ともしび
パタパタとうるさい足音が近づきてきた
同室者のおせっかいなあいつがやってきたのが わかると 私はリラに話しかけるのをやめた
「中庭に出れるって!!」
嬉しそうな顔でいきなり この発言だ
40代の いかめしい顔立ちのおばさんは 痩せているが筋肉質 薬のせいでふらついているが
いざというときは すごい力で抵抗するのだ
よく 職員に押さえつけられてるのを見る
精神症状が落ち着いてる少人数のグループで 決まった時間に 病棟から出ることができる
そのことを伝えに来たらしい
私は 外に出るのは気が進まないが リラが日に日に弱っていくのを感じる
生気がないというか・・・・・中庭には たくさんの花が植えられていてそこにいくと
リラが喜んでるように見えるのだ
そのために 私は 行きたくもない中庭へ 何人かで出かけることにした
「リラ 中庭に行けるって」
そっと声かけすると ゆっくりとこちらを向き 頷いた
やはり 行きたかったのだなと 思う
出会ったころは 童話から抜け出したかのような可憐で華やかな風貌だった
美しい顔立ちは変わらないが 今は病人のように反応も薄く 生気が感じられない
補給するエネルギーに質の悪さからなんだろうか?
出かける準備をしていると 廊下から 職員が 出かけるメンバーを誘いに呼んでるのが聞こえた
一緒に準備してきたおせっかいなおばさんは それを聞いて 手を止めた
「わたし・・・・・呼ばれなかった・・・・」
出かける気満々だったが 本日は おばさんはメンバーじゃなかったみたいだ
急に不機嫌になって 布団を頭からかぶって ふてくされてしまった
「あ!いたいた 中庭にいくよ~ 川野さんは 今から昼寝? ちゃんと起きててよ!」
私と おばさんを見比べて そう言うと 川野さんはムスっとして
「そんな お人形さんとベタベタしてる人が行けるんだね!」
と 私を睨んでそう言った
リラの姿は ここの病院では チラホラ見える人がいる
このおばさんも 見えていたんだと ちょっと驚いた
職員は おばさんを軽くあしらい 私を手招きした
「次は 川野さんもいけるようにするからね」
この一言で ご機嫌を取り戻した 現金な川野さんは しっかりメモをとっていた
「いってらしゃ~い~ 姫~」
ヘラヘラと笑いながら 手を振っている
これは 私のことではなく リラのことだ
美しいリラの姿に心惹かれて 虜になっている者が 何人もいるのだ
彼女は崇拝者に「姫」と呼ばれている
おばさんは そう呼ばれてるのを知ってて からかい半分で声をかけるが
もちろんリラも私も 相手にしない
実は その崇拝者たちが 彼女をとどまらせるために 協力して この病院に縛り付けている
エネルギーを奪い 力が弱くなった彼女は もう脱出する気力もないだろう
わたしにも その方が都合がよいのだ
しかし 死んでしまっては元も子もないので 崇拝者たちが 必死で作った中庭の花達は
そういう思惑とは関係なしに 美しい花々で溢れている
ちょっとした花園になっているのだ
エネルギーをそこから補給する姫を見るために 今日も数十人の崇拝者が遠巻きに待っている
硬い表情で 心を失ってしまったリラの整った横顔を見ながら
これで 本当にいいのかと 思う時もある
だけど 私には もう彼女しかいない 決して あなたを手放したくない
若い女の 恐ろしい独占欲は こうしてリラを10年もの間雁字搦めにしているのだ




