」」


 迷惑を掛けっぱなしにしているのも聞こえが悪いし、何よりオレの方が年上なのだから。

 ただ、唯一の懸念事項と言うのが、


「………………学食でもいいかな?」


「流石にそれは……」


「ふ、ざ、け、る、な☆」


 自分が自由に出来る金が無い、という事だ。


                    ◇◇◇


「あー今日も頑張ったぁー…………」


 放課後の自主勉強を終えて部屋へと戻って来る。

 昨日の今日でも日課は怠ってはならない。

 そんな心境でもって臨むこと二時間ほど。今日の目標分を筒がなく終える事が出来た。

 これで続けて一か月。学びの方法も曖昧な所からスタートしたが、どうにか形になってきたように思う。

 継続は力なり、っていうのは確かな格言であったようだ。

 

「…………ただ、この疲労感はどうにかならんもんかね」


 勉強筋とでも言えばいいのか。

 ノートを開く時も、問題を解く時にでも使うその筋肉には早く育ってもらいたいもんである。

 筋肉であれば育て方は熟知してる。脳みそも同様に筋肉であるはずなのだが……脳みそにとってのベンチプレスってどれなんだろうね。

 そもそもジムとか行った事もないけど。現場でバリバリ働いてたら筋肉付く派でございます。


「おぉ~今日も良い感じに脳が疲れてる~」


 取り留めもない戯言を考えてるのは大体、余裕がない時。

 こういう時は風呂に入ってすぐ寝るに限る。


「予習は…………明日の朝に回すかな」


 どうせ体が勝手に早起きしてしまうのだし、と。

 若くなったとしてもおっちゃんとしての生態から逃れられない身を自虐して、


「…………へ?」


 開いたドアの先。

 一人暮らしには似つかわしくない、大量のシューズボックスの並ぶ玄関が――崩壊している様子が目に入った。


「なん…………え?」


 まるで引き裂いたようにぐしゃぐしゃに破壊された残骸を見つめて、


「……………………え?」


 それくらいしか、言葉が出て来なかった。

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