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イミテーション・エボルブ  作者: 志水アンジュ
10/16

閉じた箱庭で

 『火事です、火事です。 慌てず、姿勢を低くして避難してください。 火事です、火事です――』


「……どうしたもんかな」


 生徒会総連、本部ビル。

 その中は防火シャッターによって内外を切り離され、火事を知らせる警報が鳴り続けていた。

 延焼を防ぐためなのか通電設備は全て電源から切られてしまっており、室内を照らしているのは非常灯の僅かな光のみ。

 暗い館内を延々と同じ音声が繰り返されている様は、控えめに言ってもホラーだ。

 他の風紀委員の生徒たちは出払っているのか、警報音以外に人の声すら聞こえないのも怖さに拍車を掛けている。

 この場に一人きりであったならば動けなくなっていたかもしれない。そんな情けない自信がある。

 そして、オレと一緒にいる二人はというと――


「……これ偶然だと思うか」


「タイミングが良すぎる。 あり得ないわ」


「だよな」


 などと、訳の分からない事を話している。

 この事態を対応する話し合いだろうかと思って聞き流しているが、何やらそぐわない単語も聞こえて来るものだから無視も出来ない。

 身を乗り出して盗み聞きする訳にもいかないし。でも気になるしなぁ。

 と、


「……!」


 柚木と目が合う。

 それを有村に目配せし……聞かれちゃまずいのか更に小声になってしまう。

 あれかな、風紀委員内のマニュアルでも確認してるとか。

 それであれば部外者に知られていない内容もあるだろう。

 少なからず事態を収拾すべく動いてくれるのなら何も文句はない。こういう事故はどこにだってあるものなのだから。


「白木」


 と、悠長に考え事をしていれば声が掛かる。


「もう話し合いはいいのか?」


「…………何も聞いてないだろうな」


「聞こえてないよ。 そっちには守秘義務だとかあるんだろ? 自分から首を突っ込むようなマネはしない」


「ならいいが」


 一息、一拍を置いて有村が視線を鋭くさせる。


「俺たちはこの状況を解決するために動く。 ついては、生徒会室に向かおうと思ってる」


「生徒会室に? あー……何か復旧させる方法があるって事、だよな」


「……そういう事だ。 それで、お前はどうする?」


「?」


 どうする、とはどういう意味なのか。

 

「指示してくれりゃ、その通りに動くけど。 こんな非常時に自分勝手に動き回ったりしないさ」


 オレはただの一般生徒でしかない。

 対して有村は会長の直属らしいし、柚木は風紀委員だ。こうした不測の事態に対処するだけの能力と責務がある。

 そして、その責務に応えるのなら大人しく誘導に従うのが普通だろう。

 ……だからこそ「どうする?」と聞かれても仕方がない。てか、そこら辺は彼らがずっと熟知してるはずなんだけども。


「……あぁ、まぁそうだな」


 何故だか歯切れが悪い。


「え、なに。 はっきりと言わないなんて気持ち悪い」


「あぁん?」


 ギラン、と怒気の籠った目が向けられる。

 ただ、何を遠慮してるのか分からんが圧が全くと言っていい程に感じられない。

 一番最初に出会った頃と比べたなら、優し気だとでも言っていい中途半端さだ。有村も自覚があってか、すぐに視線を反らしてしまう。


「…………何?」


「…………。」


 言い淀んでいる……のか? 有村(こいつ)が?

 何を?


「えー……っと? 何か、まずい事があるのか?」


「…………。」


 眉間の皺がさらに寄る。

 思案しているようだが、迷う要素があるというんだろうか?

 こうした事態に即したマニュアルは常から用意されているもんだろうし。対処の方法を忘れるとかいった手抜かりするはずがない。

 最悪、有村が知らずとも柚木が知っているはずなのだ。

 ……だから、そんな風に困ってしまうと邪推してしまうというか。


「……ん? 何か別の要素があるって、こと?」


「…………。」


 何も言わないが有村がじっとオレを見つめて来る。

 ……え、何。あたり?

