表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イミテーション・エボルブ  作者: 志水アンジュ
3/16

逃げられたのは良いんだけど……

 フロントロビーを抜けて、案内してくれた井波に礼を言って。

 しばし歩いて、周りに誰もいないことを確認し、


(あ、あぶなかったぁぁぁぁぁ!!!!!!!)


 膝から崩れ落ちそうになるのを踏ん張って、近場にあったベンチへ座り込んだオレだった。

 いやもう本当に頑張ったよ……。

 もうこれ詰んだんじゃね? と、何度も考えてしまったけど、最終的に学園の所属が許されたのなら大勝利! 逆転スリーランからの謎の二人が乱入して六点取ったまである。

 まぁ、明らかにそれ野球じゃないんだけどね。


「はぁ…………」


 などと意味不明なことを考えてしまうくらいに頭の中はひっ迫していた。

 正直な話、褒章の類でもなしに生徒会へと呼び出された生徒の運命は退学or国外追放のどちらかと言っても過言ではない。

 二択の選択から別の回答を捻り出したのだから奇跡を起こしたのと変わらないのだ。


(ま、その実態が「知らない、知らない」って繰り返していただけっていうね)


 写真を見せられて「一緒に写っている奴について話せ」と言われ、その全部に知らないで突き通した。

 普通であればそんな甘っちょろい返答がまかり通る訳もない。道理が引っ込むにしても筋が通らなければ意味がないのだから。

 

(その点、デフォ主人公…………あの有村が居てくれたのが助けになった)


 この世界、というと大げさに聞こえるかもしれないが。

 この『イミテーション・エボルブ』というゲームの世界にはサイン、第六感。所謂ところの超能力が存在している。

 もちろん、手を振りかざすだけで炎がボッと出たり、触れてもいない物をふわわ~と動かしたりとかいうものじゃない。

 『人』が『人』に対して行える、科学的に説明ができない特殊な事象。

 物理的な法則ではなく、人間の持つ精神的な事象への直接介入。高次意思生物としての、ある意味での究極の自己完結。または物質の飽和がもたらした新しい進化の道、だとか。

 色々と御託を並べたが、それをサイン、第六感と呼ぶ。そして特殊技能の一つとして数え、社会では個性として受け入れられている。

 そうした技能は誰しも持ち合わせているものではないが、今回はあの場に有村蓮介がいた。


(それが助けになった)


 彼のサインは嘘の判別。

 自分の行った質問に対して限定だが、その返答の真偽を明らかにするものだ。

 脳波に因らない嘘発見器のようなもので、正答率は驚異の百パーセント。彼の手に掛かれば隠し事もあっという間に明るみになる。

 当然に色々と制限も条件もあるが、現実世界に即して考えてみればその強さが良くわかる。使いようによっては人生そのものを無双だってできる。それ程までに強力無比の力で……だからこそ、そこには過信が混じるものだ。

 

(そんで、完全な賭けだった訳だけど……それには無事、勝った)


 有村のサインが示す虚偽の基準。

 それが白木弥生として判定を出されるというのなら、少なからずこの体に残っているであろう彼の記憶が黒の判定を出させたはずだ。オレが自覚できない無意識、ちょっとして癖として白木(かれ)はこの体に生きている。

 それは一か月ほどを白木弥生として過ごしたオレの確信だ。残余する彼に有村が反応していたならオレの負け。

 しかし、質問を受けているのは白木少年ではなく、唐松修平としてのオレであったなら、と。

 賭け、というのはこれを指して。

 結果としてオレは間違いなく唐松修平であることが証明されてしまった。それを喜ぶか、悲しむべきかは分からないが、


(今は平穏を勝ち取ったことに感謝を……)


 死して拾うものはなし。

 この結果は最良だった。

 少なからず、あの場でオレが取れる選択肢のなかでは間違いなく。

 というか、冷静に考えてみれば相手は五人がかり。いくら同じ学生とはいえ巨大な組織を運営する怪物たちに対して勝ちの目を拾えたのだ。

 やってやったぜ、と自慢して回りたいくらいだ。


(……とは言っても、あの部屋に入るまで「どうする!?」ってテンパってたのは本当なんだけどね)


