落札〜winning bid〜
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数分後
オークション会場 控室
足を引きずりながら追いかけた先は、初めに私たちが連れてこられたのとは別の控室だった。
半開きになった扉の向こうから、口論が聴こえてくる。
ーどういう事だフィリング!なぜ警察が摘発なんか……ー
ー俺が知るかっ!とにかく逃げるぞ!あのミュータントが追いつく前に。このガキも邪魔だ、置いていくぞー
ー駄目だ!そいつは貴重な臓器だ!娘のためにも絶対に連れて……(パンパン……ドサッ!)ー
中から2発の銃声が聴こえ、私は咄嗟に身体を伏せた。
ーバカがっ、引き際を弁えろ……おいガキ、良かったな、テメェは助かる。だが最後に一仕事してもらうぞー
ーぐっ、この人でなし!離せよ、がぁ!?ー
「ナース!?」
ゆっくりと扉の陰から確認すると、ナースの臓器を狙っていた紳士は頭が半分なくなって床に斃れ、ナースはその側で、フィリングによって椅子に縛り付けられていた。
私の気配を察したのか、フィリングが叫ぶ。
「おい、ミュータント!てめぇのダチは返してやる。だから俺が出ていくまでそこから動くな!」
「くそっ、マギー!こんなやつ、オレに構わずぶっ潰せ!」
ナースがガタガタと椅子を揺らし抵抗している間に、フィリングは私がいるのとは反対のドアへと消えた。
数拍まってから、私はゆっくりと部屋に入る。
意外にも、ナースは自力で縄を切り、拘束から逃れていた。
私は警戒心を忘れ、彼女に抱きついた。
「ナース!どうやったのよソレ?……良かった無事で」
「野郎、慌ててたから結びが雑だったんだよ。ついでに、連れてこられる間に、奴の懐から財布もくすねてやった」
年季の入った皮財布を袖口から取り出し、ナースは笑みを見せた。
「もう、そんなことしてる場合じゃないでしょ。……早く出ましょう。八分署の旦那、私の知り合いの警官も来てたから、一緒に保護して貰いましょう」
その時、背後から慌ただしい足音と、私を呼ぶ声が聴こえてきた。
ーマギー!どこです!?ー
ー先生、GPSはそこの部屋だ!ー
ドタバタと駆け込んできたのは、私のウィッグに付いた発信機を辿ってきたビアンとレンだった。
家族と仲間の顔を見て、私もナースも、ホッと胸を撫で下ろした。
……けれど、私の背後をみたレンが、目を見開いて叫んだ。
「グレネード!みんな外へ!!」
「えっ…」
そこから先は、時間の流れが遅くなった。
後ろを振り向きかけた私の襟元をレンが掴み、私は仰け反った姿勢で前の方へと引っ張られた。
両腕を伸ばしたビアンがすれ違い、ナースを掴んで引き倒すと、その上に覆いかぶさる。
「ビアッ、ナー……!」
叫ぼうとした瞬間、私は部屋の外へと投げ出され、外の廊下に倒れたレンが、足でドアを蹴り閉めた。
そして……
ーダガーーンッ!ー
雷が落ちたような轟音と振動が部屋の中から届き、ドアの隙間から白煙が漏れ出た。
「あっ……ビアン!ナース!」
「くそっ、先生!」
レンと先を競うようにドアに飛びつき、2人でこじ開ける。
噴き出てくる白煙の億に、背中に破片を浴びたビアンの姿が見えた。
「ビアンッ!」
煙を吸うのも気にせず、私たちは部屋に飛び込みビアンを助け起こした。
「ゲホッ、マギー、そんなに叫ばなくても、私は死ねない身体ですよ……この程度……カハッ」
喀血しながらも、またたく間に背中から破片が抜け落ちていくビアンに、私もレンもホッとした。
でもすぐに、ナースの声が聞こえてこない事に気づく。
「……ナース?」
「すみません、マギー。破片全部は、防ぎきれませんでした」
