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ニューダーク市 3番街17番地

廃教会 (マーガレット視点)


 崩れた天井から月明かりが差し込む礼拝堂の中、その青白い細く伸びた月光は、まるで天国への階段に見えた。

 その一番下、ホコリまみれだった安置台を白布で誤魔化した上に置いた棺の中に、ナースは横たわっている。

 アレンストリートを抜けられずに息を引き取った彼女を、私たちはこの教会に運んだ。

 旦那は警察無線で、搬送中に死亡した為に、近くの安置所(モルグ)へ運んだ事にしてくれた。

 というか、向こうはそれどころじゃない騒ぎになっていた。


「……お前さんらの調査結果を、匿名の通報っつう事で受理して、NDPD(ニューダーク市警察)の分署を4つも跨いでの大捕物だった訳だが。『商品』を卸してた元凶を取っ捕まえる前に、急に捜査が打ち切られた」

「……ホナーオールからの圧力、ですか?」

「名前は出なかったがな。唯一の手がかりだった、議長の名前を漏らした競売人の男も『流れ弾』に当たって現場で死んじまった」


 八分署の旦那は瓦礫にもたれかかり、遠くを見つめながら吐き捨てた。

 それでも、私ははっきりと聞いた。

 

「『何でここに?ホナーオール議長は何を?』。私は確かに聴いたわ。あの闇市場、ホナーオールがお目こぼしさせてたのよ。……標的の1人で間違いないわ」

「で、マギーとナースを闇市場へ連れて行ったのは、ドート・カニンガムと、マット・フィリング。カニンガムの方は、フィリングに射殺された。昔はMACD(マックディー)の研究員で、今は大物の汚れ仕事を請け負う何でも屋だ。手榴弾もソイツだろうね」

「そして、フィリング達に子どもを売らせて居たのは、グレー・ロッド。彼女の牛耳る『クリス・ローズ教育保護機関』そのものが、最初から人身売買の隠れ蓑になっていた訳です」


 それぞれが日中のうちに集めた情報が出揃った。

 今回の目標は3人。自治議会の長ニコラ・ホナーオール、保護機関責任者グレー・ロッド、そして密売人マット・フィリング。

 

「……さて、誰がどれをやるんかね?今回は1人、お留守番だよ」


 黒衣の尼僧の姿をした、異界の邪神ボティシアは、ナースの財布から取り出した紙幣と小銭を献金盆の上に3等分しながら問いかける。


「マギーを留守番に。病み上がりな上に、オークションハウスで能力を使いすぎてます」

「……」

「睨んでもダメですよ。せっかく元の身体に戻りかけてるんです。ここでまた能力を使い過ぎたら、全部やり直しですよ?」

「そうそう。それに……お嬢はナースと一緒に居てやりな。何でも屋の野郎は俺が貰う。手榴弾の借り、熨斗(のし)つきで返してやる」


 100ドルと数セントを掴み取り、レンが一番手として出ていった。


「……」


 八分署の旦那は、無言で頼み料を取っていった。

 長い付き合いだから、標的はホナーオールだな、と察した。

 最後には、ビアンと私が残った。

 

「では、私はミス・グレー・ロッドですね。他人様(ひとさま)をDV加害者呼ばわりしたんですから、その報いを……」


 そう言いながら、頼み料に手を伸ばすビアンを、私は全力で殴り飛ばした。


ゴッ、……ドーーン


 ビアンは石柱に叩きつけられ、白目を剥いて倒れた。


「ちょいとマギー、これ以上建物を壊さないでおくれよ。住み辛くなるじゃないか」


 ボティシアは文句を言うが、こっちの意図は察してくれてるらしい。献金盆をこちらに向けてくれた。

 元に戻った手で、残る頼み料をつかみ取る。


「……ごめんなさい、ビアン。でもあのババアだけは、私が捻り潰さないと気が済まないの」

 

 私は祭壇に近寄り、冷たくなったナースの頬に触れる。


「……戻ってきたら、アイスクリームのキッチンカーを探して、お墓の側に置いてあげる。それで我慢してね」


 この身体になってから、久しぶりに出来た友達だった。

 彼女の為にも、この『仕事』は私がやる。


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