地下、視線……光明?
皆様、如何お過ごしでしょうか。
私は今絶賛――――
『どこに行った? 探せ! この周辺にいるはずだ!』
『おい、音がしたからって人が居るとは……』
『電子ロックを外した形跡があった。 間違いなく生徒が潜んでる』
『上には行かせるなよ? 出入口は塞いで追い込んでけ』
追っかけっこの最中です。
どうしてこうなったのでしょう?
安全地帯を目指して行動したのが悪手だったのでしょうか。
それとも有村たちに全部を託して寝て過ごそうとしたバチが当たったんでしょうか。
え、両方?
はっはっはっはっちくしょぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!
「なんでこうなるんだよ……!」(小声)
行く先、成す度、トラブル続き。
あり得ない。これはもう憑りつかれてるとしか考えられない。
それも並大抵のもんじゃない。絶対に怨霊、悪霊の類がスクラムを組んで肩に乗っかっている。
早急にお払いに行ってこないと命に関わる事態だ。
……これが本当に洒落になってないのが何よりも笑えないんだけどもね。
『探せ! 配線の隙間、物陰くらいしか隠れる場所は無いんだ、追い詰めろ!』
あ~言わないで、大きな声出さないでー!
……どこぞの人物か知らないがとても的確な指示である。この地下室はまともに隠れる場所がない。
人が歩けるのは両端に手すりの備え付けられた鉄製の渡しのような通路。その上下には大小様々な電気配線が走り、道中には何かの配電盤が設置される。
配線を川として捉えるのなら、上の通路は橋。
機器の整備を的確に行えるように徹底された空間に人が隠れるだけの余分はない。
当然に、さっきのように部屋を転々として逃げ切ることも不可能だ。
「まずったなぁ……」
敵が居ないだろう場所、という事で入り込んだ地下であったが逆に彼らの根城になっていた。
姿こそ確認できないが明らかに足音の数が多い。踏みしめる通路が鉄製であるのも手伝って、あちこちから移動する音が聞こえてきている。
その事実だけでも十分に脅威であるのだが、それだけではない。
一階からの入り口。そのドアノブをガチャンッと落っことしてしまい、オレの存在が知られてしまったのだ。
彼らは侵入者。ドアノブくらい壊すのに躊躇は無い。
それを察せなかったオレは見事、セルフで罠に掛かって追い詰められてしまった訳だ。
狭い通路に、多数の敵。
いくら状況を控えめに捉えても詰んでいるとしか言いようがない。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、だなんて諺がある。しかし、これはもう虎口に自ら入るようなもん。
安全装置も無しに飛ぶバンジー。
自殺と何が違うのかというレベルである。
「まずい、まずい……」
身を低くして、音の出ないように移動していく。
道のりはほぼ一本道、見つからないなんて事はそもそも無理な話だ。
しかし、じっとしていられるわけも無く動くしか選択肢がない。
ゆっくり、ゆっくりと移動していく。
「ホント……何でこんな事になったんだよ」
そもそもな話。
なぜ、黒ずくめの彼らは地下から侵入したのか。そこからして謎だ。
生徒会総連本部、その地下空間は通電、通信機器の配線や設備が置かれている。地下そのものは設備点検を行うためにあり、要は外へと繋がるような代物でないのだ。
ここから他の施設へ配線が繋がっている。そして、それを通すための空間が確かに存在している。
しかし、それは当然に人が通れるような隙間がある訳ではない。
環境美化、通信設備の骨太化。そうした理由で地下に通した配線を管理しているのがPIXである。
各施設の発信地には直接、人の手による整備がなされ、通る配線は小型のAIロボが人の通れないような配線の隙間を縫って歩き回り、常に破損のチャックなどに目を光らせる。
根本的に、地下からの侵略と言うのはコストとリスクが釣り合っていない。
「でも、それが破られてる……人が出入り可能な範囲を掘り出すっていうんだから、かなりの時間を要しただろうけど」
何より、オレの知らない手段を用いて一瞬で道を作ったとして、それが察知されないのもあり得ない。
爆破、溶解、脆弱化……現実に無い夢技術を用いたとしても崩れる振動だけは消せないからだ。
そして不審な振動があればすぐにPIXによって解析が成され、地下に異常があると生徒会へ報せがある。
…………ある、はずなんだけど。
「あいつらが動き出してたのって火事の警報が鳴ってからだったんだよな」
行動が迅速だったのは有村たちらしいと思う。
でも、それが後手だったっていうのは変だ。
彼らの立ち位置であれば侵入を予見した上で迎え撃つくらいは出来るはずなのだ。
「……変なことばっかりだな」
あり過ぎて嫌になってくる。
もうこれ以上考えたくもないのだけど……。
『おい、こっちから音がしなかったか?』
「!?」
進行方向から最悪な声。
音なんて聞こえてなかっただろ! と衝動的に叫びたくなるのを押さえてすぐ反転、来た道を戻る。
何人いるのか分からんが、やはり人海戦術に勝るものなし。
地の利も生かせない現状では収穫を待つ野菜物と変わらない。
逃げるという選択が、命の引き延ばしにしかなっていない。
(だからって簡単に諦められる訳ないだろ……!)
何か、選べる幅の内に何か無いかと必死に頭を回す。
打開するためのヒント。
隠された秘密の通路。
敵を一撃で倒す必殺技。
何でもいい、何でもいいから考えろ。
ゲーム…………ゲームで何か無かったか……?