 もしや本当に厄介ごとなのか、と逆に有村を見つけ返す。

 それをどうのように受け取ったのか、彼はため息を一つ零して、


「これは事故じゃない可能性がある」


「有村」


「故意的に状況を作られたと俺たちは睨んでいる」


「有村っ」


「だから、この場に留まっている事がお前の安全に繋がるとは限らない。 逆に命を危ぶまれることも否定できない」


「………………。」


 唖然。

 衝撃的な事を話す有村に、それを止めようとする柚木。

 何より有村の話した内容に驚きが止まらない。

 防火シャッターで閉じ込められた、この状況が意図されたものである、と?


「…………いやいや、そんな訳…………ない、じゃん」


 「だって、ここは……」と言いかかて強い意志を宿した目に二の次が告げなくなる。


「あくまで可能性があるってだけだ。 確証はない…………だが俺には確信がある」


「確信……」


 有村が首を振る。

 

「お前に詳しく説明するだけの権利を俺は持ってない。 その理由も、事情も話せない。 お前に危険を伝えたのは非常時における限定的な対応だと、分かってくれ」


「……あ、あぁ」


「言ったように俺たちはこれから生徒会室に向かう。 その間のお前の行動を俺たちは関知しない。 何があったとしても責任の一切を負えない」


「それだけ、危険があるかもしれない……と?」


「杞憂で終わるかもしてない。 何事もないかもしれない。 ……でも最悪は想定すべきだと俺は思う」


「最悪、か」


 呟くオレに有村は「あぁ」と肯首する。


「悪いがもう行く。 気をつけろよ」


 そして言うなり廊下へと繋がるドアへと向かっていった。

 「はぁ……」と今度は柚木が額を押さえてため息を吐いていた。


「……今、私たちには余裕がないわ。 だから、あなたの同行を許可する訳にはいかないの……それは分かって頂戴」


「それは、大丈夫です……けど」


「その上で言わせてもらうけど……この部屋に残ることはあまりお勧めしなわ。 出口は常に確保しておいた方がいい、何があっても良いように」


「…………。」


 柚木が手錠を外してくれる。

 完全に忘れていた左手の自由を取り戻すが、正直に喜ぶことが出来ない。

 それを察してか「白木くん、生徒手帳を出して」と声が掛かる。言われたままに差し出すと、柚木も自分の手帳を操作して見知らぬ画面が出ていた。


「……これは?」


「今日限りのものだけど、この施設の物品を自由に使えるようにしたわ。 私にはこれくらいしか出来ないから……もし何かあったのなら、恨んでくれて構わない」


 「だから」と一度言葉を切り、


「最善を尽くしなさい。 何事も必死でやれば、結果は自ずと付いてくるものよ」


                    ◇◇◇


「行っちゃったなぁ……」


 一人になったベッドの上で独り言ちる。

 何だか勝手な事を言われるだけだったようにも思える。

 なにせ要約したなら『今かなり危ない予感がするけど自分の命を守るのは自己責任ね☆』と言うのだ。

 いや守ってくれないのかよ。それ以前に他の風紀委員と合流するなりしてくれればいいだけなのでは……。

 もしやオレ、あわよくば事故ってくれないかな的な事情で放置されていないか?

 考えてみれば、それっぽいなぁと腑に落ちそうにもなるし。


「てか、第一に何があるっていうんだよ」


 確かに出入りを完全に遮断されてしまっているのは目に見えて明らかだ。

 しかし、だからといって危険とは? 

 本当に火事が起きていると?

