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イミテーション・エボルブ  作者: 志水アンジュ
13/15

地下での会敵

「あー……やっぱり出来ないよな」


 迷い込んだ地下二階。

 オレは姿を隠し生徒手帳で外へ連絡が出来ないかを試していた。

 戻ってきたスマホはポケットの中に居るものの役立たずなのは分かっているので放置、では生徒手帳の通信アプリで助けを呼べないかと思って触ってみるのだが……これも無駄だったらしい。

 通信の有無を表示するアンテナが圏外を示している。

 やはり、というか予想通りではある。

 宮東海学園へ侵入を試みるような奴らは年中いる。しかし、実際に入り込めるような連中となると皆無だ。

 その上で、それを突破して来てるような組織ともなると手抜かりはあり得ないようだ。


「期待薄なのは分かってたけど……」


 身を隠している通路の端から顔を出して奥に鎮座しているソレらを見つめる。

 遠目でも分かる重武装をした敵。それが二人。

 その背には意味深に画面を光らせているパソコンが置かれている。よく見ればパソコンは絶え間なく細かい文字が流れており、自動で何かの作業が行われているのは明白だった。

 

「…………。」


 もしやアレは重要な何かではなかろうか、と考えが浮かぶ。


「いやいや……」


 首を振る。

 そんな訳がないじゃないですか。

 オレがここに居るのは侵入者から逃れるためであって、重要な因子(ファクター)を追ってきたんじゃないんだから。

 偶然も偶然。何かしらの幸運……いや、悪運かも知らんけど。

 そういうものに引き寄せられて来たんであって……。


「…………。」


 いやでもあんなに意味深にパソコン置いとくってある?

 ここは通信、通電の要所ではあるんだから何かあるって思うのは自然なんじゃなかろうか。

 もしかしたらオレが知らないだけで、この区画から悪さをする手法があるのやもしれんし。


「いや…………いやいや」


 そんなこれ見よがしなことあるって本当に思う?

 無いよね?

 今までの人生で何かしらの役割を与えられた事も無かったじゃん。

 それが今更になって巡って来るとかあり得んでしょ。それも命を懸ける必要があるとか無理無理、無いない。

 ね? 見なかった振り振り。

 知らぬ存ぜずでいいじゃありませんか。何より知らせる手段が無いんだからさ。


「…………。」


 想像できる悪さと言えば防火装置の誤作動。

 あれで防火シャッターが下ろされてビルは密室となってしまった。

 内部と外部の断絶。それが解かれたなら事態が好転するのは明らかだ。

 ここに居ても安全だとは限らない。なら、行動に移すべきではなかろうか。


「…………いやいやいや」


 危ないのなら、もっと危ない事をしても平気、だなんて。

 あまりに暴論じゃない?

 命を懸けるのがただ一人だっていうなら問題はない。自身の意思によって行動するというのなら、自分以外に責任を負う者はいないんだから。

 ……でも、オレは違う。

 オレの意思による行動は、オレが負える責任の全てではない。

 優先するべき命は、ある。


「……………………そうだよな」


 しかし、別の責務もある。

 生徒会室へと向かった有村たちは今、まさに侵入者たちを撃退しようとしているはずだ。

 あの二人こそ危険に飛び込んで命懸けで生徒たちの安寧を守ろうとしている。

 だというのに、ここで手を子招いているというのは許される事なのだろうか。

 我が身可愛さで、子どもたちを矢面に立たせるような所業を、自らが成すというのか。


「……………………………。」


 守るべき子どもはここにも居る。

 それは何より最も近くにいる大人としての責任だ。

 いつから誰かを守れるだけの余裕があると過信していたの?

 手の届かない出来事を嘆くのは慣れているじゃないか。同情だけで大局を見失っては元も子もない。

 それに行動するっていうなら有村たちに報せうように努力したらどう?

 対処するって言うけど、相手は武装してるんだよ?


「………………………………………。」


 また上階へ戻ると?

 それこそ正気の沙汰じゃない。

 死に物狂いで辿り着いたんだ。警戒度は上がっているだろうし、今度こそ終わりだぞ。


「…………………んむ」


 手段を考える、ってだけ。

 何もあんな危険地帯に戻ろうとか言う話じゃないさ。ここで隠れながら出来ることだってある。

 ただ第一に命を大切にしようって事。

 それを何より優先すべきでしょ。


「…………………むぅ」


 ここに居るだけでも危険だ。

 有村たちが今どんな状況なのかも、現状がどれだけ続くのかも分からない。

 いつ決壊するかも分からない状況を鵜吞みにして待機しているだけでは軽率もいい所だ。


「………………………ぐぅ……」


 だから敵対するだなんて、どこの武士だって言うんだ。

 かの江戸幕府も大砲を積んだ外国船に対して戦争を吹っ掛けるような無謀はしなかったぞ?

 分別が付いていないにもほどがある。


「…………………………んぐぅう」

 

 どうすんだ?


