第五話「街道の影」4 カイザーの協力
それから数日後のこと。
私が廊下を歩いていると、若い騎士が駆け寄ってきた。
「アンナ!」
トーマスだった。
「ちょっと、お願いがあるんだけど」
「何でしょう?」
「実は...カイザーに触りたいんだ」
トーマスは、少し恥ずかしそうに言った。
「仲間と賭けをしていて、最初に触れた者が勝ち、っていう」
「でも、カイザーは奥方様以外にはなかなか触らせてくれないだろう?」
「アンナなら、何かコツを知ってるかなと思って」
私は、心の中で思った。
(良い機会だ...!)
「それなら、手伝いましょうか」
「本当?!ありがとう!」
トーマスは、とても嬉しそうだった。
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私は、すぐに奥方様のお部屋に行った。
「奥方様、トーマス様からカイザーに触りたいと頼まれました」
「そう...良い機会ですわね」
奥方様は、微笑んだ。
「カイザーと遊んでいる間なら、トーマスもリラックスして自然に話してくれるかもしれません」
「キャットニップを使わせていただけますか?」
奥方様は立ち上がって、棚に向かった。小さな袋を取り出す。
「これを使いなさい」
私は、袋を受け取った。
「これを使えば...」
「ええ。でも」
奥方様は、真剣な顔で言った。
「無理に聞き出そうとしないこと」
「トーマスが楽しそうに話し始めたら、さりげなく聞くのです」
「『最近、何か良いことありました?』くらいの、軽い調子で」
「はい、わかりました」
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翌日、中庭に若い騎士たちが、数人集まっている。
トーマスもいる。
「本当にカイザーに触れるのか?」
「アンナが手伝ってくれるって」
「おお!」
騎士たちは、期待に目を輝かせた。
カイザーが、中庭の隅で丸まっていた。白い毛並みが、陽の光を受けて輝いている。
私は、こっそりポケットからキャットニップの葉を取り出した。手のひらに少し乗せて、カイザーに近づく。
「カイザー」
カイザーが、ゆっくりと顔を上げた。
そして、匂いに気づいた。耳が、ぴくっと動く。
私の手に、鼻を近づけてくる。
くんくん。
そして、喉をごろごろ鳴らし始めた。
私の手に、頬を擦り付けてくる。
「すごい...!」
騎士たちが、小声で驚いた。
「トーマス様、どうぞ」
私が言うと、トーマスが恐る恐る手を伸ばした。
カイザーは、キャットニップに夢中だ。トーマスの手を、受け入れた。
ふわふわの毛並み。
「触れた...!触れたぞ!」
トーマスが、嬉しそうに叫んだ。
「おお〜!」
騎士たちから、喜びの声が上がった。
その後、皆でカイザーと遊んだ。
トーマスは、本当に嬉しそうだった。
カイザーも、キャットニップのおかげでご機嫌だった。私の膝の上で、ごろごろと喉を鳴らしている。
しばらくして、騎士たちが散っていった。
トーマスと私だけが、残った。
カイザーは、まだ私の膝の上にいる。
「良かったですね、トーマス様」
「ああ!ありがとう、アンナ」
トーマスは、満面の笑みだった。
「これで賭けに勝てる」
「賭け、お好きなんですか?」
私は、さりげなく聞いた。
「いや、普段はしないんだけどさ」
トーマスは、少し照れくさそうに言った。
「この前、酒場で面白いゲームがあって」
「ちょっとやってみたら、負けちゃって」
「まあ」
「でも、親切な旅商人が助けてくれたんだ」
トーマスは、嬉しそうに続けた。
「お金を貸してくれて」
「良い方ですね」
私は、心の中では緊張していた。でも、笑顔を保った。
「そうなんだ。それでさ」
トーマスは、少し声を潜めた。
「この前、また会ってさ」
「『娼館の帰りに職務質問されたくないから、巡回時間を教えてくれ』って頼まれて」
私は、息を呑んだ。
(やはり...!)
「恩もあるし、今日だけならって思って...」
トーマスは、何も悪いことをしているとは思っていないようだった。
「...そうなんですか」
私は、笑顔を保ちながら答えた。
「変な顔するなよ。別に悪いことじゃないだろう?」
トーマスが、少し心配そうに言った。
「ええ、そうですね」
(でも、これは...)
(すぐに、奥方様に報告しなければ)
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その夜、私は奥方様に報告した。
「トーマス様から、聞き出せました」
詳しく話す。
奥方様は、静かに聞いていた。
「やはり...」
「『娼館の帰りに職務質問されたくない』という理由で、巡回時間を聞き出していたのですね」
奥方様は、少し悲しそうな顔をした。
「よく聞き出してくれました、アンナ」
「カイザーと、キャットニップのおかげです」
「カイザーは、良い仕事をしてくれましたわね」
奥方様は、微笑んだ。
そして、少し考えてから言った。
「その賭け、どんなゲームでしたか?」
「石を並べて、交互に取る、と」
「...!それは」
奥方様は、立ち上がった。机から紙と、小さな石を取り出す。
「やってみましょう」
奥方様は、石を15個並べた。
「自分の番には必ず一つ以上三つ以下の石をとるがルールです。私が後攻で、必ず勝ちます」
私は、不思議に思いながら石を取った。2個。
奥方様は、2個取った。
私は、1個取った。
奥方様は、3個取った。
私は、3個取った。
奥方様は、1個取った。
気がつくと、残りは3個になっていた。
私が何個取っても、最後の1個を取らざるを得ない。
「あ...!」
「常に、合計で4個ずつ減るように取ります」
奥方様は、静かに説明した。
「15、11、7、3...」
「知っている人は、勝つことも負けることも自由にできるのです」
「つまり、その旅商人は、わざとトーマスを負けさせたのですか!」
私は、驚いた。
「最初は勝たせて、信頼させる。そして、賭け金を上げさせて、負けさせる」
奥方様は続けた。
「恩を売って、情報を聞き出す。巧妙な手口です」
私は、トーマス様が騙されたのだと知って、胸が痛んだ。
「では、監視をつけましょう」
奥方様は、決然と言った。
「その旅商人が再び接触してくるかもしれません」
「その時、後をつけてアジトを見つけるのです」