 ……だとすれば、彼らはもっとそれらしい行動を取るはずだし、何より。


 『火事、火事ですすす、すすかかかかか火事火事ででででで』


「……放送が完全におかしくなってる」


 もし本当に火事が起きているとすれば出火した場所、避難経路の指示、スプリンクラーが作動している。だというのに、聞こえてくるはずの、あるべき消火活動の報せが全くない。

 というか大前提から間違ってる。

 非難が完了してもいないのに防火シャッターが閉まる訳がない。

 あれは延焼を防ぐための処置であって、直ちに施設全体を隔離するように用いられる代物ではないのだから。

 それがあったからこそオレは何かの間違いでシャッターが閉まったものと考え―――て。


「…………?」


 ……この学園全体はPIXという人工知能で管理がされてる。特に、この生徒会総連本部はシステムの大部分を任せる形にしていると――ゲームで見た。

 であれば、これはAIの誤作動によるもの、という事になる。

 それはいい。良くはないが、重要なのはそこじゃない。

 気にすべきは……そう三原則。人間に危害を加えない、服従するとかいうヤツだ。

 その定義を詳しくは知らないが、確かその原則に則ってAIは動作する。何においても優先される法のようなものであるはずだ。

 だから……だから、こうして防火シャッターを降ろすとかいった動作を行うためには厳重にロックを掛けていると――そう聞いたんだ。


「……偶然だとして」


 人を閉じ込めるように、誤作動を起こすものだろうか。

 あまつさえ世界的に導入が進んでいる最新のAIが。

 人に危害が加わるかもしれないような動作をするものだろうか。

 

「…………確証はないけど確信がある、ね」


 有村が言った言葉が思い出される。

 何をもって疑問を提起したかは理解した。では、確信はどこから……?


「あぁー……何となく、分かった気がする」


 『かかかかかかかかkkkkkkkkkkkkkkk』


 放送の音が完全に不許和音に入れ替わる。

 非常階段を示す案内灯の光が弱々しく周囲を照らして、不気味な色に染めていく。

 ――その様を見て、純粋に怖いと思った。

 

「こんなん見せられたら足が竦むよな」


 怖い、不気味、不快。

 そういう感情を想起させる光景に……人間の意図があると感じ取れた。

 ただの偶然だと言い張ることも出来るだろう。

 証拠も何も存在していない。

 でもオレは確信する。

 ここには明確な悪意がある、と。

 慣れ親しんだ。

 日常に潜んだ。学校で、バイト先で、会社で向けられた――おぞましい感情がある、と。


                    ◇◇◇


 指先さえも見えない暗闇の中から風を纏った塊が飛び出してくる。

 非常灯の僅かな光を飲み込んで、闇に紛れながら迫って来るソレを首の角度を変えて避ける。

 髪先を揺らし、頬に当たる風の加減で距離感を調節し――そこにあるだろう顔面に向けて拳を振りぬく。

 

「ぐがっ……」

 

 鼻から抜けるような苦悶の音。拳に伝わる固い感触。

 狙い通りに相手を打ち据えられたと確認し――背中に迫る二人目の攻撃を、体を捻って回避する。

 手すりに背中を預けるような体勢になれば、床を叩く硬質の音を耳が捉える。

 

(鉄パイプ、だいたい五十五センチ)


 これ以上は下がれない。そのタイミングを逃がさずに敵が迫ってくる。

 右から一人、同じ獲物を振り上げて迫り、目の前で振り下ろしたままのもう一人が体勢をそのまま左に体を捻って横ぶりに攻撃を繰り出す。

 左右。双方から攻められる形成になり――背にした手すりを乗り越えた。

 ()()()()()()()()()()、中空へと踊りだす。

 避けた直後に手すりを叩く衝撃が来る。


(下から来た奴。 振り下ろして頭が下がってる)


 重力に引っ張られ始める前に手すりを掴み、滑って下段に体を流して移動。手すりを超えようと上げた足で、丁度の位置まで下がっている頭を蹴りぬく。

 いい感触。倒れたままに落ちていった。

 

