第五話「街道の影」5 影を追って
伯爵様は、すぐに動いた。
信頼できる騎士に、密かにトーマスを監視するよう命じた。トーマス自身には、知らせなかった。警戒されないためだ。
数日間、何も起きなかった。
そして、ある日の夕方。
---
酒場の前。
監視役の騎士が、物陰から見ていた。
トーマスが、酒場から出てくる。
その時、一人の男が近づいてきた。
旅商人風の身なり。大きな荷物を背負っている。
(あれが...!)
監視役は、息を潜めた。
「やあ、この前はありがとう」
旅商人が、トーマスに声をかけた。
「ああ...」
トーマスは、少し戸惑ったような顔をした。
「おかげで助かりました」
旅商人は、にこやかに言った。
「実は、また今週もあちこち回る用事がありまして」
「できれば、今週の巡回予定も...」
「いや、それは...」
トーマスが、ためらった。
「お願いしますよ」
旅商人の声が、少し低くなった。
「貸しは、まだ返してもらってませんから」
トーマスは、しばらく黙っていた。
そして、観念したように頷いた。
「...わかった」
小声で、何かを教えている。
旅商人は、満足そうに頷いた。
「ありがとうございます。助かります」
そして、街の方へ歩いていった。
監視役は、そっと後をつけた。
---
旅商人は、街を出た。
森へ続く道を、歩いていく。
監視役は、距離を保ちながら追った。
旅商人は、何度か後ろを確認した。警戒している。
監視役は、すぐに木の陰に隠れた。
旅商人は、さらに森の奥へと進んでいった。
木々が密集している。足音を立てないように、慎重に追う。
やがて、開けた場所に出た。
そこに、古い廃屋があった。
旅商人が、中に入っていく。
監視役は、そっと近づいて覗いた。
中に、複数の人影が見えた。男たちが、何かを話している。
(ここだ...!)
監視役は、急いで引き返した。
---
その夜、伯爵様の執務室。
「見つけました!」
監視役が、報告した。
「森の奥の廃屋です。複数の男たちがいました」
「よくやった」
伯爵様は、満足そうに頷いた。
奥方様も同席していた。地図を広げて、確認する。
「では、計算通りの場所でしたわね」
地図の中央、奥方様が最初に円を描いた場所に、廃屋はあった。
「すぐに捕縛の準備をする」
伯爵様は、立ち上がった。




