オークション・オブ・ザ・オーク
ニューダーク市某所
闇市場のオークション会場 マーガレット視点
私とナースは、舞台袖へと連れて来られた。
『競り』はもう始まっているようで、舞台上にはガラスケースが1つ、青紫のライトと客たちの視線を浴びていた。
『続きましては、「健康な肝臓」。ドナーは24歳男性、金融街の某証券会社勤務、健康状態は極めて良好。摘出前に睡眠薬入りマティーニを摂取していますが、安全性は提供元である「Bar Prometheus」が保証します。では、3000万ドルから……』
ガラスケースの中身はナニカの溶液、その中央に神経に電極が繋がれた肝臓丸ごとが浮いていた。
どうやら、運の悪いサラリーマンが、臓器バイヤーが罠を張った飲み屋に入ってしまい、肝臓を抜かれたらしい。
と、嫌悪しながら眺めていると、価格の単位が万から億に釣り上がり、最後は6億ドルで顔色の悪い貴婦人に落札された。
肝臓が私たちとは反対の舞台袖に引き下げられ、落札者も席を立った。
「さぁ、次はてめぇだ『ミュータント』。さっさと壇上に行け!大人しくしねぇとコッチが早死にするぜ。臓器の摘出は頭が無くても問題ねぇからな」
用心棒はナースに銃を突きつけながら、私を急かした。
仕方なく、私は言われた通りに壇上へ進む。
競売人は、私の情報が載ってるらしい書類を受け取ると、さっきよりも張り切ってマイクを掴んだ。
『続きましては、本日の目玉!「人間のオーク変異体」!身体中の細胞を可逆的に変異させるだけでなく、治癒能力も無尽蔵!』
会場からは半信半疑の声が聴こえてくる。
逆光でよく見えないけれど、円卓がいくつかと2階のバルコニー席から、数十人の客が私を値踏みしていた。
そこから浴びせられる疑念に競売人は応える。
『皆様のお疑いはごもっとも。数年前に某研究所から報告1件挙がっただけの都市伝説、「MACD」による人間の変異、その生き証人が見つかったのです。では出品者のMr.フィリング。証拠を見せてください。皆様!実演です!!』
パンパン!
競売人が促すと同時に、用心棒ことフィリングが、ナースに向けていた銃で私を撃った。
最初に右肩、次に左膝を撃ち抜かれる。
「あああぁっ!?このっ、####!ぶっ殺シてヤルゥゥ!」
木板の床に倒れた私は、しかしすぐに無事な方の手と足で起き上がり、撃たれた方も治癒しながら黄緑色で筋肉質な姿に変異させ、フィリングへ向けて飛びかかろうとする。
でも、一歩目を踏み出した瞬間、床に模様が浮き上がった。
バチバチバチバチ!
「ガァァァ!?……ゴレバ、まザか…、スタントラップ!?」
紫色の細い閃光が跳ね回り、全身が一気に痺れる。
脱力させられた身体は元に戻り、私はジャリジャリした床に倒れ伏す。
床に魔法陣を描いて、任意のタイミングで電気ショックを与える罠『スタントラップ』。私が入れられた研究所のあちこちに仕掛けられていた物と同じだった。
『み、皆様!ご覧いただけたでしょうか!?コレがオーク変異体です!そしてご心配なく。万が一暴れても、この通り電撃により制圧できます』
「……設置は違法でしょうに!」
「ここは闇市場だぞ?法なんざ無意味だ」
フィリングは舞台袖から満足そうに告げた。
そして、私が麻痺で動けないまま、入札が始まる。
ー5億!ー
ー5億6千万!ー
ー7億1千万!!ー
ー7億9千万、いや8億5千万!ー
ー9億!ー
さっきの肝臓よりも早く、値段は釣り上がっていく。
「あんたら……覚えてなさいよ……標的に決まったら、一人残らず私が……」
他人様の命で熱狂する客たちの有り様に、反吐が出そうになる。
そいつらの顔を目に焼き付けようと、逆光をこらえて座席の方を見ようとして……気づいた。
「あれ?ライトが弱まってる?……違う、誰かがあそこに立って……」
私を真正面から照らしていた照明が、人影に遮られている。けれど左右から射す他のライトに紛らわされ、競売人や客は気付いていない。
「まさか……」
予感は当たった。人影が何かポーズ、片手を顔に近づける仕草をした、その数拍後、会場の扉が、一斉にこじ開けられた。
『NDPD!全員床に伏せろ』
『誘拐、殺人、違法な臓器売買の容疑で逮捕する!』
『お前たちには黙秘権がある。お前たちの証言は法定で不利な証拠となる場合が……』
黒いヘルメットと防弾チョッキ、そして小銃で武装した警官隊がなだれ込んできた。
同時に私を照らしていた照明も全て落とされ、さっきの人影の正体が見えた。
ヨレヨレのトレンチコートを着て、ジャーキーを口に加えた初老の男、モンド・ミッドビレッジだ。
『な、何でここに?ホナーオール議長は何を!?』
競売人は慌てふためき、口にすべきで無かった名前を漏らした。
……やっぱり、標的の1人は新米議長だったのね。
客の何人かが、お馬鹿な事に手持ちの銃で反撃を試み、場内は一瞬でバトルフィールドに変わった。
双方の流れ弾が壁や天井に跳ね返り、可哀想な客やスタッフに当たる。もうシッチャカメッチャカね。
そんなゴタゴタの中でトラップも解除され、紫色の電撃が止んだ。
すると、舞台袖からナースの悲鳴が挙がった。
「マギー!クソ野郎がにげっむぐ!?」
「黙ってろ!ミンチにされるなら一緒だ!」
フィリングの奴が、マギーをヘッドロックして引きずりながら、控室の方へ逃げようとしていた。
「ナース!……このっ、早く回復しなさいよ……」
トラップは消えても麻痺が残った身体を無理に持ち上げ、私は2人を追いかけた。