「……ぅあああああぁぁぁぁ!!」


 獲物を振り上げて上段の奴が迫って来る。

 しかし、声からも動揺が隠せていない。逆に階段を蹴って距離を詰める。

 顔の見えない相手でも慌てる所作はよく見えた。

 抵抗を許さない。無理やりに俺の方へと振り下ろそうとするのを読んで背後へと回り込む。

 そのまま階段の上段へ。上から蹴ってやれば、相手は重力に従って転がり落ちていった。


「ふぅ……」


 ここは生徒会総連本部の非常階段。上階へと向かう最中だ。

 高さが二十階にまで及ぶ総連本部は東西に非常階段を置き、東側が奇数階、西側が偶数階に通じている。

 こちらはその西側だ。

 向かう先は最上階の生徒会室。それはこの場にいる人間すべてに共通する目的であり、攻める側も守る側も対処する手段を一元化させていた。

 それ故に、先乗りを許してしまった俺たちは待ち伏せを受け、簡単に階層移動、侵入を許さないための面倒な構造が足かせになってきている。

 

(これで七人目)


 防火シャッターが光を遮ったお陰で、足元の弱灯を除いてまともな光源がない吹き抜けの階段。

 そこに二十人以上の刺客が待ち構える。

 落ちるのを怖がれば詰められる。捕まればリンチ確定。

 正直、逃げられるなら逃げたいシチュエーションだ。


「不埒な事を考えている顔ね」


「そんな事考えちゃいねぇよ副委員長サマ。 てか見えんのか、こんだけ暗くて」


「白々しい。 もうとっくに夜目にも慣れているでしょうに」


「んな簡単に慣れてたまるかって……のっ!」


 言いながらに迫ってきた一人にカウンターを決める。

 襲い掛かってきた集団の様相は統一されており、顔には覆面、服装も黒、手にも黒の軍手と黒ずくめ。

 そのため闇には紛れやすく、会敵した時は危うく一撃もらいかけた。

 避けれたのは日ごろの鍛錬と勘。そして相手の練度だ。


(こいつら明らかに閉所での戦いに慣れてない。 囲って逃がさないよう徹底してんのに……チグハグだ)


 集団戦の心得があるらしいのは動きから分かる。

 それも喧嘩で突き詰められた勘の良さによるものではなく、訓練による反復で覚えた動き。

 素人に毛が生えた……なんて言い回しが浮かぶ程度に相手をするのが容易だ。はっきり言って、今年から風紀委員に所属し始めたような奴らの方が怖いくらいだ。

 その証拠に――


「ぐっ……!?」


「あぁぁぁぁぁ!! ……っが!」


 階段の上から黒ずくめ達が転がって来る。

 気を失っていたり、行動不能に陥っていたり。絶妙な加減でもって痛めつけられている。

 見れば警棒を手にした柚木が見下ろしてきており、


「こちらはもう済みましたよ。 加勢しますか?」


 彼女の足元には五人。

 俺よりも早く先行して柚木が薙ぎ払った数だ。

 柚木愛花は別段体格に恵まれている訳じゃない。身長も百五十前後、体重だって平均ぐらいだろう。

 それでも易々と敵を圧倒するのは彼女が剣術を何より得意としているからだ。

 曰く、一人で十人以上の上級生を病院送りにした、とか。

 曰く、武器ありであれば近江をしても歯が立たないと言わしめている、とか。

 大半は尾ひれの付いた噂話もあるだろう。しかし、風紀委員会には『柚木愛花に長物を持たせてはならない』という警句が存在しているのは確かだ。

 それは彼女が風紀委員になって間もない頃から囁かれており、果たして何をやらかしたかは知らないが……この成果は正しく警句に恥じない有様だった。


「……ホント、可愛げがねぇな」


「あら、可愛い子がお好み?」


「あぁそうだな。 五人がかりを一瞬でのしちまうような凶暴なのはお断りだな」


 ビシッ、と空気の割れる音。

 俺の周りを囲っていた奴が思わず振り返るほどに凶暴な殺意が向けられる。

 一瞬の弛緩、それを逃さず背後にいる一人を蹴落とし、


「あっ……」


 柚木に気を取られた最後の一人を殴り倒す。

 上手いこと顎にクリーンヒットしたらしく一撃で気絶してくれた。


「ナイスアシスト」


「死になさい」


                    ◇◇◇


「どうだ……?」


「見ての通りよ」


 非常階段を出てすぐの曲がり角、生徒会室へと続く一本道を前にして俺たちは立ち止まっていた。

 