言いながらビアンは、医者としての顔になり、床に散らばる破片をナイフがわりに、無言で横たわるナースのドレスを割いた。
脇腹に1つ、手のひらサイズの金属片が刺さっていた。
「ナース!?」
「肝臓まで届いてますね。急いで処置しても、良くて五分五分です」
冷静に、けれど悔しげにビアンは告げる。
何が五分か、皆まで言われずとも判ってしまった。
すると、ナースの口が動いた。
「っ…、た……、お……三……きょ……」
「ナース!しゃべらなくて良い!……レン!」
「解ってる!……あの天井のパネル!アレ使おう!」
爆発で床に落ちた天井の破片が、担架としてちょうど良い大きさだった。
レンがソレを引きずってきて、ビアンと2人でナースを上に乗せた。
そして三人で彼女を担ぎ、建物の外へと走った。
その間に、レンが無線機を腰のポーチから出して叫んだ。
「旦那!負傷者1人!犯人が手榴弾を使って、腹に破片を食らった!救急車を表へ!」
『さっきの爆音はソレかい!?外道が。……表にはSWATの車がある。ソレに乗せる方が早い!』
「わかりました扉を開けて待ってて!」
旦那との通信が終わるのを待って、私はナースに声をかける。
「ナース!助からね。絶対に助けるからね!」
すると、ナースは掠れた声で、けれどはっきりと聴こえる強さで、私たちに乞うた。
「良い、もう無理だって、解ってる。だから、連れて行ってくれ……3番街の、廃、教会……」
「え……」
「はっ、ありがてぇ話だが、行くのは助かってからにしてくれや、ナース嬢ちゃんよぉ……」
レンは励ます様に言い返すと、ちょうどたどり着いたエントランスの木製扉を蹴り開ける。
外の光で一瞬目が眩んだけれど、目の前で私たちを待ち構えていた装甲車の後部へと4人でなだれ込んだ。
「乗ったか!?出すぞ!」
レンとビアンがドアを閉めるやいなや、運転席に座っていた旦那が叫び、車両が動き出す。
私は息吐く間もなく、車内にあった救急キットをビアンに渡し、ナースに告げる。
「ナース!しっかりね。3番街の教会には、あなたが自分で行くのよ!私たちじゃ代理は無理だからね!」
「っ、おいおい、縁起でもねぇ名前を出すんじゃねぇや」
運転席から旦那が釘を刺してくるが、後ろの3人は言い返す余裕が無い。
レンはビアンの指示を受けながら、破片の周りに消毒液をぶっかけたり、クッションで破片が動かない様に固定するのを手伝ったりしている。
私はナースの手を握りながら、懸命に声をかけ続ける。
「だいたい、頼み料が無いでしょう?わた、イレイザーってかなりのボッタクリだからね、めっちゃふんだくられるからね」
「それ、でも……今いかねぇと……無理だって……もう、目もかすんで……」
「駄目よ!ナース駄目!……旦那っ、病院まで何分!?」
「どんだけ飛ばしても10分!対応可能なのはベルビューだけなんでな。今はアレンストリートを北上中だ。……廃教会は、途中で前を通る」
重苦しい空気が、車内に広がる。
ビアンもレンも口を閉じて、ナースの嘆願だけが聞こえる。
「頼むよ、マギー。あのフィリングって野郎に、オレらを売ったグレー・ロッドって婆ぁと、あいつらをのさばらせた奴を……オレの、代わりに……これで……」
ナースは私の手を解いて、フィリングから擦りとった財布を、自分の胸元へ置く。
「……わかった。頼まれてあげるから。だから頑張って!ナーサリー!ナーサリー・ライネス!」
「ははっ、その苗字、変えて欲しかったなぁ……。あと、さっき言い損ねてた。オレが死んだら……アイスクリーム屋の近くの所……に……」
……ナース、ナーサリーの目から、光が、消えた。




