第六話「隠された罪」2 突然の死
翌朝、城が騒がしかった。
使用人たちが、廊下でひそひそと話している。
「城下町で、死者が出たらしい」
「商店の主人だって」
「突然、倒れたそうよ」
私は、朝食の準備をしながら聞いていた。
(また、事件...?)
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午前中、トーマス様が伯爵様の執務室に入っていった。
しばらくして、伯爵様が奥方様のお部屋にやってきた。
「テレーゼ」
「どうなさいました?」
奥方様が、本を閉じた。
「城下町で、死者が出た」
伯爵様は、険しい顔をしていた。
「商店の主人が、昨夜突然亡くなったそうだ」
「病気、ですか?」
「分からない。トーマスに調べさせた」
伯爵様は、続けた。
「医師にも診てもらったが、原因が分からないと言っている」
「夕食を食べた後、急に倒れたそうだ」
奥方様は、少し考え込んだ。
「詳しくお聞きしたいですわ」
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しばらくして、トーマス様が奥方様のお部屋に来た。
「奥方様、お呼びでしょうか」
「はい。現場の様子を教えていただけますか?」
トーマス様は、報告した。
「商店の主人は、昨夜の夕食後に倒れました」
「家族が慌てて医師を呼びましたが、すでに...」
「医師の見立ては?」
「毒か、急な病かもしれないが、はっきりしないと」
奥方様は、頷いた。
「現場の台所は、どのような様子でしたか?」
「えっと...」
トーマス様は、少し困った顔をした。
「普通の台所でした。特に変わったことは...」
「棚には、何がありましたか?」
「...すみません、よく見ていませんでした」
奥方様は、優しく微笑んだ。
「そうですか」
そして、私を見た。
「アンナ、お願いできますか?」
「はい」
「現場の台所に行って、詳しく見てきてください」
奥方様は、静かに言った。
「何があるか、全て記録してください」
「特に、瓶や容器のラベルをよく読んでください」
私は、頷いた。
「かしこまりました」
(奥方様は、何か気づいているのだろうか)
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トーマス様と一緒に、城下町の商店に向かった。
商店は、普通の食料品店だった。店の者が、私たちを迎えてくれた。
「騎士様、また何か?」
「ああ。こちらのアンナが、台所を見せてほしいと」
「台所を...?」
店の者は、不思議そうな顔をした。でも、案内してくれた。
台所に入る。
普通の台所だった。
でも、私は奥方様の指示を思い出した。
(詳しく見て、全て記録する)
私は、棚を一つ一つ確認し始めた。
小麦粉。
塩。
香辛料。
砂糖。
それぞれをメモに書き留めていく。
トーマス様が、不思議そうに見ていた。
「アンナ、何を探しているんだ?」
「分かりません。でも、奥方様が何か気づかれているのかもしれません」
私は、さらに棚を調べた。
そして、小さな瓶を見つけた。
手に取る。
ラベルを読む。
「アーモンド水」
私は、眉をひそめた。
(アーモンド水...?)
確か、これは化粧水のはずだ。
(なぜ、台所に?)
私は、その瓶をメモに詳しく記録した。
他にも、気づいたことを全て書いた。
料理に使われた鍋。
皿。
残っていた食材。
全て。
「何か見つかったか?」
トーマス様が聞いた。
「分かりません。でも、奥方様が見れば分かるかもしれません」
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城に戻ると、すぐに奥方様のお部屋に行った。
「ただいま戻りました、奥方様」
「お疲れ様。どうでしたか?」
私は、詳細なメモを渡した。
奥方様は、メモを読んだ。
そして、ある部分で止まった。
「...アーモンド水」
奥方様の顔色が、変わった。
「何か問題がありますか?」
私が聞くと、奥方様は真剣な顔で言った。
「アンナ、その瓶を持って帰ってきましたか?」
「いえ、そこまでは...」
「トーマス様に頼んで、持ってきてもらってください」
奥方様の声は、緊張していた。
「すぐに」
私は、急いでトーマス様を探しに行った。
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その日の夕方、トーマス様がアーモンド水の瓶を持って帰ってきた。
奥方様は、瓶を慎重に調べた。
ラベルを読み、中身の匂いを嗅ぎ、色を確認した。
そして、深く息をついた。
「やはり...」
伯爵様も同席していた。
「何か分かったのか?」
「これは、化粧水です」
奥方様は、瓶を見せた。
「アーモンド水。美容に使うものです」
「それが、台所にあった?」
「ええ」
奥方様は続けた。
「でも、台所にあるべきは、アーモンドミルクです」
「アーモンドミルク?」
「料理に使う材料です」
奥方様は、説明した。
「名前が似ています。でも、全く違うものです」
「どう違うのだ」
「アーモンドミルクは、甘扁桃から作ります。無害です」
奥方様は、瓶を見つめた。
「でも、アーモンド水は、苦扁桃を含むことがあります」
「そして...毒性があります」
私は、息を呑んだ。
「毒...?」
「青酸配糖体という毒です」
奥方様は、静かに言った。
「飲めば、死に至ることもあります」
部屋に、重い沈黙が落ちた。
ここで描かれる「アーモンド水」は実際の中世欧州で使われた化粧水です。現在のアーモンドミルクとは、別のものでアーモンドミルクに毒性はありません