「いるのは六人。 遠目だからはっきりしないが同じような黒服、妙に輪郭がデカいから胸とかプレートでも仕込んでるかもな」


「それだけなら対処のしようもあったけど……手に持ってるアレ、見える?」


「…………残念ながらばっり見えてるよ」


 立ち止まっている理由。

 それは黒ずくめ達の持っているもの――先に階段で襲ってきたようにナイフでも徒手でもない。

 ごついエナメル質の本体、外付けで無理やり取り付けられたらしいマガジン機構。トリガー部に左手を添えている様は、片手では持ちきれない事を表している。

 拳銃ではない。ネイルガンと呼ばれる工具の類だ。

 ただ、恐らくは改造を施され殺傷性を高められた代物であるだろうが。


「厄介だな」


 あそこにいる連中が階段で迎え撃った連中と戦闘経験は大差ないだろう。その程度の相手に後れを取るつもりは無い。

 しかし飛び道具を持っているというのであれば話が違う。

 非常階段から生徒会室までは二十メートルの長廊下だ。嫌がおうにも縦での移動を余儀なくされ、飛来物を避けるだけの空間に乏しい。

 最悪、牽制で撃たれ続けるだけで身動きを止められてしまう。


「どうするか」


「盾を持ってくる?」


「鎮圧用のあれか? 無いよりましだが、事故れば終わりだぞ」


 しかもあれは対人戦用で打撃には強くとも刺突の衝撃に弱い。

 ネイルガンの威力にもよるだろうが抜ける可能性は否定できない。

 

「出来れば催涙弾か閃光弾が欲しい。 動きを制限してから接近戦だな」


「それがいいわね。 ただ……それを待ってくれるなら、だけど」


 柚木が廊下側へ少し顔を出す。

 視線の先は武装した侵入者ではなく、さらに奥で何やら作業をしている奴へと向けられていた。

 暗く、判然としないが独特な臭いで分かってしまう。


「発電機か……デカい音が出ようがお構いなしって感じだな」


「生徒会室を目の前にしているんだもの。 今更怖気づいたりしないでしょ」


 それもそうか、と頷く。

 こいつらの狙いは間違いなく一色会長の確保だ。

 学園への侵入だけに留まらず、風紀委員会の根城である生徒会総連にも入り込むとなれば、それ以外の目的はあり得ない。

 金銭、私怨、革命、刺客……考えれば可能性は多種多様だ。

 嫌になるが、それだけ一色凛花という人物は無限の価値を秘めている。利用したいとは誰もが思う所だろう。


「だからって、ここまで直接介入されたのは驚きだな」


「……前代未聞よ、こんなのは。 一体どうやって侵入したのか、捕まえて吐かせないと」


 仕事熱心なことだ。ま、一色が危うい以上、こいつがやる気に満ち満ちているのは当然だと言えるが。

 

「有村」


「分かってるよ。 俺はここで可能な限り作業を妨害してみる」


「私は装備室へ行くわ。 手足を打たれようが持ちこたえなさい」


「へいへい……人使いの荒い事で」


「軽口を言ってる暇があるなら行動し――」


 そう言って、柚木が非常階段へと繋がるドアを開ける。

 しかし、そこからは隠そうもしない複数の足音が反響してきており、


「……五……十……十五、いやそれ以上か」


「挟み撃ち? 予想されたってこと?」


「そうらしいな」


 言うなり、廊下側からも新しい音が聞こえる。

 激しい回転音。そして、金属を削る豪快な摩擦の音。

 エンジンが点火され、恐らくは電動ノコギリでドアを切ろうとしている。そう見て間違いない。


「追い詰められてきたな、嫌になる」


「全くね」


 冷たく柚木が吐き捨てると、黒ずくめの集団がすぐそこまで迫ってきていた。

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