 生徒会室に有村がおらず、風紀委員に所属している人物によって尋問されていたのなら結果は分からなかった。

 「む、こいつ怪しい」と即断され「はい、退学~」となる未来が見える見える。

 単に『イミテーション・エボルブ』をやりこんでいたゲームの知識が役立った。

 転生してきてからは勉強尽くしでイマイチ活躍しなかった無駄知識。そのお陰ともなれば、あの時間は無駄じゃなかったと……。


(いや……流石に千時間以上のプレイ時間は無駄すぎる気がする)


 ま、それも過ぎてしまった後だからしょうがないのだけども。


(……てか、やっぱり今回の呼び出しはおかしいことが多かったな)


 まぁ、正直に言えばあの場に有村が同席している時点で「あれ?」となった訳だが。

 今回、メールでの出頭命令は生徒会の名義が付されており、一目で生徒会が主導して行っている事件の一端であると分かる。

 が、有村蓮介という人物は風紀委員はおろか生徒会にも籍を置いていない。少なからず、この五月時点では転入早々で他のキャラと親しくなるイベントを消化する前のはずだ。

 だというのに、彼が居たというのは彼のサインを当てにしてという事。

 おそらくは誰かが彼への協力を打診したんだろうとは思うが……。


(有村が転入してきたのは四月、また一月ほどしか経ってない。 とすれば彼と生徒会メンバーとの信頼関係は十分では無かったはずだ)


 それでも有村のサインに頼らざるを得なかった。

 彼のサインの発動条件。

 その一つに彼自身が直接問い掛けをしなければ発動しないというものがある。それがあるからこそ彼が主導して尋問を始めたのだろうが……。

 風紀副委員長の大屋がその場に居たというのに全くのノータッチだなんて有り得ない。

 有村が尋問を行なった、という事実にはそれだけの優先権を彼が与えられたという事に他ならない。


(それに……)


 極めつけ…………というか、明らかにおかしな点が一つ。

 監視カメラに映った映像を切り抜いた写真だ。

 あれはこれ以上にない確かな物証のはずだ。

 追求するための材料でもあるし、普通なら一緒に写っていた人物だけを言及するのではなく「ここで何をしていた」くらいは聞かれて当然……なのだが。


(それに触れる事すら無かった。 てか有村の対処で一杯だったけど、何でオレは大人しく返されてるんだろうな?)


 勝利した部分にだけ焦点を当ててしまったが、それは確かに違和感でしかない。

 それとも、あの写真は証拠たりえない理由があるのだろうか。


(………………ん?)


 ……思い返せば、他にもおかしな事があった。

 写真を見せられた時。オレはつい初めてみる反応をしてしまった。

 それはいい。実際に初見で、それ以外の反応なんて出来なかったのだし。

 おかしかったのは一色の傍に仕えていた井波の反応だ。あの時は一杯いっぱいで分からなかったが、井波はオレの反応を見て――そう俯いた。

 まるで「こいつもか」とウンザリするような。期待外れを落胆するような反応。

 些細ではあるが、見ようによっては感情的な行動をしたと……思ってしまった。


(普通は「誤魔化しきれる訳なにのに」って侮るなら分かるもんだけど)


 あれは怒り。

 落ち着き払って、主人の前で粗相だなんてしない井波が思わず感情的になる状況って一体……。


(……いや、考えないでおこう)


 考えたところで無駄だ。

 というか、彼らの領分であるのだから犯すべからず。誤って首を突っ込めば、先と同じ要らぬ墓穴を掘ることになる。

 ……とまでは思うのだが、あれだけはっきりと物証がありながら有村のサインに頼らないといけない事案って何?

 流石にちょっと怖くなってくるんだけど。


(しかも無関係ではないかも……なんだし)


 考えが巡りかけて……あーいやいや、と頭を振る。


(考えない! トラブルと正面衝突したわけでもあるまいにネガティブなんてやめやめ!)


 ロケット弾なみの速度で一撃くらった後だけども。

 続いて悪いことが重なるなんてそうは無い。何とか無事に生き延びたのだ、今日くらいは楽観的にいかねば今後もやっていけない。


(よし、今日はすぐ風呂に入って寝よう。 勉強もお休み、全力で寝ようじゃないか)


 善は急げ。

 決めたからにはすぐに行動だ、と。

 座り込んだベンチから立ち上がり、早足になって部屋へと戻る。

 るんるん、とステップでも踏みそうになる気持ちで歩みを進めて帰路へと付くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