「…………………………どう、する」


 どうするんだよ。


「………………………あぁ……もう」


 自問自答。

 視界の先、建物であればどこにでもある赤色灯を見つけて、オレは立ち上がった。

 

                    ◇◇◇


 サーモグラフィ付きの暗視ゴーグルに違和感が映りこんだのは作戦開始から一時間が経とうとした頃だった。

 

『おい』


『あぁ、見えた』


 隣の相方の声に短く応じて、手にするネイルガンを持ち上げる。

 シリンダーとピストン機構を強化して連続での射出を可能にし、大容量のマガジンを無理やりに備え付けた重量五キロを超える怪物。構えるのに未だ覚悟の必要なソレを前方へと向けて距離を詰める。

 改造ネイルガンの射程は五メートルが限度。射出の機構を丸ごと交換しているとはいえ、拳銃のような安定は叶わない。

 だからこその二人配置での守りだ。

 一人は遊撃、もう一人は機材の守護。二十メートルの長廊下での攻防を想定した行動を徹底して遂行していく。


『角、警戒』

 

 イヤホン越しの忠告を聞き流し、ゴーグルの視線と射角を平行にして狙いを定めて――視界を何かが横切る。

 反射でトリガーを引く。

 貫く感触。それと同時に白い煙が噴射された。


『!』


『焦るな、戻れ』


 言われたままに後ずさる。

 念のため息を止め、目を覆って移動するが刺激が来ない。催涙スプレーの類ではないようだ。

 噴出する煙の色、勢いから察するに――


『消化剤か?』


『みたいだな。 この階にも消火栓はあったから、そこから持って来たんだろ』


 言いながら相方もネイルガンを構える。

 投げられた物に殺傷力が無いにしても、油断を誘っているだけとも考えられる。敵がこちらを害するだけの能力を有していると想定して、釘の残るマガジンを新しいものに交換する。

 

 カコンッ、カコンっ


 と、連続して缶の跳ね返る音が響いた。


『警戒』


 言うと同時に先に投げ込まれた炸裂タイプの消化缶が転がって来る。

 蹴り返す――よりも早く消火剤をまき散らす。


『視界を奪う気か』


 消火剤が撒かれると暗視モードの視界では何も見えなくなってしまった。

 レンズを拭うが変わりはない。


『サーモにするぞ』


『…………あぁ』


 サーモグラフィ。

 周囲の温度変化を観測して行う索敵。

 訓練で何度も使っていたが、どうも慣れない。物を輪郭ではなく温度差によって見分けなくてはならず、一元的に捉える処理が苦手だった。


『油断するな』


『分かってる』


 背中を向け合って、互いに預ける。

 行動の簡略化。長期間の訓練が行えなかったからこそ、行動を制限し合理化へと近づける。

 格上を相手にして取れる戦法ではない。柔軟な対応を叶える動きでもないし、付け焼刃に過ぎないからだ。

 しかし、


『相手はネイルガンを警戒してる』


 相方が頷く。

 消化缶を投げて視界を奪う、という選択肢は、もし相手が複数いれば枷になる場面が予見される。

 複数人で挑んでくるのであれば攪乱、牽制……こちらの動きを狭める行動をする方が得策になり得る。

 しかし、相手はそうしなかった。

 複数人が待ち構えているという線は薄いという事。

 こっちの優位は視界と飛び道具。それを生かすのであれば背中合わせに迎撃するのが効果的と判断した。


『…………。』


 サーモで見渡す視界は、揺らぐ煙の流動を見るだけで敵影を捉えない。

 澄ます耳にも響くものはない。

 もう少しすれば煙も完全に晴れてしまう。そうなる前に必ず敵は迫ってくるはずだ。

 だからこそ、より一層気を引き締めて、トリガーには指を掛けたままに警戒し――――ゴンッと背後から殴られたような衝撃を受けた。


『……!?』


 まさかと、驚愕する。

 

(後ろにはあいつが……いや既に倒されて!?)

 

 鈍重な武装を抱えたまま無理やりにターンする。背中、足の筋に痛みが走るが、構わずそのままトリガーを引いた。


『ぐっ……!』


『ごっぁ……!』


 命中。

 しかし、左腕と右足、胸部のプレートに突き刺さる。

 ……何が?


『そ……んな』


 倒れる……そこから体が動かない。

 衝撃があった場所には鋭い痛みが走り、眼前には同じく倒れたままの相方の姿があった。

 それだけで状況を理解するのには十分だった。

 俺たちは互いに振り向きざまにネイルガンを打ち合って自滅したのだ。


「ごめんね」


 どうやって、と疑問に思っては遅い。目の前には敵が立っている。

 その手には落としたネイルガンが持たれている。

 

『くそっ』


 そして敵は何の躊躇もなく、振り上げて――――振り下ろす。

 鈍痛、脳の揺れ。

 それが何度か繰り返されて、俺は気を失ったのだった。

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