まぁ、そうなるんじゃ……?
『魔の薬。
香に、あるいは直接肌に塗り込み、王族や貴族、富裕層が主に媚薬として使っている。
万が一、手に入れる機会があっても、興味本位で使用するなかれ。
決して良い夢ばかりが見られるとは、思わない事だ。
幻聴・幻覚に悩まされ、狂い、廃人となった果てに……』
新聞記事に、何度か取り上げた事がある。
しかし撲滅は難しいだろう、とウィプは冷めた事をちらり思った。
「男色疑惑で、身分差を出したのがマズかったかもな。金を落とさない下の人間が、薬でどうなろうが構わないと思っている、お偉いさんがいるのは確かだ。
たぶんこの媚薬で王子の遊び相手がどうなろうが、その場合に王子だって特に思う事はないはず……って、おい。さっきの顔に戻れ、ロス」
殺気を身にまとい、立ち上がろうとするルデュロスの裾を掴んで引き摺り下ろし、膝の上に座り込んだウィプは、再び頭を何度か撫でる。
「どういう仕組みになっているか謎なロスの勘って、便利だよな。ほら、ロスもオレに触りたかったら、触っていいぞ……ぎゃあ、痛ぇッ」
ぎゅーぎゅーと絞め殺されそうになったウィプは、悲鳴を上げる。
おかげでほんの少し抱き込む力は弱くなったが、見えなくなったルデュロスの表情は、ウィプが望む萌え顔にはまだ程遠いに違いない。
「ロスはちゃんとオレに使っていいか、聞いてきただろ? むしろそっちが一般的じゃないんだけど。だからオレは、ロスを褒めてやる」
ルデュロスは無言だ。
「というか、ロス。王太子の駒はお前の隙を作ろうと、逆にロスへ媚薬を使って来るかもよ。オレも目的が違ってたら、そうやってロスを堕とそうとしてたかもなぁ?」
何か1つ過去が違い、ウィプが暗殺者のまま過ごしていれば、新聞記者としてではなく、狙う者・狙われる者として2人は会っていたかも知れない。
「そうだった時にロスはオレが、そうだ、と気が付けたか? ほら、返事しろ」
「……私には謎な勘があるから、気付く」
その答えにウィプは笑った。
「たぶんオレは気付けない」
「……」
2人の隙間が開いて、拗ねたルデュロスがウィプの前に現れる。
「ロス。オレに媚薬を使ってみたいって話だけどな」
「その話は、もう……」
「まぁ、聞け。オレ気持ちいい事は好きだし、使ってもいいぞ。量や体に害が少ないのを選べばいいだけだ。痛みを和らげる為に、医療でも使われてるしな」
ウィプがそう言えば、ルデュロスは何とも言えない顔をする。
「あ、誤解すんなよ。今でも十分、ロスとは気持ちいい」
「本当に?」
体の状態は誤魔化しようがないだろうがと、不安そうなルデュロスにウィプは頷いた。
「経験値だけは、どうしようもないからなぁ。……そうだな、後3、40年もしたら、若い悩みだった、とか笑い話に出来るんじゃないか?」
「3、40年?」
その数字はどこから? と、ルデュロスは不思議そうである。
「平均寿命がそれくらいだろ? ロスとは一生のお付き合いになるんじゃないかと、オレは思ってるんだけど、なぁ?」
「……っ」
これは事実上のプロポーズか?
たぶんそう取ったであろうルデュロスが、熱烈にウィプの唇を求めて来る。
媚薬で気持ちよくなるのは、いい。
でも媚薬で、ルデュロスと一緒にいる事が、心地好いと感じる心を失いたくない。
誓いのキスにしては深過ぎるそれに応えながら、ウィプは思った。




