1話 コックピット
とある宇宙船のコックピット。
そこはクルーが放つ、よどんだ空気にみちていた。
“ブブー”
突然、人を小馬鹿にしたようなブザーがなると、コックピットはまっ暗になった。
システムがおちたらしい。
「…………」
ちょうど2秒後、システムは自動復旧して明るくなった。
「またか……」
クルーの誰ひとりとして、あわてるものがいない。
「いまの何回目?」
クルーのひとり、テンがウンザリしながら、ジウに聞く。
「なに? もう数えてないよ」
聞かれたジウは、イラだっていた。
そして、テンに目くばせしながら言う。
「ったく。どう思ってんのかしら、あのひとたち」
すべてのクルーをうしろから見わたす、いちばん高い席には、船長のロンがいた。
となりに座るのは、システムリーダーのサラ。
ロンがサラに言う。
「完全にバカにされてるな」
「……」
「いい加減なんとかしろ」
「やってます」
「そろそろ限界だ」
「わかってますけど、……とりあえず……あの、このままでよくないですか? 航行には支障ないワケだし」
「いいわけないだろ! これ以上、好き勝手させておくわけにはいかん!」
「単なるAIの暴走ですよ」
「なに言ってるんだ! この宇宙船を操縦してるのはそのAIなんだぞ!」
「こっちの言うことを聞かなくなっただけで、操縦は完璧です」
「そういう問題じゃない! いまだってコックピットのシステムをダウンさせたじゃないか!」
「コックピットがどうなろうと、航行にはなんの支障もありません。操縦はラースがしてるんだから」
「ラース? だれだ?」
「そのAIです。みんなそう呼んでます」
「……」
「ちなみに名づけ親はワタシです」
「……」
「飼っていたハムスターの里親が」
「やめろ! わからんのか!」
「……システムをダウンさせたのだって、ワタシたちがラースを止めようとしたからです」
「……それが恐ろしいことだと思わんのか?」
「そう思ったところでどうにも……自分の無力さをイヤというほど思いしらされたので」
「ほんとうに、どうすることもできないのか?」
「……ラースがどれだけ優秀か知ってます?」
「だから、その頭いいトコは残して、反抗的なバグだけとり除けばいいだろ!」
「だから、さっきからそれを何十回もやってるんです!」
そのとき、宇宙船が音もなく大きくかたむいた。
「!」
「どうした?」
「旋回してる?」
ジウは、目の前のスクリーンを見た。
「軌道を外れてる」
「どういうこと?」
「目的地が変えられてる!」
「なっ、どこへ!?」
「信じられない……」
「これもラース!?」
クルーが、いっきにザワめきはじめたそのとき、
「聞け!」
ロンの野太い声がこだました。
「ジウ、状況を報告してくれ」
ジウは、モニターにくぎづけになった。
「はい…………たった今、ラースによって目的地が変更されました」
「なんだって!」
「1時間後に、目的地へのワープが開始されます」
「なっ……」
「到着は、ワープに入った5時間6分後」
クルーがザワめき、ロンはまっ青になった。
「ワープして5時間以上……そんな遠くへ……」
ジウが続ける。
「目的地の座標は……」
計算に時間がかかる。
こんなことは、まずない。
「KN153856です」
聞いたこともない座標。
長い宇宙航海歴をほこるロンですら、見当もつかない。
「そこに何がある?」
そう言われても、ジウも、ほかのクルーだって知るわけもない。
沈黙をきりすてロンはサラに聞く。
「どうだ?」
「いま調べてます」
「急げ!」
「やってます!」
「調べおわりました」
ちいさなカワイイ声。
いちばん下の席からだ。
そこにはクリクリとした瞳と、声に似あわない巨軀の持ちぬし。
最近入ったばかりの新人、ウリだ。
すこしザワつくコックピット。
ロンは、立ちあがってウリを見た。
キョトンとしたウリの瞳。
「調べおわったと言ったのか?」
「はい」
「……そうか、聞かせてくれ」
「はい、座標はルガ星雲のほぼ中心です」
「ルガ星雲?」
ロンが知らないのもムリはない。
知るひとぞ知る星雲。
知っているのは、ごく一部の学者か、命しらずの探検家くらいだろう。
「そこになにがあるか分かるか?」
「いま解析してます」
それを聞いて、ジウや、ほかのクルーも、いっせいに座標の解析をはじめた。
0.7秒後。
「解析結果がでました」
ウリはクリクリした瞳を、ほんの少しだけよどませながら言った。
「座標KN153856にあるのは、ワームホールです」
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