「…………はぁ……はぁ…………くそっ」
……あるはずがない。
この場所で追いかけっこなんてした事も無かったし、イベントだってヒロインと迷い込む好感度上げのストーリー程度。何かしらの特別な出来事もない。
それだけ空気の薄い空間であったはずなのだ。
言ってしまえば『プレイエリアの外』の半歩手前。細やかな設定がある訳でもないのに調べるも無い。
第一、こうしてマッピングをしながら会敵しないように歩き回るとかしてるのを褒めて欲しい。無理に無理を重ねてるのを無理くりに行っている…………つまりは無理だ!
『こっちだ!』
「うそだろ……!?」
引き返して来た先からも声が聞こえる。
後ろも前も挟まれた。
「どうする……」
逃げなんて無い。
「どうする……!?」
手すりを飛び越えて配線に紛れて息を潜める?
片方の敵が一人だと賭けて走り抜ける?
それとも土下座でもして命乞いするか?
(ダメだ絶対に許されない。 見つかり次第、命を取られる)
鉄を蹴る音が迫る。
(どうする……どうするどうするどうする!?)
耳鳴りが始まり、体の芯から冷たくなっていく感覚。
内臓が浮ついて落っことしてきたような、現実味の無い焦燥がせり上がって来る。
立っているのかさえも曖昧になって、
「―――ッ!?」
呆然と立ち尽くすだけだった所に、鋭い痛みが走る。
(なんだ?)
後ろの首筋だ。
そこに刺されるような感覚がある。
手を伸ばしても何もない。
なのに痛みが止まない。
(なに…………いや……だ、れ?)
振り返るとそこには一台の監視用カメラが見えた。
痛み――いや、視線の元はそこだった。
カメラ越しにいる誰か。その人物がオレを真っすぐに見つめているのが……分かる。
(死ぬ直前で感覚がおかしくなったか……?)
思わず笑いそうになる。
しかし、それに反するようにより強くレンズ越しに視線を感じる。
含まれた意図を、勝手に頭が言語化していた。
「…………はぁ……はぁ……はぁ……」
冷静に、冷静に……、と勤めようにも息が上がる。
強烈に、メッセージが脳内を焼いていく。
選択肢の無い現状に追い詰められていき、
「…………………………………はぁ」
オレは――――
◇◇◇
『あ? 誰もいない?』
『確かに音は聞こえてた……探せ! この周りに隠れてるはずだ!』
『通路の下、天井、配線の隙間! 全部だ、全部を探せ!』
◇◇◇
――足音が遠のいて行く。
それを聞きながら心音がゆっくりと戻って来るのを自覚する。
「たす、かった……」
首筋を刺されるような感覚。
脅迫じみた痛みから逃れるように行動したら、なぜだか逃げ延びてしまった。
……いや、逃げれて万々歳なんだけども。イマイチ釈然としない。
「なんだったんだ、今の」
今までに感じたことのない種類の痛みと焦燥。
突き刺さる感覚から『下へ逃れろ』という具体的な意図を読み取ってしまった……。
いや、何を言ってるのか。オレ自身も訳が分からない。
けども起きた事を表したならば、そうとしか言いようがないのだから仕方がない。
言うなれば後ろに目が生えたような……。
機械的に言ったなら新しいデバイスを挿入されたような。
機械の感覚とか知らんけども、そんな風に思ってしまう。
「あれか。 死の間際に掴むとかいう……」
アニメの見過ぎ、漫画の読みすぎ案件である。
しかし、それ以上にピンとこないのも事実。
一体何だったのか、と痛みを感じた首の後ろを撫でてみるも何も無い。神経に針でも差し込まれたかという痛みであったのに、もう欠片も感じない。
あの痛みの感覚は……強制力というか。
操作されているようだった、と言っても過言ではなかったようにも思う。
まぁ、それで命を拾ったというんだから文句も無いのだが。
「……取りあえずは生きてるんだから、いいか」
無意味な言語化は置いておいて、直上の鉄扉を撫でる。
ここは通路の横、手すりを乗り越えた所の配線に隠されるようにしてあった直下扉の中だ。
内部は狭く、一人で入る分には良いが二人では並んで歩けないといった所。奥へは階段が続き、最低限で明かりが見える。
これも恐らくは点検の際に使っている通路の一つなのだろう。
ゲーム中では全くノータッチだった場所だ。
下へと続くにしても『ここって地下一階で終わりじゃなかったっけ?』と、ゲーム知識にしか頼れないオレは思うばかりだ。
いやホントに、どこに続いているんだか。
「考えるのは後、あと」
こうして九死に一生だった訳なのだから油断せずに安全の確保が最優先だ。
たとえ、行き先不明であっても留まってるよりずっとマシなはず。
「よし……今度こそ一息つける場所を探そう」
そうして重たい足を上げて、
◇◇◇
――――オレは愕然と立ち止まっていた。
「……そんな場所あるはずもねぇですよね」
何という二コマ落ち。
言って、進んで、重たいドアを開けて――――その先には上階と似たような配線が覆いつくすような通路があった。
「動き回る足音が聞こえないっ……!」と喜ぶのも束の間で、チラリとヤバい物を発見してしまった。
黒色の身なり、防具を付けているらしい厚い胸板、顔を覆うデカいゴーグル。何より両手で抱えられている巨大な機械。
よく見ればトリガー機構を有しているらしい何かを持つ人影。
すなわち、重武装した敵が二人。
何かを守るように通路に鎮座しているのだった。




