第五話「街道の影」3 騎士の秘密
翌日。
奥方様は、私を呼んだ。
「アンナ、お願いがあるのです」
「はい」
「騎士たちの様子を、さりげなく見ていてほしいの」
奥方様は、静かに言った。
「誰か、怪しい人物と接触していないか」
「何か困っていることはないか」
「でも」
奥方様は続けた。
「尋問のようにしてはいけません。自然に、さりげなく」
私は頷いた。
「わかりました」
奥方様を信じて、やってみようと思った。
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私は、城内で騎士たちの様子を観察し始めた。
訓練場で、剣の稽古をしている様子。
食堂で、食事をしている様子。
廊下で、雑談をしている様子。
でも、特に変わったことはなかった。皆、いつも通りに見えた。
ある日の午後、若い騎士たちが、私の少し先で雑談をしている。
「なあ、カイザーに触った奴いるか?」
「無理だろう、あの猫は気難しい」
「俺、この前触ったぞ」
「嘘だろ!?」
「本当だって。賭けに勝ったんだ」
私は、そのまま通り過ぎた。
(カイザー...奥方様の猫)
カイザーは、確かに奥方様以外にはあまり懐かない。
でも、キャットニップを使えば...
そんなことを考えながら、歩いていた。
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数日後、私は食堂でお茶を運んでいた。
若い騎士たちが、テーブルで話している。
「トーマス、この前何か良いことあったのか?機嫌良いな」
「ああ、実はさ」
トーマスという騎士が、嬉しそうに話していた。
「この前、酒場で面白いゲームがあってさ」
「へえ、どんな?」
「石を並べて、交互に取るっていう」
「で、どうなった?」
「最初は勝ったんだ。でも、調子に乗って賭け金を上げたら、負けちゃってさ」
トーマスは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、親切な旅商人がいて、お金を貸してくれたんだ」
「良い人だな」
「そうなんだ。助かったよ」
私は、お茶を運びながら聞いていた。
(賭博...?)
その時は、深く考えなかった。ただの雑談に聞こえた。
でも、念のため、奥方様に報告しようと思った。
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その夜、奥方様のお部屋で報告した。
「トーマス様が、賭博で親切な旅商人に助けてもらったと話していました」
奥方様は、本から顔を上げた。
「...!」
奥方様の表情が、変わった。
「詳しく聞かせてください」
私は、聞いた話を全部伝えた。
奥方様は、しばらく考え込んでいた。
「なるほど...」
「もしかすると、その『親切な旅商人』が街に潜む盗賊の仲間かもしれません」
「え?」
「賭博で助けて、恩を売る。そして、情報を聞き出す」
奥方様は、静かに説明した。
「よくある手口です」
私は、驚いた。
(あの何気ない会話が...)
「でも、確証はありません」
奥方様は続けた。
「トーマスに直接尋問すれば早いのですが、それでは警戒されてしまいます」
「こっそり、さりげなく話を聞き出す必要があります」
「私が...話してみましょうか?」
「お願いできますか?」
奥方様は、優しく微笑んだ。
「でも、無理に聞き出そうとしてはいけません」
「トーマスがリラックスして、自然に話してくれる状況を作るのです」
私は頷いた。
「はい」
(でも、どうやって...?)




